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第3話 修行2

「うごご……バケモンの群れが……――ハッ、なんだ夢かよ……」


 スケダが悪魔院長より職業訓練を受け始めて三日が経った。

 院長は悪魔王らしく分身能力も会得しているため、日々の雑事や孤児院運営とは別でスケダに付きっ切りで訓練を施すことができた。

 朝起きて食堂で飯を食べ、夜まで魔界コロッセオにて訓練、夕食は再び孤児院の食堂だ。スケダが共に研鑽を積んでいた孤児院仲間は皆職業を得て、本格的なダンジョン探索に向けギルドで訓練を受けているため食堂以外で会うことはない。


 スケダの現状を知らない孤児たちは、"あんなにも暗く元気がないのは無職だとわかったからだ"と思い声をかけずにいた。有り体に言って食堂の空気は地獄だった。


「スケダ君。今日も始めますよ」

「おう……――おうよ! ちくしょうやってやらぁ!!」


 孤児院の事情を気にする暇などなく、今日もスケダはコロッセオで訓練を積む。


 三日も訓練を積んでいると色々なことがわかってくる。その最たる例が目下継続中の職業理解だ。


 職業。

 スケダは今もあまりよくわかっていないが、院長曰く「君の職業は同時に一つしか選択できないようですね。職業レベルによるステータス補正も常人の半分程度、レベル自体も上がりにくいようです」とのこと。


 これだけだと普通の人間の半分以下の強さしか得られないように思えるが、やはりスケダのチートはチートだった。


 スケダはレベルを上げた職業の数だけステータスを上昇させることができた。

 つまり選べる職業「剣士、魔法使い、武闘家、癒術士、魔術師、盗賊、戦士」、これらすべての職業レベルを10まで上げれば、スケダは常人の三倍以上のステータスを保持できるということである。


「スケダ君、手早く職業変更を行ってください」

「わ、わかってるぜ!!! 左手で――ぅおお!? 馬鹿お前!オレの手掴むんじゃねえよアホがよ!! ま、待とうぜ。空はあぶねえだろ? 連れ出しはぁあああああああああ!!!!!」

「……はぁ」


 蝙蝠に捕まり空へ連行されたスケダを見送り、院長は溜め息を吐いた。

 一つに集中すると途端に周りが見えなくなってしまう。アレではダンジョンに入って一人でやっていくことなど到底できまい。まだまだ先は長い。


 

 ――一か月後。

 

「せやぁあ!!」


 裂帛の一声と共に少年の持つ魔法剣が振り下ろされる。

 「ぴぎょぉ」と哀れな鳴き声を出して真っ二つになった蝙蝠は光となって散って消えた。振り下ろした魔法剣も同時に搔き消え、左手で職業を「剣士」から「武闘家」に変える。噛み付き引っかき攻撃をバク転で避け、空中で「魔法使い」に変更し魔力の球を打ち出す。

 爆発と同時に追加で右手に特大の魔法剣を生み出し、「剣士」に戻して薙ぎ払いを敢行。魔力爆発でよろけていた蝙蝠二体は綺麗に身体を分けて消滅した。


「……ふぅ。オレ、最強」


 尖った髪を掻き上げニヤリと笑う。調子に乗ったガキの顔だ。


「見事です。それではスケダ君、今日はここまでにしましょう」

「え? まだ昼前じゃねえか。院長、どうしたんだよ」

「蝙蝠ではもう相手にならないようなので、午後のためにより強い魔物を選ぼうかと思います」

「えっ」

「スケダ君は余裕そうですからね。二段ほどレベルを上げていきましょうか」

「……」


 にこやかな院長に、スケダは冷や汗を垂らす。数十秒前の自分をぶん殴ってやりたい気分だった。前世の自分も「馬鹿がよ。阿呆がよ。お前は雑魚だぜ雑魚スケ。ミジンコ以下の雑魚スケ太郎だ。雑魚は雑魚らしく黙ってザコ食ってろ」と罵っている。うるさい黙れ。オレは最強だ。


「い、いいぜ!! やってやらあ!!」

「ふふふ、良い心意気です。午後が楽しみですね」

「……」


 それより数時間後、襤褸屑になったスケダがコロッセオの片隅には転がっていた。


 

 悲しい事件はあったが、結果的に自分が井の中の蛙だとわかって初心を思い出せた少年である。

 夜。布団に転がりながら、スケダは自身のステータスを眺めていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

スケダ

種族:普人族

職業:無職(剣士)

職業レベル:2

 

体力 :175G

知力 :135G

思考力:105F

行動力:175G

運動力:175G

能力 :275G

 

【選択可能職業】

剣士2、魔法使い2、武闘家2、癒術士1、魔術師1、盗賊1、戦士1

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 一か月でステータスは大きく変動した。

 数値以上の意味を持つローマ字は一段階上がり、数値自体もそれぞれ均等に上がっている。

 院長が言うには「無職故なのか、君のステータスはレベル1ごとに25ずつ均等に上がるようですね」とかなんとか。


 ダンジョン探索に励む同年代には届かないが、職を手に入れたばかりの元仲間と比べて遜色のない強さを手に入れている。今なら「無職だから」という理由で追い出されることもないだろう。


「……はっ」


 とはいえ、だ。

 そんなので満足できるほどスケダ少年は大人じゃなかった。今日院長が召喚した魔物、大人サイズの三つ首蛇。こちらを弄ぶように口で掴み振り回し壁に叩き付けてきた。力も速さもまるで敵わなかった。


「……負けねえぜ」


 拳を天に突き出す。相変わらず院長は武器も防具も渡してくれないので、必然的に武器のいらない「魔法使い」と「武闘家」ばかり使っている。あとカッコいいから「剣士」も。

 しかし今のままでは勝てない。ステータスには出ない補正値のある速度特化の「盗賊」や魔力を操る「魔術師」も戦闘に組み込む必要があるだろう。


 決意を新たに、スケダは好戦的な笑みを浮かべる。少年の挑戦はまだ始まったばかりだ。

 どうでもいいがスケダは孤児院暮らしで寝床も他の孤児と一緒なので、変に寝ながら拳を突き上げ笑っている少年の姿は周囲からもよく見えていた。気の毒そうな、頭のおかしいものを見る目がたくさん向けられている……。


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