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karte.4-1「保護者じゃなくて、勇者よ」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエを見守る青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにレベル99のアイテムをクラフトできる白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを??する自称『????』にして、自称『??』。自称??歳。

 この夜、青年が見る夢なんて決まっていた。

 ーー レベル99 祕退ひのきヘルクラヴス ーー

 ーー「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 早朝、究極の棍棒で下町にクレーターを穿つハメになり、

 ーー レベル99 転巨獣モットスキデス ーー

 ーー「おおおおーーーーい!? なんだアレなんだコレッ、なんとかしろーーーーッ!」

 昼前、引っ越し用召喚獣に魔術工房ごと投げ飛ばされ、

 ーー レベル99 バルケンの鋼精神薬こうせいしんやく ーー

 ーー「…………っぅー…………」

 夕方、ムキムキマッチョマンに変貌して衣服が全てはち切れ、

 ーー レベル99 歳殺先葬さいせつせんそうさめころし ーー

 ーー「……で、こいつはどうやって『使用』するんだ?」

 夜半、巨大さめとの対峙はともかくとして、

 ーー レベル99 飛行船スカイフック号 ーー

 ーー「やってみせる!!」

 深夜、空中帝都を地上へ戻すべく奮闘した。

 そして……、

 それでも……、

「ーーハルトさん」

 それらの狂乱の真ん中には、真白の最弱乙女がいて……。

「ーーおはよう。……といっても、まだ夢の中だけど」

「……は?」

 突っ伏していたテーブルからハルトが身を起こすと、対面の席には()()()()()が座っていた。

「イエ……じゃない、誰だ?」

「ずいぶんなご挨拶ね」

 日暮れ後の黄昏……あるいは夜明け前の暁のような、闇色の髪の少女だ。

 怜悧そうな切れ長の相貌。長すぎる髪も相まって大人びて見えるが、背格好からするとあのイエより少し年上ぐらいか。

 外套とセットになった麻のビスチェとスカートの装いは、この南エウル大陸様式の『旅人の服』と呼ばれるものである。

「イエならそこにいるわ。少し落ち着いたらどう」

「こんばんはハルトさん」

「ぅぉっ」

 振り向けば隣の席に、桜色の髪の白魔法師。極東ニフ国の乙女……イエが座っていた。

「お姉さんの言うとおり、リラックスをオススメします。はい深呼吸をどうぞ、すーはーすーはー……」

「い、いやいやいやよせって。なんだよこの小屋は……」

 見ればここは、掘っ立て小屋。壁も天井も廃材を寄せ集められているし、ハルトたちが座しているテーブルや椅子も手作りらしい。

「い?」

 しかもこの小屋、

 そう、まるで舞台に組まれた演劇セットのように一面だけ壁が無かった。

 その向こうには……、

 観客席ではなく、果ての見えない闇が広がっていたのだ。

「なっ、なんなんだぁぁぁぁ!?」

 光がまったく無い……あるいは光の影にできた漆黒ではなく。それはやはり、黄昏か暁のような闇色だったーー。

「私はアリステラ。この子の守護精霊よ」

「ちょ、ちょっと待てこれ以上畳み掛けるな! いったん落ち着かせてくれ……!」

「だからそう言ったじゃない」

 ーーこの少女のような、静謐なる混沌の色だ。

「……精霊? エーテルを司る高次元存在とかいう……神話に出てくるようなあの精霊か? 冗談だよな」

「妖精も幽霊もいるのに、精霊は信じないのかしら」

「それとこれとは話が……いや、まあいいわかったよ。ここが夢であんたが精霊だとして、なんなんだよこの状況は」

「そうね、お茶の一つでも出せたらよかったのだけれど。不躾で申し訳ないわ」

 精霊。神代にこの星より産み出され、やがて人間へ反旗を翻したあと()()により高次元へ還されたというが……。

「というわけでよろしく。これからもイエのそばにいてあげて、ハルト」

「ん?」

 少女アリステラが差し出してきた手。……ハルトはつい、握手を交わしてしまった。

「……で?」

「で? べつにそれだけよ、声だけじゃなくてきみにちゃんと挨拶したかっただけ」

「ちゃんと挨拶……って、そういえばその声! 妙な幻聴の正体はおまえなのか!?」

 ーー「落ち着いて。きみがいちばんリラックスできる場所を思い浮かべなさい」

 ーー「つまり鋼の精神が無いと使えない無敵薬、ね」

 ーー「処理に困ったモノを宇宙で爆破するアイテムだから、これ」

 そう。イエと出会ってからというもの事ある毎に聞こえてくる声があった。

 まるで肩のすぐ向こうから呟かれるように、しかし、振り向いても誰もいない静謐さとともに。

