Karte.2-1「見てのとおりのメイドさんよ」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエを見守る青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにレベル99のアイテムをクラフトできる白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
ベルアーデ帝国、帝都ベルロンド。
グレートベルアーデ城外苑、パラダイスナイトガーデンにて。
帝国騎士団の本部であるここで、今、乙女と青年が途方に暮れていた。
「おろ、おろ、おろおろろろ……」
「今さらおろおろしてどうするんだ……」
レベル1の最弱白魔法師イエと、騎士団第七隊の青年兵士リヒャルト……もといハルトだ。
ここには、各隊の詰所兼寮舎となる砦が個性豊かに並んでいる。
ただし一つだけ、他とは比較にならない小さな砦があった。
城壁沿いの隅も隅に、ちょこんと……、
『七番館』、と掲げたオンボロ館があったのだ。
……その館に、白魔法師の魔術工房『アトリイエ』がハマっていた。
「本当にごめんなさい。《ウィッチクラフト》は何が出てくるのか私にもわからなくて……」
「わかってたのに使ったのかよ!?」
「いえ、ですからわからないと」
「そういう意味じゃなくて!」
他でもないこのへっぽこ乙女の謎スキル、《ウィッチクラフト》によってこうなったのだ。
レベル99のカンストアイテムを作成できる……、
そう言われればいかにも最強だったが、結果、引っ越し用召喚獣なんて呼び出してしまってこのザマである。
下町から投げ飛ばされてきたアトリイエの衝撃は、否応なしに野次馬たちを呼んでいた。
「なんだこれ……」「何があったらこうなるの?」「また第七隊かよ」「憲兵呼んでくるか」「そうだな、いっそあいつらもしょっぴいてもらおうぜ」
他部隊の騎士たちだ。戦士風、学者風、暗殺者風などなど、制服のマイナーチェンジぶりで所属隊の特色がよくわかる。
「ご協力どうも」
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル6 双剣銃パラレラム ーー
「「「「「ぎゃー!?」」」」」
ハルトは次元の狭間から武器を受け取り、その双剣……いや双剣銃から、竜巻のごとき風属性の魔弾を乱射した。
風の群れに追われ、野次馬騎士たちは逃げていったのだった。
「……街のみなさんとはずいぶん違う対応ですね」
「あいつら嫌いなんだよ。あいつらも俺たちのこと嫌ってるし、お互い様だな」
『風』色の魔力蒸気が排気され、代わりに大気魔力『マナエーテル』がパラレラムの魔導機関にチャージされていった。
……他の砦の陰で、負けん気の強い騎士たちがまだ覗いてきてはいたのだが。
「バーカ!」「第七隊バーカ!」「そんなんだから貧乏なんだぞ!」「愚連隊!」「税金泥棒!」「姫様だけこっちによこせ!」
「あいつら……うちの隊長が出かけてるからってよくもまあ……」
再び、ハルトはトリガーへ指をかけて。
「ーーこぉらぁぁぁぁ!」
「んっ?」
しかし撃つまでもなく、それらは放たれたのだ。
「うちの家族になにしとんじゃあい!!」
『火』の魔導仕掛け……魔力噴射が青空に尾を引き、
直後、降り注ぐ爆撃。
「って、あいつは……!?」
それらは、林檎のような小盾の群れだった。
「「「「「ぎゃーーーー!?」」」」」
面で叩かれ、角で突かれ。一つ一つが生きているかのようなシールド型ビット兵器に追われ、野次馬騎士たちは今度こそ退散したのである。
「どっせい!」
と、逆噴射とともに【彼女】は着陸した。
小盾たちを、開かれたどてっ腹の向こうに格納しながら……、
「シュネーヴィ。アイドリングモード」
全長約2.5メートル、赤銅色の鉄巨人は降り立ったのだ。
「マリー!? ど、どうして……」
