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第1話 目覚め。

「――無職がダンジョン攻略なんてできるわけねえだろ」

 

 そんな冷めた声が響き、少年少女は去っていく。背を捕らえようと伸ばした手は届かず、重力に従い静かに落ちた。


 立ち尽くす少年は、一人薄灰色の瞳を見開く。


「……ダンジョン?」


 ダンジョン。

 それは世界に溢れる一つの理。

 

 ダンジョンと共に、世界は広がってきた。

 ダンジョンと共に、人々は力を伸ばしてきた。

 ダンジョンと共に、技術は発展してきた。

 

 魔法、武術(スキル)、そして職業。

 ダンジョンがあったから力は生まれたのか、力があったからダンジョンは生まれたのか。今となってはもうわからない。けれど、今現在の人類にとってどちらもあって当たり前、それらがない世界こそおかしいものとなっていた。


「……無職」


 少年は呟く。

 ダンジョンに満ちたこの世界に生まれ、育ち六年。今日この日、少年は職業統括所、通称ギルドにて職業診断を受けてきた。


 結果は無職。誰もが職業を持つ世界、ごく稀に生まれる職業を持たない"無職"と呼ばれる存在。職業があるから魔法やスキルは育ち、肉体は頑強になる。職業がなければ魔物に対抗する術は得られず、ダンジョン攻略など以ての外だ。


 少年は無職だった。

 孤児院で育ち、同じ境遇の子供たちと共にダンジョン探索・攻略の一攫千金を夢見る普通の子供だった。


 つい先ほどそんな夢も儚く砕け散ったわけだが、少年はそんなものとは比べ物にならない衝撃に襲われていた。


「――転生?」


 転生。輪廻転生。

 魂が流転し、異なる時代、異なる世界に生まれ直すことを指す。少年は転生者だった。しかし問題が二つ。


 一つ、前世の自分を自分と同一視できないこと。

 二つ、無職であること。


 一つ目は少年自身もあまり理解していないが、前世の言い方をするなら"他人の人生を映画で見ている感じ"になる。確かに記憶はある。知識もある。けれどそれを自分のものとして咀嚼し切れないのだ。


 少年の前世は名を「西鯛(にしだい) (すけ)」と言い、今世ではスケダと言う。

 妙な縁もあるような気はするが、西鯛助はきちんと前世で死んでいた。ここにいるのはダンジョン型地球――ダンチに生まれ孤児院で育った六歳の少年、スケダだ。


 スケダと西鯛助は"死"という出来事により完全に途絶している。この場に立ち尽くしているのは急に大人の知識を得たスケダという少年。そう納得するしかない。過去は過去、今は今。それだけの話なのだ。


「……ごめんな、過去のオレ。オレはもうオレだから……あばよ。頑張って生きるぜ」


 頑張ると言ったものの、そう上手くいかないのが現実でもある。


 問題二つ目。無職であること。

 この世界には魔物がいる。ダンジョンがある。魔物と戦うには職業が必要だ。なくても戦えるが、すぐ死ぬ。魔法もスキルも使えないし、肉体も弱いまま。何より職業のレベルアップによる進化ができない。


 例えば職業「剣士」なら、一定以上の職業経験を積むことで転職が可能となり「剣術士」になれる。これを繰り返すことで、ダンジョン最奥の魔物、ダンジョンボスと呼ばれる強大な存在とも渡り合えるようになるのだ。


 少年スケダは無職。つまり強くなれない。つまり一生弱いまま。つまり……。


「オレのぼうけんはここで終わってしまいました――馬鹿野郎! オレは強くなるぞ!」


 孤児院仲間からの「無職がダンジョン攻略なんてできるわけねえだろ」という暴言がリフレインする。許せねえ。絶対ダンジョン攻略してやる。絶対、絶対にだッ!


