プロローグ
初投稿です。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願い致します。
「旦那様。もうすぐ領都にございます」
執事のセバスが言う。雨ゆえに馬車の幌は締め切っており、外の様子はよくわからないが彼が言うならそうなのであろう。もう何時間も座っていたせいか腰が痛い。
「もう歳かな……」
と思わず呟いてしまうが自分はまだ引退を考えるような歳ではない。寧ろ若さと経験のバランスのとれた、人生の絶頂期とでも呼べるような歳だ。そんな歳だからこそ綺麗なパートナーが家で待っているわけで。
はぁ……。早く帰って妻の顔が見たい。
そんな風に物思いに浸っていると、突如目が焼けるほどの光が辺りを包み、馬車が急停止した。
「何だ!?雷にでも当たったか!?」
そんなわけはない。体のどこにも痛みは感じていないし、相変わらず雨の音が耳に届いている。
「セバス!何が起こったのだ!セバス!」
と言いながら馬車の外に出ると、そこには5歳ほどの子供を抱き抱えている老執事の姿があった。
「旦那様!」
セバスは子供の負担にならない速度を保ちながら近づいてくる。
「何があったのだ、セバス?」
と、今度は幾分か落ち着いた声で問う。
「それが……。馬車のすぐ前方が突然光り輝いたと思いましたら、光の中に子供の人影があったのです。慌てて馬車を止め近づいてみると、この子が……」
そう言ってセバスは腕に抱えた子供を見せてくる。明るい銀髪をした子供は雨の中だというのに濡れても汚れてもいないが、布切れ一枚しか身に纏っておらず、このままでは体が冷え切って命に関わることは明らかだった。
「この子は家へ連れて帰る!」
「よろしいので?」
たしかに、貴族としてどこの誰ともわからない者を家に入れるのはあまりよろしくない。だが、事は命に関わる。自分の領都のすぐそばで、この未来ある者を見て見ぬふりをして死なせることはそれ以上によくないことだと私——ブルーム王国辺境伯、テオ・スリジエは考えた。そして何より自分の直感が、この目の前に突然現れた者を死なせてはならぬと、この子を生かすのは使命なのだと最大限の叫びを上げているのだ。
「よい!これも神のお導きよ!さあ、帰るぞ!」
そういうとテオは子供を馬車に乗せ、領都への道を急ぐのだった。
お読みいただきありがとうございます。
当作品では皆様からのいいねや評価、感想、ブクマ登録などのリアクションをお待ちしております。
この下にそれぞれの欄がありますので是非お願い致します。