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Karte.5-1「騎士団のお仕事は?」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

 そこは、次元の狭間ならぬ夢の狭間。

 白魔法師イエの自称守護精霊アリステラが立てた異空間だ。

 黄昏あるいは暁のような闇がどこまでも広がるなかに、舞台セットのように壁の無い小屋が漂泊していた。

「じゃあ17歳ということにしておくわ。よろしく」

「あいよぅ! これでおまえも第七隊の家族なのだわ!」

「うんうん、普通に話せる子で良かった~。オバケみたいな姿で出てきた時はどうしょーかて思たけんのう」

 廃材で組まれたテーブルセットで向かい合い。厳密には初対面といっていいものやら、この三人は早くも打ち解けている様子だった。

 闇色の長すぎる髪を旅人の服に流した、精霊少女のアリステラ。

 金髪縦ロールと黄金のバトルドレスが眩しい、残念系王女のシェリス。

 赤髪を貴婦人風に編み上げたラバーメイドにして、幼女風ドワーフレディのマリー。

「……イエ。あの時のアリステラの幻も、《ウィッチクラフト》の力なのか?」

「いいえハルトさん、スキルが違います。あれは《クラフトウィッチ》なのです」

 そして当然のように二人も招待されていた。

 灰髪が掛かった制服の襟を、青年騎士ハルトは手持ち無沙汰に整えて。

 桜髪が溢れそうな真白のローブを、極東乙女イエはどこか楽しげに揺らしていた。

「ああ。アレはね……」

 と、アリステラが小屋の外の闇へ目配せすれば。

 闇に『眼』の形が開かれ、そこに景色が映った。

 それは、形ある景色へと姿を変えた。

 ……イエの工房『アトリイエ』の内部、その記憶だ。

 ハルトたちベルアーデ帝国騎士団第七隊の四人、その幻影が立ち食いスタイルで蕎麦を啜っていて……。

 ……白魔法師を除いた三人が、蕎麦を噴き出していた。

 白魔法師の胸のタリスマンから、『闇』が立ち上がっていたからだ。

 ーー「あのね。レベルの無駄遣いはやめなさい」

 ーー「「「ぶーーーーッ!?」」」

 長すぎる髪と大いなる存在感を有した、少女の形の『闇』が……。

「べつに、おしゃべりするためのスキルではないのだけれど。いわば《ウィッチクラフト》とは逆のものかしら」

「逆って? なんだよ?」

「《ウィッチクラフト》は、イエの眼を通して私の一部を世界へ出力するスキル。それとは逆に《クラフトウィッチ》は、イエの眼を通して()()()()()()()()()スキル」

 ーー「おはよう。それとおやすみなさい」

 少女の影は皆がフリーズしているうちにみるみる儚くなっていった。

 ーー「はじめましての挨拶は後に取っておくわ。また、夢で会いましょう」

 やがて巻き戻るように、闇色クリスタルなタリスマンへ還っていったのだ。

「《ウィッチクラフト》の発動時に私の『声』を届けられるのは、あくまでも余剰リソースを利用したオマケ。けれども《クラフトウィッチ》を使えば、私は幻体げんたいながらも()()()()()世界へ干渉できるようになるわ。……この意味がわかるかしら」

「いや……」

「う、うーん?」

「知らねぇのだわ」

 景色が闇へと戻った。ハルトもマリーもシェリスも首を傾げるばかりだったが、アリステラはクスと笑っていた。

「……ハルトさん、マリーさん、シェリスさん。絶対に……絶対……何があっても、お姉さんを怒らせないでください、ね」

「あらま、イエちゃんの顔色がサメハダブルーになっちょる」

「ほはははは。闇の精霊だけに『深淵』にでも落とされるってかぃ?」

「……!!」

 バッッ。……イエが物凄い速さで振り向いたものだから「ほはっ?」、シェリスも面食らっていた。

(は、はは……まさかな。精霊ってだけでも神話の存在なのに、深淵だの何だの……)