『……プシュー……ガガガ』
『火』属性の昂りを『水』属性のエーテルスチームとして排気したカノジョを、ハルトは唖然と見上げた。
「マリーさん? ……リビングアーマー(生ける鎧)さん、です?」
「ちがうちがう、こっちじゃけん」
……鋼のメイドカチューシャ(ホワイトブリム)を着けたカノジョの肩から、彼女は飛び降りた。
「こん子はシュネーヴィ。わしが開発した妖精機よ」
これまた赤銅色のラバーメイド……つまりゴム製メイド服を着た、幼女だった。
「あらら? わりゃーさん、ひょっとしてウワサの白魔法師さん?」
「ウワサという国は存じ上げないですが、ニフのイエと申します。はじめまして」
「イエちゃんじゃね! はじめましてえ、わしは見てのとおりのメイドさんよ」
「どこが見てのとおりだって?」
いやパッと見は幼女だが。赤髪を貴婦人風に編み上げ、出るところは出ている(ゆえにアブない)トランジスタグラマーな淑女だった。
「イエ、このちっこいのはマリー。見てのとおりドワーフの技師で、うちの副隊長なんだ」
「副隊長さん……」
「といっても今の第七隊には、隊長と副隊長と俺の三人しかいないけどな」
「ふふー、いきなし帰ってきてビックリしたでしょ?」
そのミニマムボディと褐色の肌は、職工種族ドワーフの特徴である。
「それがねえシェリスさんってばさめレースにドハマりして、予定してた外遊はパパーッと終わらせちゃったの。じゃけんわしだけーー……んう?」
と。あまりにも大きすぎる異変は、ちまっこい彼女には逆に見えづらかったのかもしれない。
「ってぇッ!? なんじゃあこりゃあーーーーーーッッ!?」
「ごめん」「ごめんなさい」
七番館のユカイな惨状に、副隊長マリーはやっと気づいたのだった。
○
『ガガガ!』
シュネーヴィの手刀が高速回転し、ドリルよろしく天を突く。
『プップシュー』
……ドリルではなくドライバーとして、最後の鉄板をネジ留めした。
「シュネーヴィ、おつかれさん~! ズィーヴェンツヴェルク(七妖精)!」
『シュパー!』
オーダーとともに、妖精機シュネーヴィは七つのパーツへと分離した。
頭、胸、腹、右腕、左腕、右脚、左脚。
それぞれがエーテルバーニアで飛び交い、
それぞれにフェアリーたちが搭乗していた。
ーー ……ドック ーー
ーー グランピーッ! ーー
ーー ハッピ~ ーー
ーー スリーピー…… ーー
ーー バ、バッシュフル ーー
ーー スニージー、っ、くしゅん! ーー
ーー ドーピー? ーー
妖精機とは、フェアリーを演算の中枢とする魔導仕掛けだ。
フェアリーギアスの『ギアス』には『歯車』と『契約』の意が掛けられているのだ。
ーー 《イークイップ》 ーー
マリーのカチューシャの中から七妖精とは別のフェアリーが顔を出し、暗澹と渦巻く闇……次元の狭間を開放した。
「また呼ぶわね! 遊んどいで~!」
ーー ハイホー!×7 ーー
鋼乗りの妖精隊は、その中へと恭しく飛び込んでいったのだった。
装備魔法は収納魔法と異なり、たった一座標の次元の狭間しか使えない……たった一つのアイテムしか保管できないが、七体組のメイドメカも概念的には一つである。
「さてと。ドワーフの名にかけて、これがベストな修理ね」
「さすが、あっという間だな」
ーー 技工 レベル2(達人級) ーー
改めて、ハルトはマリーとともに七番館を見上げるのだ。
修繕はもちろんのこと、鉄板や支柱を増設することで補強した……、
……アトリイエと合体した七番館を。
「いやいやいや本格的に合体してるじゃないかーーーーっ!?」
「奇跡的なバランスでもっちょるんよ。アトリエを引き抜くには館を崩すしかないわねえ」
「パラドックス!!」
なんということだ。素人が口を出すべきではないだろうと黙っていたら、こんなことになってしまった。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)