【どうするべきなのか(What should I do?)】
ダーリンは本当に私に優しい。
こうしてベッドで一緒に寝ているだけでも、充分にその優しさを感じることが出来る。
ダーリンは今日の事、……病院の帰りに私が襲われた件については、一言も話さなかった。
そして私を助ける時も、まるでレジャーランドのアトラクションを楽しむように、終始愉快な雰囲気で救助してくれた。
しかしもし私がヘマをしたら……そう考えると私の心は、いたたまれなくなってくる。
私を襲った奴らの目的は、私ではなくジョージ・クラウチ博士であることは明らか。
アダム・クラインが開発したメガスーツはシーナとの戦いで、原型どころか部品構成さえも判別できないほど燃え尽きてしまった。
残っているのは、隊員が撮影した動画だけだが、その動画を見る限りズバ抜けた機動力と戦闘力を有していたことは軍関係者でなくとも誰だってわかる。
天才アダム・クライン渾身の1機。
しかしその彼はシーナとの戦いに敗れ、一瞬で電気系統が駄目になり熱暴走するメガスーツのコクピットの中に取り残され、シーナに救助してもらうまでの僅かな時間に精神が崩壊してしまった。
彼はこのメガスーツの開発にあたり、情報が漏れることを危惧して、全ての情報を1台のパソコンでのみ管理していたとされていて、おそらくそのパソコンもメガスーツと共に燃えたはず。
つまり軍事的な世紀の大発明も、もう動画の世界でしか見られない。
一部の軍関係者や軍事企業の関係者は、その後その動画を元に様々な研究者や科学者にメガスーツの再現を依頼して回ったが、誰からも今の科学では実現は困難だろうと否定されたと聞いている。
そこで彼らは、真剣に今、ジョージ・クラウチ博士を探している。
直ぐに再現できるのは彼しかいないから。
ダーリンは今まで居場所を特定されないように上手くやっていた。
しかし、今回は違う。
意識不明の孫娘シーナがニューヨークの病院に居て、謎の女……つまり私が、まるで家族のように毎日見舞いに行っている。
私はモルドバ出身のコーネリア・クリスティ―として、ニュージャージーで移民手続きは完了しているが、それも全部ジョージがハッキングして割り込ませた偽の住民登録。
ニュージャージーで嘘がバレなくてもモルドバで調べれば、家族との連絡がつかない事で必ず怪しまれるはず。
街の探偵レベルなら騙せても、国家を騙しとおすことは難しい。
今日、私を襲って来た奴等は恐らくNSA(アメリカ国家安全保障局)、おそらくCIA(中央情報局)も私に目をつけているはず。
ビアンキが私に直接電話をしなかった訳も、私の電話番号が奴らに漏れることを警戒しての事だろう。
私がシーナを見舞いに行くことで、ダーリンを危険に晒している……私は一体どうすれば良いのだろうか。
「好きにすればいい」
「!?」
寝ているはずのダーリンが言った。
「好きにすれば良いって言っても、アナタが一番嫌いな、巻き込まれる事になるのよ! それでも良いの!??」
私の問いかけに、ただ“いびき”を返すだけだった。
“寝言だったの??”
朝起きて朝食を食べながら昨夜一人で考えていたことを話すと、夜中に聞いたときと同じように「好きにすればいい」とだけ言った。
「でも今回は国家の組織が躍起になって動いているのよ! CIA、NSAだけじゃなく、もしかしたらFBIやMIC(陸軍軍事情報部)、ONI(海軍情報部)そればかりかCSIS(カナダ安全情報局)などの外国の諜報機関もアナタを狙っているかも知れないのよ!」
「知っている。だがもし捕まったとしても、協力するかしないかは、ワシの判断に委ねられている」
「その判断をするときに、私が人質に取られていたら、どうするの!??」
「そ、それはヤルしかないだろうな……」
「シーナさんとの約束は、どうするの!??」
「……」
「シーナさんは意識を失う前に、アナタに武器になるようなものは作らないようにと約束させましたよね! それを反故にすると言うの!?」
「……」
「そんなことしたら、シーナさん本当に死んじゃうよ」
「……すまない。でも、どうすれば良い?」
「考えましょう。一緒に」
「ああ」