 闇属性は次元と重力の力。

 かつてこの星は()を宿し、『深淵』や『地獄』などと呼ばれる闇をも有していたとかなんとか……。

「とにかくみんな、これからもイエをどんどん働かせてやって。この子が強くなるのなら、私の力もどんどん使ってくれてかまわないわ」

「任せとけぃネエちゃん! こんなオモシロイ人材を寝かせとけるかってんだぃ!」

 と、アリステラの会釈に対してシェリスは安請け合いしていたが。

 ハルトは苦笑いとともに後ろ髪を掻いた。

「っていっても、おまえの力に頼ってる調子じゃいつまでもレベル1のままなんだろうけどな……」

「そうかもしれないわね。でも、レベルやスキルってそれほど重要なものかしら」

「レベル99のカンストアイテムを出せるヤツが言うなよ」

 イエが強くなるのなら……とか言っておいて、その欠伸は無いだろう。

(……まあ、わからなくもないけどさ)

 ハルトは肩をすくめるのだ。

「そうそうアリステラちゃん、《ウィッチクラフト》のアイテムたちってあなたのオリジナルなの? 見たことも聞いたこともないものばっかりなんだもの。それともあがーでも(ひょっとして)、あなたが精霊なら……神話の時代のアイテム、とか?」

 そうマリーが興奮気味に訊ねれば、アリステラは……、

「…………ふ」

 笑っていた。

 あくまでも、静謐に。

(あ。デジャブ)

 ハルトが既視感を覚えた時には、

「ダメ。きみたちにはまだ教えてあげない」

 ウインク、そして第七隊の足下に穴が開いていたのだ。

「またかぁぁぁぁ!?」「ふわわわわ」「なんならあ~~~!?」「ほーっはっはっはっは!」

 皆は闇の中へ落ちていって……、

「おやすみなさい。また、良い夢を視させて」

 世界の縁から覗き込む彼女が、意識を失う直前まで鮮明に映っていたのだった。


 ○

 

「ふぐぁっ」「あうっっ」

 朝陽射し込むアトリイエ内。片隅に設けられた二人分の生活スペースにて、青年と乙女は跳ね起きた。

「……あいつは他の起こしかたできないのか?」

「おはようございます、ハルトさん」

 まだ足に残っているような落下感。ハルトがシャツに滲んだ寝汗を拭っていると、衝立の向こうからイエが顔を覗かせた。

 極東ニフ国の肌着であるという、これまた真白の『襦袢』を纏っている。

「あ、ああ。おはよう」

「よく寝られましたか」

「まあ……思っていたより、は。寝る前に淹れてもらったハーブティーのおかげかな……」

 白魔法師ローブと似たようなもののはずなのに、その薄手の寝間着姿にハルトはなんだかソワソワしてしまった。

「『同居生活2日目、睡眠に問題無し』です……」

「数えるなカルテをつけるな、いろんな意味で恥ずかしい」

「ですが同居を提案した身として、せめて食欲・睡眠欲・性欲のマネージメントぐらいは……」

「 や め て く れ !」

「わかりました。ハルトさんがそう仰るのなら」

 ハルトは空から降ってきたこの魔術工房に自室を潰され、昨日よりイエと同居しているのだった。

 ここはグレートベルアーデ城(正式名)外苑、パラダイスナイトガーデン(正式名)に佇む七番館。

 七つの帝国騎士隊のうちで最も小さな、はぐれ者たちの拠点である……。




 身支度を済ませて。

 来客用のロビー兼事務所とは名ばかりのリビングで、全住民である四人が円卓を囲んだ。

「うっし、じゃあ朝礼はじめんのだわー。いただきます!」

「「「いただきまーす」」」

 隊長シェリスが号令をかけると、誰もが卓上の朝食に手を伸ばしはじめた。

 本日のメインはバスケットに盛られた千切りパン。バターを塗って口当たりを柔らかくしてから、空の恵みメテオチーズやジャンガリアンハムハムを挟むとなお旨し。

「予定報告! 今日のシェリスさんはエン・ビブリオ胚書庫で鍛練兼トレハンなのだわ。そろそろ《リターン》の魔法書も狩ってこねぃとなー」

「わしは技師のバイトでガーネット通りとトルマリン通りまで出張ね。午後は帝王様の書類処理を助けちょるう思うわあ」

「俺はいつも通り留守番とパトロール……と、たぶんこいつのアトリエを手伝ってるんだろうな」

「私は調合、納品、施術をいくつか。開業白魔法師は2日目からが大変と申します……頑張ります」

 というわけで、

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 三々五々、第七隊騎士たちと顧問白魔法師は活動開始して……。

