アルスと妖精
さて、ふよふよをよく見てみると、ただふよふよと浮いているのではなく、羽をぱたぱたさせて飛んでいるようだ。これはただのふよふよではない。
「君は、だあれ?」
本当は自分のこともよくわかっていないのだけれど、それよりも目の前のふよふよに対する興味の方が勝ってしまった。
「私ですか。私はティア。貴方のナビゲーター妖精です。」
「ナビゲーター妖精?」
ってなに?
「普通の人には見えない、貴方が立派になるまで導く妖精です。貴方が大人になるまで、知りたいことから知りたくないことまで色々と教えて差し上げます」
知りたくないこと!?何それ!?いいよ、そんなことまで教えなくて!
「知りたいことだけでいい……」
「なりません。これは義務なのです」
「義務?」
ギムって何だ?
「はい。教える方も、教わる方も義務なのです。貴方は剣術、魔法、ヒト、魔物、その他にも、世界について多くのことを知らないといけない。私はそれを教えないといけないのです」
なるほど、わからん。
「なんで僕とティアにギムがあるの?」
「それは貴方が妖精憑きであり、私がナビゲーター妖精だからです。」
「妖精憑き?」
「ナビゲーター妖精が付き従っている者のことです。世界の異変への対抗策として現れ、妖精に導かれて人々を救うとされています。貴方は五歳程度で世界から産み落とされました。その頃が頭と体の成長にとって程よい時期だからです」
難しくてよくわからないけど、僕が五歳のアルスであること、ティアが他の人には見えないナビゲーター妖精であり、僕が“妖精憑き”ということ、そして世界から産み落とされたってことは……
「そっか、僕にはパパもママもいないんだね」
家族がいないことがわかった。
その後ご飯が運ばれてくるまでは長かった。いや、長く感じただけか。ナビゲーター妖精が使える魔法なのかもしれない。その時間で、僕はティアに日常的な言葉を叩き込まれた。剣術だの魔法だのの前に、まずは基本的な言葉が使えるようになるのが先決とのことだ。ちなみに一度教わった言葉はすぐに覚えられた。僕は頭がいいのかもしれない。えっへん。
運ばれてきたのは野菜の入ったスープだった。野菜が柔らかくなるまで煮込まれていて、起きたばかりの僕にはぴったりのご飯だ。うーん、暖かいスープがお腹に染み渡る。拾われたのがこの家でよかった。
お腹がいっぱいになったからか、さっき起きたばかりなのにもう眠くなってきた。睡眠欲に身を任せ、今日のところは寝ることにしよう。おやすみなさい。