 決意の炎を燃やし、しかし前世知識を得た少年スケダ。六歳とは思えない冷静沈着さで自身を省みる。


「……」


 確かに無職のままじゃ無理だ。死ぬ。孤児院で魔物と戦う訓練は積んできたが、今日職業を得た奴らと殴り合いをしてみて軽く捻られた。あれは無理だ。職業やばすぎるだろ。無職しんどすぎるだろ……。


 しかしもしかし、今のスケダには希望があった。

 前世知識も言っている。「おい! 転生者にはチートがあるだろチートがよ!!」と。


 六歳の頭では理解が難しかったが、要はズルだ。意味不明な超能力。ダンチで言えばダンジョンボスのレアドロップで知られるスキルオーブやらマジックオーブのこと。使うだけで不思議パワーを覚える。超すごい。オレも魔物をぶちのめせるスキル欲しい。


 ないものねだりはやめておき、前世を信じて胸に刻まれた職能力値(ステータス)を呼び起こす。胸に手を当て念じると、目の前に魔法っぽく文字列が浮かぶ。地味に不思議能力が使えて感動するお子様少年だ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

スケダ

種族:普人族

職業:無職()

職業レベル:0

 

体力 :100H

知力 :60H

思考力:30G

行動力:100H

運動力:100H

能力 :200H

 

【選択可能職業】

剣士、魔法使い、武闘家、癒術士、魔術師、盗賊、戦士

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「うおおおお!! よっしゃああ!!!」


 チートはあったんだ!! 前世を信じたスケダの勝利である。

 スケダの叫びを聞き、気の毒そうな顔をしていた孤児院の人間がより表情を暗くする。稀にある。希望を失った子供は気が触れてしまうのだ。


 周囲に憐憫を向けられているとは露知らず、スケダは一人幼い脳を懸命に働かせる。

 今「剣士」を選択してみたが、確かに職業は変わっている。「無職(剣士)」になっている。


 前世知識曰く、あくまでスケダの職業は無職のままであって、特別なスキルか魔法によって職業を選べるようになっているだけ、と。

 ちゃんと剣士として成長できるので問題はないが、ギルドでステータスを提示することを考えたら問題しかない。


 国が人のスキルを奪うスキルでも持っていたら終わりだ。ダンジョン攻略栄光エンドが無職没落浮浪者エンドに早変わりしてしまう。そんなエンディングは嫌だ。


 なればこそ、今のスケダは選択しなければならなかった。

 いつかダンジョンを攻略するのは確定事項としても、そこまでの過程が大きく変わる。選択肢は二つ。

 

 一つ、職業選択の自由はこのまま誰にも話さず、一人で強くなる。

 二つ、大人に頼る。

 

 前世の西鯛助――あだ名ダイスケ――だったなら「誰にも言うわけねえだろ」とほくそ笑んでいたかもしれない。しかしここにいるのはスケダだ。ダンジョン攻略に夢を見て、カッコよくばっさばっさと魔物を薙ぎ倒し、皆からチヤホヤされる強いダンジョン探索者に憧れている少年でしかない。あと、単純に"無職じゃダンジョン攻略できねえ"と言った奴らを見返したい。


「オレは頼るぜ」


 悩まず真っ直ぐ子供らしく、少年は選ぶ。

 スケダは孤児だ。親はダンジョン災害により死んだ。ダンチではよくあることでしかない。そんな身寄りのない孤児を拾って育ててくれたのが、孤児院の院長だった。院長ならば信頼できる。院長ならば打ち明けられる。院長はすごい。超すごい。何故なら悪魔院長でカッコいいから。


 碌な理由もないまま直感で決意し、いざ院長の下へと思った時、少年の身体がふらりと傾く。


「あ、れ……」


 視界が黒く染まる。

 こんなところでオレの冒険が……と、意識を失うその瞬間まで、スケダはダンジョン探索への情熱を燃やし続けていた。


以前賞応募用に書いたものが落選したので少し加筆して投稿します。

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