 ハルトはさっそく、イエの工房を手伝いはじめた。

 まず『調合』。

「ハルトさん。この銀色宝箱の蓋を砕いて、赤色6号の薬液に混ぜてもらえますか」

「こんなのが薬になるのか……?」

「これは中間素材の一つにしかなりません。あと9つの工数が必要ですね」

「うへえ……」

 それから『納品』。

「ごめんください。ご注文のデスボイス発声薬をお届けに上がりました」

「おおお待っでだよ。グズリにだよるのはなざげないげど、デズボイズはデズメダルのバナだがらねええ」

(……ツッコみたいが黙っておこう)

 特に興味深かったのは、『施術』だ。

「昨日渡した虫下しは飲んでもらえましたか」

「は、はい……でも白魔法師さん、もう痛くないので切らずに済むならそれで……」

「すみません。済まないです。ギリーワームは薬で死ぬことはまず無いので、表皮まで上がってきた今のうちに摘出したほうが賢明です」

「ううう」

 診察台へうつ伏せに寝かせた妙齢女性の服を、イエは腰が露わになる程度に捲り上げた。

 普段とは違ってフードを被り、その裏地に仕込まれたマスクを着けている。

「おまえなあ、白魔法師なら患者を安心させるのも仕事のうち……」

「《エコー》。《ターゲット》」

 イエが五指を翻せば、指先から放たれた可視の音波が女性の体内に響いた。

 指差せば、皮の向こうに潜伏していた扁平なる影に魔力の印が灯った。

「失礼します」

「にっっっっ」

 麻酔注射、メス、鉗子、ピンセット。

 ーー 医術 レベル1(職人級) ーー

 恐ろしいほどに遠慮無く、イエはそれらを振るっていった。

「《ヒーリング》」

 傷口を合わせ、回復魔法……。

「もう大丈夫です。……お大事に」

「あ、っ……ありがとうございます」

 フードとマスクを脱いだイエは。女性から不安の残り滓を全て消し去ってしまうほどの、慈愛の笑みを浮かべていた。

(ぐっ。……そ、その顔は不意打ちだろ)

 ……雑草の塊のような寄生虫をトレーで運びながら、ハルトが右往左往してしまうほどの。

(こいつってそんな顔もできるんだな……)

 そんなわけで、一日はつつがなく過ぎていき……。




 次の日。

「シェリスさんはドラクラン肉林にでも潜ってみっかねぃー。今日も張り切ってハクスラハクスラ」

「玉座の間とお妃様のお庭をいったりきたりじゃねえ、今日は」

「昨日とほぼ同じ。留守番、パトロール、あとこいつに無理にでも仮眠を取らせる」

「……ほみゃ……それは郵便受けではなくてタレルベボンバゴルドモンですハルトさん……お手紙がいっぱい……です……」

 そんなわけで、一日はつつがなく過ぎていき……。




 次の日。

「オガスラ陥没山の登頂タイムアタック大会に参加するのだわ! ちょいと一儲けしてくるぜぃ!」

「パール通りとダイヤ通りとプラチナ通りの街灯整備! ボーナス案件じゃあ!」

「こいつがやたらめったら受けまくった依頼から詐欺とイタズラの選別……」

「せっかく作ったので、この薬草プリンを売り出してみようと思います。あと144個あるので」

 そんなわけで、一日はつつがなく過ぎていき……。




 次の日。

「……ハルトさん。騎士団のお仕事は?」

「んー? そんなの週に一回あるか無いかだぞ」

「…………」

 ベッドから身を起こすと開口一番、ハルトはとうとう訊ねられてしまった。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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