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月曜日.6

「お月様を返しに行くのはわくわくするよ?」


「確かにそうだけど、実際そうなってしまうと……ね」

言い淀む僕の答えにアリアは呆れたように肩を竦める。




「いざ、現実になって尻込みしたと?なーんだ。あなたのこと期待していたのに」

アリアは、がっかりしたように肩を竦めた。


「え?」

聞き間違いだろうか。アリアが僕を期待してるって。そんなことあるだろうか。

まるで物語のダメダメ主人公が可愛いヒロインと何故か上手くいく状況を想像してしまった。


アリアは、こちらを一瞥するとそのまま歩きだすので慌てて後を追う。


「ちょ、ちょっと待って!君が僕のなにを期待したの!?」

もしかして、ナヨナヨした男が好みなのか!?


「行かないんでしょ?私一人で行くから。もしくは女性好きのゴンザレスに頼もうかな~?」

横目でこちらを伺うアリア。いやいや、それよりゴンザレスとアリアが一緒になんてもやもやしてしまうから。

いくらなんでもゴンザレスといるなんてマニアック過ぎる!

本人が良くても周りが許さない!



「……それは嫌だから一緒に行くよ」

「ホントに!?うんうんならよし!私のことしっかり守ってよね」

途端に弾んだように顔を綻ばせるアリア。まるで向日葵みたいな笑顔だ。

う~ん。なんだか土地転がしみたいに上手く転がされてるなぁ。

しかし、それが悪くないと感じている自分もいた。




「それでアリア。僕のなにに期待したの?」

「そうね。あなたは基本的にスペックが低いでしょ?」

「………」

前言撤回。アリアにも弱点はあったか。その性格だ。性格は確かにいいとこもあるけどこう、はっきりと言いすぎるのは弱点にもなる。


今、アリアは無自覚に僕を傷つけていく。

ぐいぐい引っ張られるのは嫌いじゃないけど、はっきり言われるのは嫌だな。



「根暗で引っ込み思案。もぐらが穴に引っ込む感じかしら?」

かしらと言われてもね!?

もぐらだってなに言ってんだこいつとなる。



「そして、自信がない」

「……う」

もう止めて下さい。お願いします。


「でも、ほら。そうやって成長していくための冒険よ。あなたは一人じゃない」

くるりと振り返って微笑むその笑顔は僕の憧れ。

遠くから見てるしかなかったんだ。





親はいなかった。ずっと一人だと思っていたからそのシンプルな言葉でも嬉しくて。



「……一人じゃない」

「そうよ。私があなたに期待してるのは、底辺ってことは成り上がれる無限の可能性があるからよ!底辺サイコー!」


「……」

「え?泣いてるの?もしかして、はっきり言いすぎたかな?ご、ごめん」

「い、いや。そうじゃないよ!」

慌てて謝るアリアを遮る僕は泣いていた。

それは、嬉しいからだ。ぼっちの人生だと思っていたから。


これが、怪しい人とかに一人じゃないとか言われたら、変な勧誘だろうけど、そうじゃない。


誰よりも素敵なアリアだから心に染み渡っていく。


だから、僕の中にも勇気が生まれた。



「アリア。僕も行くよ」

「ホント!?うれしっ!」

はしゃぐアリアを守れるか分からないけどせっかくの旅だから、楽しまないと。



そう決めた後のアリアの行動は迅速だった。

勢いで親を説得して、勢いで旅の準備を始めるその様はまるで大猪みたいた。

大猪は、走り出したら止まらないのだ。

僕はその穴を埋めるように旅の支度の不備を埋めていき、孤児院にはあっさり許可された。



「あなたみたいなぐずを手放せてこんなに嬉しいことはな~~いのです」

「………」

はっきり言う院長に、もう苦笑しかない。

性格は屑の極みだか、はっきり言うからまだマシだと思ってしまう。

こそこそ悪巧みしている奴よりは……まあ、どっちも駄目ではあるけど。

院長的に口べらしが出来て嬉しいんだろうけど、子供たちには泣かれた。


「あ~ん、行かないで!」

「お前がいなくなると、寂しいだろ!」


ああ、そうか。血の繋がりがないから距離を置いていたけど、そうじゃなかったのか。


「誰がみんなのご飯作るの!」

「院長のビッチは料理下手くそなのよ!」

「お前の料理じゃないと嫌だ!」

「………」

向こうは家族と思っていたんだ……よね?もし無事に帰ってこれたら沢山遊んで上げようと思った。


なので、今日は子供たちと一緒に寝て上げることにした。


月曜日は終わる。僕たちがお月様を返しに行くのは、物語では一週間以内なんて語られているけれど、そんなことは実質無理だし、どこに返しに行くのかって話です。


それでも、始まりを告げた冒険に胸の高鳴りを止められそうになかった。



つづく


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