【狙われたコーネリア③(Cornelia is the target)】
「やはり、ここに居たのか……」
携帯電話のアラーム音を慌てて切ったあと目の前に黒い革靴が現れ、男たちが私を取り囲んでいた。
屈んでいた姿勢から見上げると、眼の前に居る男は、腕を組み睨むように私を見降ろしている。
腰を突き出すようにした仁王立ちの姿は、よく見るとズボンのチャックが空いていて、まるで“お〇ん〇んを咥えろ!”と言わんばかりの体勢に見えなくもない。
もしもココで私がコイツの“お〇ん〇ん”を咥えたとしたら、逃がしてくれるのかな??
ってか、コイツの“ふにゃ〇ん”なんかに興味はない!
私が求めるのはジョージの熱く硬い塊!
強烈に痛いのは良く分かる。
そしてその痛みが地獄のように長く続くことも。
可愛そうにも思うが、折角もらったチャンスを逃すほど、私には余裕がない。
床にヘタり込んだ姿勢から素早く後ろに1回転するタイミングで、私は足の甲を延ばしてチャックの空いた少し下の部分を蹴り上げる。
「Ou‼」
意外に短く小さな声を上げ、男が蹲る。
これで当分この男は役に立たない。
残りは2人。
ヤンボーに攻撃の指示をするが、対象者を指定する余裕はなかった。
運転手が弱いのは、さっきの顔合わせでの対決で既に分かっているので、どうか運転手では無いほうをお願いします!
私も格闘技の練習はしているけれど、シーナのように合気道や空手などの武術に長けているわけではないので、本格的な相手と戦える能力はない。
シーナならどんな屈強な男でも、ブン投げて倒してしまうだろう。
なにしろアノ屈強な特殊部隊CCSで道場主とまで呼ばれて恐れられていて、たった一人で体高4メートルもあるメガスーツと戦って倒した女性なのだから。
自分の身の危険を感じなければいけない時なのに、ついついシーナのことを考えてしまい、案の定ディフェンスが疎かになり敵のハイキックに腕のガードがもって行かれた。
この状態で次をもらえばダウンは必至。
だから私はもって行かれた腕と一緒に体ごと吹き飛ぶことで、敵との距離を開けた。
飛び退いたときに、私の顔面すれすれのところを黒い靴の踵が凄い勢いで回って行った。
危機一髪!
それにしてもレディーの顔面を靴の踵で狙うなんて、この男なにか女性に恨みでもあったの?
我ながら上手く避けた。と思いきや、自らの戦場観察眼が乏しくて、回り込んでいた運転手にまんまとバックを取られて羽交い絞めにされてしまった。
“ヤバイ‼”
羽交い絞めされた力が弱まったが、直ぐにさっきから私を攻撃していた男の後ろ蹴りが襲ってきた。
“避けられない‼”
そのとき微かにカサカサという羽の羽ばたく音が聞こえた。
ヤンボーのAIが、私のピンチを悟って守ってくれる。
ヤンボー、この運転手の男を刺して!
私の願いが届いたのか、少しでもダメージを少なくしようとして屈もうとした時、ヤンボーが毒針を使って運転手を刺した。
気絶した運転手は、私の上に覆いかぶさって来た。
“ラッキー!”
強烈な後ろ回し蹴りを食らう前に、気絶して背負っている運転手を蹴りが飛んでくる方向にずらす。
ヤツの蹴りは、見事に気絶した運転手の男が当たってくれ、蹴られた運転手は2メートルほど離れた本棚まで吹っ飛んだ。
“間一髪‼” でも、コイツの蹴り、凄くない!??
私がコイツに勝てる確率なんて、相当低い。
あー……ヤンボーに蹴りを出して来る男の方に毒針を指すようにお願いしておけばよかったと後悔する。
「なかなかヤルじゃねえか。 だが、その程度じゃあ、俺には勝てねえぜ。 おとなしく、降参しな」
初めてヤツが喋った。
対戦中に相手が話し出すのは、不安のある証拠だと、以前ジョージが教えてくれた。
しかも言葉は少し途切れ途切れ。
疲れているの?
……いや、このように凄い蹴り技を持つヤツが、たった数発の蹴り技を出したくらいでインターバルを取る必要はないはず。
だったら……。
“考えろ! 体力・技能で勝てなければ、頭を使え!”
これは格闘技の練習の時、いつもダーリンが私に言う言葉。
あっ、もちろん格闘技の練習は蹴りやパンチが当たっても居たくないフワフワのロボットが相手で、ダーリンが直接稽古をつけてくれるわけではないのよ。
だって、もう70手前のお爺ちゃんだもの♡
「アナタたちの狙いは何なの?」
私はヤツがくれたインターバルを少しでも長くして、考える時間を増やすために質問をした。
「それはアンタを捕まえてから、上層部の連中が答えてくれるだろうよ」