【狙われたコーネリア②(Cornelia is the target)】
校舎に入り3階の図書室に向かう。
しかし何故3階の図書室なのだろう?
UNIS(国連インターナショナルスクール)はイーストリバーに飛び出した所にあるから、1階であれば車か船、4階建ての屋上であればヘリとかモーターパラグライダーなどで追ってから逃れることが出来るのに、なんとも中途半端な場所だと思う。
しかしダーリンのことだから、なにか思惑があるに違いないし、ひょっとしたら図書室の中で本を読みながら私を待ってくれているのかも知れない。
そう思うとコーネリアは乗っているエレベーターがなんだか病院の物よりだいぶ遅いように感じた。
エレベーターのドアが開くと同時に図書館に駆け込み思わず「ダーリン!」と呼んだが、図書館の中には誰も居なくて、逆に「あっちだ‼」と追っ手の声がした。
バタバタと階段を踏む、けたたましい音が響いたあと、廊下を走って来る2人の足音が近づいて来る。
“しまった!墓穴を掘った‼”
どうやら遅刻しているのはヤンボーに刺された奴だけのようで、倒したはずの運転手はもう回復している様子。
“あーっ、もっとパワーが欲しい……”
それにしてもコレは危機一髪‼
なにしろ出入り口が一つしかない袋小路で、しかもココはビルの3階……どうする?
いや、どうもこうも、ダーリンが来てくれるまで持ちこたえるしかない。
とりあえず回収したヤンボーに新しい毒針を補充して飛ばす。
飛行時間重視で重量のかさむ毒針と、その連射機能を外さなければ良かった。
とは言え設計上、たった1グラム増えるだけで飛行条件は厳しくなり、それをクリアするにはもっと大型の物を作らなくてはならない。
地球史上最大のトンボは今から約3億年前の古生代石炭紀グゼリアン期に生息していたメガネウラ科のメガネウロプシスで、その大きさは翼開長で40~60㎝にも上る。
これくらいあれば相当な戦闘力を持たせることは出来るが、その存在が目立ちすぎて逆に使い辛くなってしまう。
もっとも困ることは、そんな物を作ってしまえば眠ってしまう前のシーナの言葉“もう新兵器の開発は止めて”を裏切ってしまう事になる。
ヤンボーは護身用のもので決して“兵器”ではない。
かなりグレーだけど、シーナはメガスーツと言うバケモノ級の新兵器に対して、あえて新兵器を使用せずに家庭にもある普通の200ボルトの電気で対応してみせたのだから、彼女の言葉の意味は重い。
彼女の戦いは私たち軍事技術の開発者に対しての警鐘であり、そのために自らの命をも犠牲にして戦ったのだから。
バタバタと廊下を走る音が近付いて来る。
学校の廊下を走ってはいけないことを彼らは教わっていないのだろうか? それともワザと規則を破ろうとする反抗的な輩?
とりあえずヤンボーを入り口付近に先に飛ばし、待機させておく。
武器になるようなものは……ない。
沢山の本があるので、人類の武器の歴史として初期に当たる“相手に何かをぶつけて威嚇する攻撃”には当てはまるが、大切な書物を決して人を叩く目的などで使用してはならない。
マゴマゴしているうちに、とうとう奴らが部屋に入って来た。
私は慌てて本棚の陰に隠れる。
国立図書館みたいに広い場所ではないから見つからずに済むのは難しいが、もし無事に見つからずに済めば奴らも直ぐに諦めてくれる確率は高いはず。
獣のように四つん這いになり、姿勢を低くして本の間から相手の動向を窺いながら移動する。
通路上を見つからないように移動するだけではなく、空いた棚の間、カーテン、机の下などに隠れながら相手をかわす。
奴らの一人が窓を開けた。
窓を開けたって、ここは3階だから飛び降りて逃げられる訳はないのに……と思っていると「ベランダには誰も居ない」と言う声が聞こえた。
“ベランダが、あったんだ……”
もし部屋に入ったとき直ぐにベランダを見つけていたとしても、ソコには隠れなかっただろうな。
「勘違いか……」
「居そうにねえな」
「チキショウ、一体どこに行きやがったんだ」
奴らはそう言いながら、この部屋で私を探すことはもう諦めた様子。
“助かったぁ~”
そう思い本棚の隙間から、ゆっくりと遠ざかって行く奴らの後ろ姿を見ながら「早く出て行け!」と心の中で叫んでいた。
ちょうどそのとき、奴らの一人の携帯電話が鳴った。
「はい。○○には建物の出入り口を見張って、彼女が出てきたら戦わずに直ぐ連絡するように言っていますので、まだこの建物の中のどこかに居ることは確かです」
どうやらボス的な誰かと話をしているらしい。
しばらくして、ようやく電話が終わり、奴らが図書室から出て行く。
“上手くいった!”と思った矢先、また携帯電話が鳴った。
今度は私の‼