スリジエ家の人たち
生まれて初めてのご飯をゆっくり味わって食べた後、ぐっすり寝て翌朝、
「僕はアルスといいます。五歳です。父も母もいません」
とテオとシアに告げた。二人とも一瞬とても驚いた表情を浮かべたけど、その後の動きは速かった。
僕はテオとシアの家、スリジエ辺境伯家に迎えられた。養子として引き取ってくれるらしい。僕は生まれて四日目、意識を取り戻して二日目にして早くも一人ぽっちの運命から逃れ、家族を手に入れたのだ。ティアの話を聞く限り、どこかその辺にぽんと投げ出されてそのまま一人ぽっちの可能性もあったと思うと、これはとてもラッキーだ。とはいえ貴族家の養子縁組手続きには王家の承認が必要で、長いと一年かかることもあるらしい。まあ拾ってもらったことに比べれば些細なことではあるのだが。
さて、両親となってくれたテオとシアだが、テオはブルーム王国という国の辺境伯という貴族で元王国近衛騎士団副団長、見た目は金髪を短く切り揃えた碧眼のイケメン、シアはその妻で元宮廷魔法師団副団長、長い銀髪に蒼い眼をした可愛いというより綺麗寄りの美女だ。二人で領内の統治もしっかりと行っていて、領民からの信頼も厚いという。なにこの容姿端麗、文武両道なハイスペック両親。そんな二人には今年で十二歳になるシノという息子がいるそうだ。という話を両親や家人の皆さんとしていると、
「こちらにいらっしゃいましたか。ご無沙汰しております。父上、母上」
と扉を開けて誰かが部屋に入ってきた。
おっと、噂をすれば影が差す。おそらくシノお兄様であろう方の登場だ。テオと同じ金髪を長髪にして後ろで一本に結び、シノと同じ蒼い眼を特徴としている。目の下にはうっすらと隈が出来ていて、若いのに苦労していそうな人感がある。というか、ご無沙汰しておりますとはどういうことだろうか。家族なのに。
「この子はどなたでしょうか」
当然の疑問だ。これから家族になる人だ。丁寧に自己紹介をしておく。
シノは驚いた顔をしたが、すぐに丁寧に挨拶をしてくれた。
「「これからよろしくお願いします」」
と僕たちはお互いに言い合った。テオによると、シノは領地経営に類稀なる能力を持っており、十二歳にしてすでに両親を手伝えるほどだそうだ。そう聞いたシノ本人は照れ隠しか苦笑いを浮かべていたが。
こんな素晴らしい人たちが僕の家族になってくれた。大切な家族だ。絶対に守れるようにならなければ。