魔王少女
『ハーメルン』でも掲載してます。
勇者を待って約100年。やっと勇者がやってきた。
「魔王リューク!お前を倒しに来たぞ!」
片手に聖剣という凶器を持った勇者が言う。
私は100年間で老いぼれていた。ほとんどの力を失っていた。父、母、そして妻も、もう歳で亡くなっていた。
勇者は凶器を構えた。
「覚悟しろ!」
勇者は凶器を振り落としながら叫んだ。
古びた椅子。毎日見た景色。ラスボスの間から動けない設定の私は、毎日がつまらなかった。100年の間、雑魚勇者ばっかで懲りごり。そして今日やっと勇者とご対面。
「いじめか……?」
ハゲてきた頭をかじりながら、そう私は発した。
鮮血が飛び散る。
そして勇者は余裕で私を殺害した。
ーーーーーーーーーー
寒い。全裸で風が当たりまくっているみたいに肌寒い。
こういう時どうしたっけっ?そういえば、100歳を超えたあたりから毛布を5枚にして寝たりしてたな…懐かしい。妻ともまた会いたいな……。あー最後の妻の手料理何だっけ……えっと…
―――体がひんやりする
「ちょっと君、起きなさい!」
―――声がする…で…妻の手料理何だっけ……
「私は◯◯交番の………」
黄色くて……赤い……
「あっ…!」
「オムライスだ!」
こうして私は目を覚ましたのであった。
転生したのか?死んだはずの私は路上で裸となり寝ていた。
そして今、補導された。変態露出魔として。
辺りは真っ暗だった。
私は交番から解放され夜道を歩いていた。服も貰うことができた。
「声が高いな……」
明らかにご高齢魔王の声ではない
一応、確認するか……
ズボン…そしてパンツを脱ぐ。見る。触る。
私はまた交番にお世話になった。
「なかった……」
私は深夜の公園のベンチで触りながら悲しむ。
女に転生したんだ。力も極端に下がっている。
魔力はあるのか?呪文を唱える。
「漆黒の闇に包まれ消えろ…」
決め台詞。そして大魔法の構え。とびっきりの声量。
私はとてもキマっていた。
魔法は出なかった。冷たい夜風が大魔法の構えの私を貫いた。
満天の星空だけが私を励ます。
「そうだ」
私は毎日夜9時に寝て、朝6時30分に起きるのが日課。
交番で8時40分だった。ということは……
「おやすみなさい……」
私は冷たいベンチの上で横になり足を手で包む。
夜風も冷たい。
毛布が恋しい夜だった。
朝の6時30分。
昨日暗くて見えなかった公園の時計が示している。
太陽が出て私を照らす。
「おはよう」
律儀に太陽にそう告げた。
ここは東京というらしい。さっきスーパーのチラシに書いてあった。少し街探検をし、発見したチラシだ。
「ぐぅ~」
腹が騒ぐ。今は11時で朝から何も食べれていない。
足はヘトヘト。何故か人通りが多い歩道で足を踏まれまくる。
「もう限界……」
首を360°回転して、今すぐ座れるところを探す。
ベンチは……褐色で化粧の濃いの娘等が陣取ってる。
ならしゃがむしかない。最後のスタミナ、人の少ない建物の隅に足を動かす。あと少し……
「すみません…!」
後ろから声が……
誰だ?恐る恐る振り返ると、
私の無防御の手をガシッと掴む男。
「君可愛いね♪」
照れるじゃないか。
そのあと男から高収入という仕事にスカウトされた。
金がなかったので助かった。
私は速攻で口を動かし、OKの良い返事をした。
男は笑っていた。
数日後、私はその仕事をやめていた。
少し露出度の高い服を着て接客する仕事。もうこりごりだ。
でもそれのお陰で、多少の財産を得た。
私はマシな食べ物を食べることができた。
私は前世でリュークと名乗る魔王だった。
しかし勇者に殺された。
数日前、水商売に誘われて淫らな格好で接客をし、金を得た。
ある時、客から
「名前を教えてよ?」
と興奮気味で聞かれた。
私はとっさに目についた店のメニュー票から見つけた名前…
「ココア……です」
顔を赤くしてそう答えた。マジで恥ずかしかった。
そして正式にこの世界での名前も「小子愛」と決めてしまった。
無職になった。所持金約1万円の女。
私には対処すべき課題がある。
まず、働き手。金が尽きたら何もできない。
そして、住む場所。
暖かくて、安全で補導されない、そんなところがいいなぁ~。
公園のベンチで1人妄想。
砂場で遊んでいる男の子が見てる。
………見んな。
数日前まで、怪しい仕事先の男の部屋に住まわしてもらっていた。最近は公園ベンチ生活。
………今日はどうする⁉
あれから公園のベンチで2時間悩んでいる。
「ゔぅー……ゔぅぅ…」
ベンチに正座し、両手を頭に当てながら私は奇妙な鳴き声を発する。
その瞬間、風が顔面を直撃する。
「ゔぅ…ゥゥゥウゥ…サブイィィ………!!」
頭に当てていた両手は一瞬で定位置に戻る。
交番支給の服。通気性がとても良く私を寒さで殺す気だ。
そんな瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
1枚の紙が顔面をおおっていた。
その紙は凄まじく、私の口まで塞いでいた。
両手を使い顔面の紙をはがす。
口に当たっていたところは少し湿っていた。
そしてインクが滲んでいる。
インク……もしかしてっ!!
私はこの紙の同族にこの前会っていた。
「お前かよ……」
愛着がついていた。
それはスーパーのチラシだった。
子供の頃、母と魔界のスーパーに行った事があった。
魔族小学校に通っていた頃だった気がする。
母の買い物が遅く、私は駄々をこねていた。
母は優しい。
私は大人気のお菓子『チョコッレートン』という普通のチョコを買ってもらい大満足だった。
私は見逃さない。
チラシには大きく『スタッフ募集』と書いてある。
今日はもう遅いだろうか。………遅いな。
今からスーパーに行っても、面談はできないだろう。
なら……、
ベンチを乗り捨てる。行動だ。
公園なら“あれ”がきっとある。
私は見渡し、目当てを見つける。
公園のトイレの裏、芝生を少し歩いたところの長方形。
「もしもし……あー広告でスタッフ募集と見かけて……」
たったの10円。その10円を犠牲とし、私は公衆電話を使っていた。
「明日ですか…?」
ついでに面談の日も決まっていた。
聖剣が光の粉のように消えていく。
この聖剣は一回限りしか使えないからだ。
勇者は魔王を殺害した。
「遅れてごめんよ…」
鮮血で汚れた勇者は遺体を見ながらそう言った。
これで本当に良かったのだろうか……?
旅の途中で拾ったこの聖剣。
殺した相手を転生させるらしい。
「争いのない世界で……」
勇者は魔王の転生先を両手を合わせて、何度も何度も祈っていた。
新調した安い洋服。髪も散髪し、銭湯で体も洗った。
もう時間か………
目的地へ向かう魔王の背中。
「決戦だ!」
魔王はスーパーの自動ドアを通過した。
ーーーーーそこは勇者が願った世界があった
熱々のココアが最近のマイブーム
自動販売機の缶のやつ美味しいですよねー
作品投稿は控えめです
またいつか会いましょうー