夕日に照らされるLike
ナオとマイが仲良くなったきっかけの話。
ナオちゃんと仲良くなったのは、随分前のことだ。
あれは確か、小学二年生の頃。
彼女がいじめられていたのを、助けたのがきっかけだったと思う。
今にも溢れそうな涙を必死に堪えて、平静を装って「ありがとう」と言われたのを、今でもよく覚えている。
あたしとナオちゃんは所謂幼馴染だ。
と言っても、家が近所というだけで、それまでのあたし達は特に仲が良いわけでもなかった。
ただ親同士は仲良しだったようで、公園で一緒に遊んでいたことは多かったらしい。
その辺りはあまり覚えていない。
小学校に入っても、あたしはナオちゃんと特別関わることもなかった。
当然かも知れない。あたしとナオちゃんでは、生きる世界が違ったのだから。
ナオちゃんは華月家のお嬢様で、あたしはただの一般市民。
こんなの、仲良くなるほうが難しい。
でも、ナオちゃんに関わっていく人は何人かいた。もちろん、いじめっ子達のことだ。
理由は簡単だった。ナオちゃんがあまりにも、お嬢様らしくなかったからだ。
まず、華月家のお嬢様なのに、こんな一般の公立小学校に通っている。
あたしにはよく分からないけれど、お嬢様専用の学校とか、あるんじゃないの?と思う。
無愛想で無表情。
成績も運動も平均的。むしろ平均よりも少し下かもしれないくらいだった。
そして、シンプルな服装に、適当にまとめられた髪。せっかく綺麗な黒髪なのに、何だか勿体なく感じた。
お嬢様って、毎日お手伝いさんが髪をセットしてくれたりするのではないのだろうか。
とにかく、ナオちゃんはあまりにもお嬢様らしくなかった。
みんなのイメージするお嬢様像とあまりにもかけ離れていた。
だから、いじめのターゲットなんかになってしまうのだ。
あたしはナオちゃんを助けたあと、彼女と一緒にいることが多くなった。
幼さゆえの、勝手な正義感だったと思う。
あたしがナオちゃんを守るんだ!なんて息巻いて、近くにいることで守った気になっていた。
一緒にいてもナオちゃんは相変わらず無愛想で、あたしだけがぺらぺらと話し続けるような関係だった。
それから暫く経って、いつだったか、校庭でナオちゃんとブランコに乗っていた時。
「マイちゃんは、なんでわたしなんかと一緒にいてくれるの?」
ぽつりと、彼女は零した。
溜め息を吐くように、夕日の向こうに目を逸らして。
当時の彼女は、随分自己評価が低かったのだと思う。
自分が嫌いで仕方ない、と言葉に書かれているようだった。
「私と仲良くしたって、良いことないよ」
お金もそんなに持ってないし、などと続けて、彼女は口を閉ざした。
確かに、"お嬢様だから"仲良くなったのなら、今の彼女と関わることは何のメリットもないだろう。
でも、もしあたしがそうだと思われているのならば、心外だ。
あたしはそんな理由で、彼女のそばにいるんじゃない。
最初は勝手な正義感だった。でもそれはただのきっかけで、それにもう彼女をいじめようとする者なんて居なかった。
「あたしはナオちゃんが好きだよ」
ただ一言、それだけを返すと、ナオちゃんは驚いたように目を見開いた。
「……ありがとう」
また、あの時と同じように涙ぐんでいる彼女は、それを隠すように瞬きを繰り返した。
でも、あの時と違って、ナオちゃんは少しだけ、ほんの少しだけ笑っていたのだ。
「帰ろっか」
「うん」
二人きりの帰り道は、夕日に照らされて随分と温かかった。