Karte.1-3「だから人の話を聞け」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属の青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1の白魔法師。16歳。
○
帝都ベルロンド近郊、通称『見守りの森』。
防壁から見えるほどの近場にあることから、子供をおつかいに出しても目が届く、という意のフィールドである。
都のそばに強大な魔物は棲みつかないものだ。彼らは己の存在が人間を挑発してしまうことを、そしてそのリスクをよくわかっている。
その一方。人間が歯牙にもかけない弱小魔物こそ、その立場を知ってか知らずか人里近くでひっそり暮らすのだ。
「《必中/すーぱーすとらいく》……!」
「しゃっしゃ、さめー」
エーテルで形作った杖を鈍器に、イエのアーツ(技)が魔物へ必中。
0ダメージ。
「……ビックリするくらい捻りの無いネーミングだな」
「ハァ、ッ、ハァ……説明しましょう、このアーツは相手に必ず命中する技なので、す……」
「だろうな。四回連続で相手は無傷だけどな」
「それは……技の効……果………なく、私が……レベル1……ひふ、ひゅー……ぅぇっ、ぇ、ふうううううう……」
「わかったわかった、あとは任せろ」
レベル1だからというよりも、イエはシンプルに最弱だった。
ーー ATK:G- DEF:G- DEX:G- AGI:G- INT:G RES:C+ ーー
ーー EP(Ether Point):残り3 ーー
「はぃ、はひ、けほけほ……」
ステータスはほぼ最低値だし、立ち回りもなっていない。簡単なスキル数発で魔力を浪費し、生まれたての小鹿のような足取りで後退する始末だった。
ーーさめめ!
ーーふかひれ!
ーーはでゃー!
二人が対峙していたのは、たかだか数体の青さめだ。
世界中どこにでもいる『さめ』種。ぬいぐるみサイズの魚が二足歩行し、武器として小石を持っている。
そのキュートな姿に違わず、最弱の一角とされる魔物である。
「よっと」
ーー 《イークイップ》 ーー
装備魔法。フェアリーが開いたごくごく小さな次元の狭間から、ハルトは武器を受け取った。
「さめゃ!?」「きゃびゃ!?」「ざりゃー!?」
鞘に入れたままの双剣でチョップ、チョップ、チョップ。タックルや噛みつきを難無くいなし、ハルトは青さめたちを泣かせたのだった。
ーーしゃーーーーく!×3
命を奪う必要も無い。イタズラモンスターたちはすたこらと逃げていった。
すると。彼らから発せられたエーテルだけが、この場に残った。
なけなしの輝きが、ハルトとイエへ宿った。
ーー レベルアップ! ーー
ーー レベル2 イエ ーー
「お。レベル2になったぞ、おめでとう」
「そうなのですか。やりました」
俗に『経験値』と呼ばれる体内魔力『オドエーテル』を溜めることで、ステータスが向上する。
それを指標化したものが『レベル』システムだ。
オドエーテルは戦いによって活性化し、余剰分となって溢れる。その経験値こそ、戦いを通じてより強く共鳴しあった者たちへ……勝者へ宿るのだ。
よって経験値を得るぶんには命のやり取りは必須ではない。体内魔力が愛想を尽かす程度に打ち負かしてやればいいわけで、あの青さめたちもスープにならずに済んだのだった。
「そうなのですかっておまえ、そういえばフェアリーは?」
「持っていません。使い方がよくわからなくて」
「マジか……」
フェアリーと契約していれば自他のステータス分析をしてくれるし、念話機能、写幻機能、紛失防止効果付きの装備魔法など、冒険者でなくとも何かと便利だ。
街のショップに行けばすぐに手続きできるというのに、勿体無いことである。
が、ハルトのため息をよそに、呼吸を整えたイエは採取を再開するのだった。
ーー 採取術 レベル0(凡人級) ーー
薬草、
果実、
木の幹から生えたオブラート薬包紙、
水草に埋もれた天然物のソーセージ、
風に乗って流れてきた熾天使の非破壊物質PT21号、
などなど。
「そこらの悪ガキだってレベル3ぐらいにはなれるのにな。白魔法師っていちおう戦闘職じゃなかったか」
「こう見えて私、戦闘経験はレベル30相当はあるかと」
「見栄張るのド下手かよ……。まあ、例のなんとかクラフトに頼らなかったのは感心だが」
「使いたくても使えません」
「そのほうが賢明かもな」
「そういうことではないのですが」
「じゃあどういう?」
「では帰りましょうかハルトさん。カゴもいっぱいになりました」
「だから人の話を聞け」
「《リターン》」
足元に回った魔力が、ゲートとなって二人を落とした。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)