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Karte.3-4「つまりもなにも」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエを見守る青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにレベル99のアイテムをクラフトできる白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

「……。……なにカッコつけてるんだよっ! おまえが元凶なんだからおまえが本気出すのは当たり前!」

「ほはははは! んじゃ、シェリスさんは向こうーーの『水』と『風』をやってやらぁ! 兄弟はこっちの『土』と『火』な!」

 ハルトは双剣銃パラレラムを抜き、ここ城壁北東にある『土』のフックと南東の『火』のフックを見据えた。

 一方でシェリスが買って出たのは、ここから最長距離である南西の『水』と北西の『風』だ。

「イエ! サポート頼めるか!」

「……! はい、補助や回復ならお任せください……!」

「任せた! マリーも、俺のことはいいからそいつを連れてきてやってくれ!」

「はいはあい!」

 そろそろ星空が近い。近すぎる。

 心なしか息苦しくなってきたし、気圧の変化によるものか耳の奥も痛くなってきた……。

「ハルトさん、これを……!」

「ああ!」

 イエから投げ渡された小瓶をハルトは呷った。

 ーー ステータスアップ! ーー

 ーー ハルト AGI:C → AGI:C+ ーー

 ーー 効果時間 残り:60秒 ーー

 瞬時に四肢まで浸透した霊薬……敏捷(AGIlity)ポーションが、疾走のフォームに勢いをプラスした。

『爆発まで、あと、1分』

「ゴー-ーーッ!」

「くっ……!」

 双剣銃パラレラムが『土』のフックをぶち抜いた連射が、号砲の代わりだった。

 レディ(Ready)は無し。もとより、ハルトの背を押して駆け出した王女はレディ(Lady)でもない。

「てーーぃっ……《ヴァッサー・ダス・クローネ》(渇かぬ水冠)ぇ!」

 アレなる王女は、

 手のひらに発した魔力の冠を、シャベルに叩き込んで属性武器へと変質させた……、

 ーー レベル50 魔法戦士 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー

 魔法剣ならぬ魔法シャベルの使い手だ……!

 回転斬りを放った刃から、竜のごとき水流が飛び出した。

「どらっぐおーーん!」

 シャベルをボート代わりに、シェリスは波に乗ったのだ。

 それが落下するよりも早く、次々とシャベルを切り返しては新しい波に乗っていって。

 街並みの空を、信じがたいスピードで突き進んでいったのだ。

「速いです……っ!?」

「イエちゃんよそ見しぃひん!」

「は、はい……!」

「ああ、あいつはほっといたって問題無い……!」

 一方、ハルトは『火』のフックを目指して城壁上を走りだしていた。シュネーヴィに掴まったイエとマリーとともに。

 エーテルバーニアで飛べるシュネーヴィだが速力は高いとはいえない。しかもマリーとイエを担っていることで負荷が掛かり、ハルトの全力疾走にどうにかこうにか追いついている様子だった。