 それは、そういえば、彼女が有する最強のトンデモスキルを使った時にこそ響く幻聴で……。

「どういたしまして。私のヒントが無かったら今頃、アトリイエは海の向こうまで飛んでいたかもしれないわね」

「いやあの時はともかく、他は楽しんでる風に聞こえたぞ……」

「心外ね。絶体絶命のピンチ以外は何が起ころうとも真剣に見守る主義よ、私は」

「……イエ。こんなのとどこで知り合ったんだ」

「お姉さんとは()()()という場所で会いました」

「人の島……知らないな」

「私もよくわからないのです。魔導馬車に撥ねられたら流れ着いていたので」

「はあ!? 撥ねられた!?」

「うっかりさんでした。白魔法師になったその日に、崖から海へポチャンと」

「絶対そんな可愛らしいものじゃないよな!?」

「世界はきみたちの知らないことだらけよ。不思議な隠しダンジョンとでも思っておきなさい」

 アリステラは壁の無い闇へ横目をやってみせた。

 するとどうだろう。

 闇に『眼』の形が開かれ、そこに景色が映った。

 静謐なる岸辺だった。

 異様に霧深く、黄昏とも暁ともつかない薄闇が天地に立ち込めている。

 そして闇色の輝きが、灯台がごとく浜の境界に聳えていた。

「……クリスタル」

「あれは私」

「は?」

 ーー「ーーあなたは魔物か何かですか?」

 ーー「まさか」

 闇色のクリスタルへ、白魔法師の幻影が歩み寄っていた。

 ーー「私は、ただの()()よ」

 ーー「はあ」

 まるで抱擁されるように静謐な、輝きへ。

 ちょうど剥がれ落ちそうになっていた魔石の先触れへ、手を伸ばした。

 ーー「ユウシャって、なんですか?」

 輝きが、深く、深く、繋がっていった……。

 ーーポンッ

 ーー「ぁぅ?」

 と、本当に剥がれ落ちたクリスタルが形を成した。

 タリスマンである。

「それも私」

「はあ?」

 アリステラは幻の中のタリスマンと、イエがローブの中から手繰りよせたタリスマンとを指差してみせた。

 ーー「私はアリステラ。これからあなたの守護精霊になってあげる」

 ーー「……ニフのイエと申します。白魔法師です」

 ーー「それもレベル1の白魔法師、ね」

 ーー「わかるのですか?」

 ーー「もちろん。あなたには今からレベル上げをしてもらうわ」

 ーー「はあ。戦闘以外ならなんとか……」

 幻が歪み、移り変わる。

 ーー「《ウィッチクラフト》」

 手作りのキャンプが設えられた岸辺に、たくさんのレベル99アイテムたちが散らばっていて。

 ーー「ふう。ようやくアタリを引いたわね」

 ーー「ぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅ」

 ーー「投げ匙スプリンピア。武器としてはただの鈍器だけど、どんな状況からでも逃げ出させてくれる効果付きよ」

 逆さまの流星がごとく宙をゆく巨大スプーンに、フードを引っ掛けられ。白魔法師の幻は霧の海へと飛翔していったのだった。

 幕が下ろされるように、景色は闇へと戻った。

「これが私」

 と、闇色少女アリステラは胸元に指を添えたのだ。

 ……ハルトがイエへ顔を向けると、すでに彼女はまっすぐな眼差しで応えていた。

「……ひょっとして。《ウィッチクラフト》っていうのは、おまえじゃなくてこのアリステラのスキルなのか?」

「はい、お姉さんは島を出てからも私に力を貸してくれているのです。最初はよくわからない人でしたが、白魔法師としてのノウハウや一人暮らしのコツまで教えていただいて頭が上がりません」

「いいえ、私は智慧を貸しているだけ。それを力に変えているのはあなたよ、イエ」

「そう言われても実感は無いですけど……がんばります、お姉さん」

「イエの保護者みたいだな……」

 イエが紡ぐ『お姉さん』の響きには、親しみの中にも畏敬の念があるようだった。

 そしてハルトもまた、言い知れない存在感をこの自称精霊に感じていたのだ。

 それを知ってか知らずか、アリステラは不敵に頬杖なんて付いてみせる。

「保護者じゃなくて、勇者よ。きみたちが自分にできることで戦い続ける姿を視るのが、私の生き甲斐なの」

 笑っていた。あくまでも、静謐に。

「……その、ユウシャってなんなんだ?」

「私も気になります」

「ダメ。きみたちにはまだ教えてあげない」

 ウインク。

「シドニーとマリベル……ああ、いいえ、シェリスとマリーにもよろしくね」

 ガコンと、ハルトとイエの足下に穴が開いた。

「のわぁぁぁぁ!?」「ふわわわわ」

 二人は闇の中へ落ちていって……、

「おやすみなさい。また、良い夢を視させて」

 世界の縁から覗き込む彼女が、意識を失う直前まで鮮明に映っていたのだった。


(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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