【狙われたコーネリア①(Cornelia is the target)】
私は直ぐに警備員さんに後ろからストーカーが付けて来て困っていることを話してから、歩道橋を歩きながら渡る。
走ると相手も慌てて距離を詰めて来るし、この時点から追いかけっこになってしまうと女性の私の走力ではUNIS(国連インターナショナルスクール)に入るより先に追いつかれてしまう恐れもある。
警備員が男たちに用事を尋ねる声が聞こえたところで、私はバッグの中から昆虫型ドローン“ヤンボー”を放った。
これは私が開発した物で、トンボとソックリな形状が特徴。
前はコガネムシ型のドローンを使っていたのだけど、改良を重ねて色を隠密性の高いこげ茶色にして隙間を通りやすくするために全体を平べったくしたら、違う昆虫に間違えられて癪に障ったので今はこれに変えた。
コノ子の特徴は360度の全周視界と静音性の向上それと滞空時間の長さの他に、ホバリング能力の向上と、武器として催眠性のある毒針を装備することができる。
携帯を取り出してヤンボーから送られてくる映像を見ると、警備員に止められている男たちと私の距離は現在40メートルを超えたところまで広がっていた。
彼らもいきなり警備員を振り払ってまでして追いかけては来ないようだが、4人のうち1人はしきりに私との距離が開いていくことを気にしている様子。
何者かは分からないが、彼らの目的は私ではないはず。
だって私がお目当てなら、病院から出てきたところを拘束してしまえばいいでしょう?
なのに私に気付かれているとも知らずに、気付かれないように慎重に追ってくるのだから、お目当ては私を迎えにくるダーリンに違いない。
歩道橋が終わり構内と1階のバスターミナルとに分かれるT字路まで10メートルを切った所まで私が来たときに、イライラしていた方の男が警備員の制止を振り切って走り出した。
距離を詰められるとマズいので、私も同時に走り出しながら携帯を操作して一旦ヤンボーを回収モードにする。
ある程度、待ち合わせ場所が分かってしまうと、私を人質に取ってダーリンを誘き出すと言う卑怯な手も使おうと思えば使えるからココは最悪のケースも考えて絶対に掴まってはならない。
タワー棟の下を走り抜け階段を駆け下りて地上に降りると、UNISの本校舎は直ぐ目の前!
ところがスクールゾーンだと言うのにアクセルとブレーキを踏み間違えているのか、1台の黒のSUV車が私の行く手を塞ぐように突っ込んできて止まった。
とても友好的とは言えないけれど、撥ねられなかったのはマシ。
“いったい何!?”
疑問に対する答えは直ぐに出た。
SUVを運転していた男は、勢いよく車から降りて来ると私の進路を塞ぐように襲い掛かって来た。
コイツも追って来た3人と同じ目的。
男のミドルキックを屈むように避けて、素早く足を払う。
バランスを崩した男の手が、肩から下げていたバッグを掴もうとする。
“ひったくりか!?”
伸びてきた手を掴み、逆に引き寄せるようにして、近付いてきた男の顎に膝蹴りをお見舞いして倒した。
ヤンボーも直ぐ傍まで戻って来ていたが、その真下には警備員を押し退けて最初に走り出した男が居た。
慌てて逃げようとして走り出すと、前をよく確認していなかったので倒した男が止めたSUVに前を塞がれる格好になり、振り返ると男は直ぐ私の眼の前に居てニヤッと笑った。
思っていたよりもデカイ。
一旦動きを止めてしまうと、この様にデカい男とまともに戦って勝てる気がしない。
“さて、どうする!??”
男の頭上ではヤンボーに搭載しているAIが、戻っていいものか戻らない方がいいのか困ってホバリングをしながら待機しているのを見て、私は男を攻撃するように歯笛を使って指示をした。
ヤンボーは直ぐに男の肩に留まり、催眠性のある毒針を注射した。
コレを使用するのは初めて。
薬剤は、ごく少量でしかない。
男の手が伸びて来て私の肩を掴む。
“効かないのか!?”
近付いた男の顔が、勝ち誇ったようにニヤッと笑う。
もう、その後ろには仲間の2人も駆け寄っていた。
絶体絶命‼
そう思った瞬間、男は膝を折り仰向けに倒れはじめ、後ろにいた2人は倒れてきた男と共にバランスを崩して仰向けに尻もちをついた。
“ラッキー!”
私は無事UNISの校舎に入りヤンボーを回収してケースに収めた。