【1人の有能な隊員の功績と、その末路(The achievements and fortunes of the team's talented members)】
私の名前はコーネリア。
コーネリア・クリスティ―改め、シーナの祖父に当たるジョージ・クラウチと結婚してコーネリア・クラウチとして過ごしている。
今は義理の孫娘にあたるシーナの容態を見守るために、ニューヨークにある退役軍人会が運営する病院に通う毎日を送っている。
義理の孫娘と言っても、歳の差は10歳程度しか離れていない。
シーナは陸軍士官学校から、CC(※Cyborg Crime=サイボーグ犯罪)と戦う新しい軍の組織CCS(※Cyborg Crime Squad)ニューヨーク支部に士官候補生として特別に配属された優秀な若き軍人だった。
病室の前に着き、コンコンとドアをノックする。
「はい、どうぞ」
インターフォン越しにシーナのママがモニターで私を確認し解除キーの操作をして、それから私がIDカードを通し虹彩認識終了後に指紋をかざす。
最後の指紋認証ではバイタルの測定が重要な要素となっている。
つまり本人であっても、生きて居なければ入ることは出来ない。
何故シーナの病室のセキュリティがこれほどまでに厳重かと言うと、それは彼女の功績によるところが大きい。
彼女はCCSの隊員として、軍関係者が今もっとも注目しているメガスーツの試作機をたった一人で破壊したスーパーウーマン。
ちなみにこのメガスーツを倒すことがどれほど困難かと言うと、これ1機でM2ブラッドレー歩兵戦闘車以上の攻撃力とM1エイブラムス戦車と同等の防御力を持つロボット型の新兵器なのである。
そして開発者のアダム・クラインと言う天才が1人で行い、そいつは最後の戦いでこのメガスーツに搭乗してシーナと戦い、敗北して精神的に崩壊してしまった。
メガスーツの方も内部爆発とその後のリチウムイオン電池の発火や、部品の一部がテルミット反応を起こし消火不可能な状態に陥ったことにより内部構造とか部品構成と言った作業がほぼ不可能な状態になってしまった。
メガスーツを倒したシーナの方も、一時は生死の境を彷徨ったものの、生命を維持することには成功したが意識は未だに戻っていない。
つまりメガスーツと戦った唯一の人間であると言うことで、このようなセキュリティに守られている。
私はCCSの協力者として働き、事件後にシーナのお爺様と結婚した。
ダーリンの名前はジョージ。
ジョージは世界中の誰もその正体を正確には知らない超天才科学者であり、1000年に1度現れるかどうかと言われるほどの天才科学者であり天才発明家でもある。
世界中の政治家や起業家、軍隊がその恩恵にあやかりたくて彼を探しているが、彼は誰とも手を組まないし誰にも利用されない。
そして誰とも会わないし、寄せ付けもしない。
常に居場所を隠しながら、生活している。
明るいパイン材が貼られた鋼鉄製の自動扉が開くと、白一色の部屋にシーナママが居て、その向こうのベッドにはいつものようにシーナが眠っていた。
「おはようシーナ」
声を掛けて、脳波計に目をやるが、いつもの通り何の反応もない。
「マリア、お疲れ様」
マリアとはシーナママの名前。
「ゴメンサイね新婚早々なのに、それにあのお爺さまの世話も大変でしょう?」
「いえ、大丈夫です」
ダーリン。 つまりジョージ・クラウチ博士の事を知る数少ない人は皆、ダーリンの事を物凄く気難しい人間のように言うけれど、私は今までそのようなダーリンを見たことはない。
私の知っているダーリンは、いつも子供のように何かに夢中になっているか、子供のように寝ているかのどちらか。
年齢も、もう70になろうと言うのに、まるで元気のカタマリ。
アノ時だって私をリードするくらい激しい時もタマにあるけれど……コレは、決して口外できない夫婦だけのヒ・ミ・ツ。
「あっ、そうそう昨夜遅くに、ソシェルさんが窓から侵入しようとしたときに、シーナの脳波計に少し反応があったわ」
ソシェルとは、今ブロードウェイでミュージカル『キャバレー』の公演を行っている主演女優。
本名はシャーロットSビアンキで、シーナが居たCCSニューヨーク支部指令を務めていたビアンキ中佐の親戚で、CCSの協力者としてスパイ活動をしていた時期もあった美貌の女性。
「ソシェルは窓から侵入できたの?」
「いいえ、窓越しから話しかけて、話し終わるとそのままロープで下に降りて行ったわ」
世界が注目する大きな舞台の主演女優だと言うのに、彼女の自由奔放さは相変わらず変わらないなと呆れた。
シーナママ、つまりマリアさんは私と入れ替わりに帰るので、身支度を始め出した。
彼女は穏やかな日本人らしい女性だけど、ジョージが飽きて途中やめで放り出していたサイボーグパーツの研究をジョージの息子であり夫でもあるケントと2人で引き継いで、製品化にまでこぎつけた才女であり、クラウチ製作所の社長でもある。
サイボーグパーツは肢体不自由者向けの純粋な医療器材。
しかし悪者たちは、最初コノ不正改造を行い犯罪に使った。
忙しい身に有りながらも、眠り続けている娘の世話をし続けているマリアが帰り際に言った。
「あっ、そうそう。昨夜遅くにビアンキさんから連絡があって、今日昼前に来られるそうよ」