 二人を置いて、ハルトだけシュネーヴィに運んでもらったほうが勝算は高かっただろうか。

 いやそれは違う。できることを少しでも増やすために、青年兵士には仲間が必要だ。

 ハルトはまだ、あの王女のように強くはないのだから。

「…………っしッッッッ!」

 シェリスはもう、『水』のフックまで到達していた。

 だが、真に速かったのはそのスコップ捌きだった。

 眼前を貫くような『角』の構えから、一閃。

 纏った『水』のエーテルが軌跡を描いた時には、シェリスはもう元の構えへ刃を翻していた。

 ーー ベルアーデ剣術 レベル2(達人級) ーー

 これぞ、ベルアーデ剣術。

 電光石火……捲土重来……速さを以て万事を征服せしめる、ベルアーデ帝国の王道そのものだ。

 『水』のケーブルが切断されればフックもろとも消え失せ、遅れてやってきた斬撃音はあまりにも清涼だった。

「シェリスさん、スゴいですっ……!」

「じゃけんよそ見しぃひんの!」

「は、はい……!」

「レベル50だからな……! ちょっとした世界の危機ぐらいなら救えるレベルだってのに、あのバカは!」

 対してハルトは走るのだ。シュネーヴィを背の向こうに離し、走る、走る、走る。

「タイミングぐらい合わせろ、よっ……!」

「ハルトー! い、いけるんー!?」

「くっ……!」

『爆発まで、あと、10秒』

 しかし、もう、間に合いそうにない。

 道のりの七割は踏破していた。エーテルの輝きだけではなく確かなケーブルとして目視できる距離まで来た……が、それはいまだ針先ほどにも細く遠かった。

 そう。これ以上近づくのは、もう間に合わない。

「……やってみるしか、ない!」

 だからハルトはその場でスライディング……片膝を付き、彼方のターゲットへと双剣銃を一丁だけ向けた。

 緩やかにエーテルを取り込んでいた魔導機関を、オーバーロード覚悟で豪快にチャージさせていって。

「ちぃとごめん! イエちゃん!」

「えっ」「は」

 イエを天高々と放り上げたシュネーヴィが、今度はハルトを掴んで。

「いってきんさぁぁーい!」

『プシュゥゥ!』

「だっ、そっ、くぁぁぁぁ!?」

 砲丸投げよろしく、『火』のフックへ投擲。

「《デクス・ブースト》……!」

 ーー 支援魔法 レベル0(凡人級) ーー

 そんななかでも、彼女の魔法はハルトへ届けられたのだ。

 シュネーヴィにキャッチされながら。身を強張らせながら。

 それでもイエは、その両腕を、眼差しを、ハルトへまっすぐ向けていたのだ。

 『水』の魔力が、体の芯に、魂へ取り込まれる。

 水属性のエーテルの高まりは、すなわち器用度(DEXterity)の向上だ。

 ーー ステータスアップ! ーー

 ーー ハルト DEX:C+ → DEX:B+ ーー

 ーー 効果時間 残り:20秒 ーー

 ただし強化魔法は、効果量こそ多いが効果時間は短い。

「……十分だ!」

 滑空とともに急接近していく目標へ、ほとんど逆立ちのように得物を構え直した。

 視界も聴覚も指先の感覚さえも、ただ、狙いへ向かって絞られていって。

「やってみせる!!」

 トリガー。

 放たれた火の魔弾は、一抱えほども大きかった。

 そして。

 ーーカッ……キィィンッ!

 ……風の魔力とともに飛んできたシャベルにちょっとだけ軌道修正され、『火』のフックを破壊したのだった。

「ぐぬぬっ……」

 シャベルは、城下町の空へとトンボ返りしていった。

「ふっふーん。だわ」

 『風』のフックを切断した美姫が、足場状に巻かれたミニ竜巻の合間で宙を舞っていたのだった。

『解除完了……』

「ハルトさん」

「イエ! 頑張ったな!」

 シュネーヴィの鉄腕に回収されたハルトと、もう片方の腕に抱かれたイエと。

「……えっと。今さらなのですが、この後はどうなるのでしょうか」

「「「あ」」」

『しばらくお待ちください』

 ーーパァァァァンッ!

 飛行船が木っ端微塵に弾け飛んだ。

 帝都ベルロンドは、落ちていった。

「「「「!??!!??!」」」」

 血の流れまで圧し延ばされるような浮遊感、いや、落下感。

 雲を突き抜けて。あるべき場所へ急降下。

 あっという間だった。

「「「「っ?」」」」

 史上最凶の帝都メテオが、アポカリプスの一撃を星へ叩き込む直前……フワリと、減速したのは。

 ーーゴゴッ

 あっという間に。抉り取られた地盤も含めて、まったく元通りに着陸したのだった。

『手順終了。お疲れ様でした』

「「「「………………」」」」

 これが仲間意識というものか。全員集合のもと防壁にしがみついた四人の前にミニチュア飛行船が現れ、エーテルの霧として散っていったのだった。

「……。……ふぃーーっ! よっ、これにて一件落着ぅぅ」

「なわけないじゃろ。今回のお説教はきっと徹夜コースね」

「でゃーーーーーーーー!」

 シェリスはまたもマリー&シュネーヴィに王城まで連行されていったのだった。

「ハルト、イエちゃん、おつかれさんーーっ。おやすみなさい!」

「ああ……おつかれ……」

「おやすみなさい……」

 ……深夜の帝都はいまだ喧騒にまみれていたもの。防壁の縁にへたり込んだ青年と乙女は、夜空にくるまれるような静けさの中で息をついた。

 ーー 新着Fメール 1件! ーー

「は? お次はなんだ……」

 ハルトはフェアリーを目の前に呼び、ウインドウを描かせた。

 『第七隊 クエスト・クレーム処理用』とラベルされたフォルダ内、メールを開いて……。

「……って……は、ははは。なあイエ、これ見てみろ」

「はい……?」

 そこにはこう書かれてあった。

「『シェリザベート王女様へ

 この度は、正規のクエストでないにもかかわらずお助けくださり本当にありがとうございます。

 あの大きなさめとともに突然消えてしまわれてからずいぶん経つため、教えてくださったこちらのアドレスへ連絡を差し上げました。

 御身のご無事を願っております。ぜひともまた、お声をお聞かせくださいませ。

 ルクスエン大公国 ワルル村一同』……」

「よっと。……お、夜勤連中のオヤツかな」

 ハルトは脇に転がっていた木箱からスモモを取り出すと、剣銃で半分に切ってイエへ投げ渡した。

「……つまり、シェリスさんは……」

「つまりもなにも。バカだよ」

 二人は横目を交わしあって。小首を傾げあって、スモモを齧った。

「ハルトさん。やっぱり私、みなさんと家族になれてよかったです」

「疲れてるんだよ。これ食べたらもう寝ようぜ」

 0時。この乙女と出会ってしまった1日が終わり、また新しい1日が始まったのだった。

 最強スキルは、最弱白魔法師を守って正しくお使いください。


  続

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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