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Karte.3-1「ほぉぉぉぉっはっはっはっはっはぁぁ!」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエを見守る青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにレベル99のアイテムをクラフトできる白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

 ベルアーデ帝国、帝都ベルロンド。

 グレートベルアーデ城(正式名)外苑、パラダイスナイトガーデンにて。

 帝国騎士団を構成する各隊の砦が並ぶなか、城壁沿いの隅も隅に一際小さな拠点があった。

 七番館。

 白魔法師の魔術工房『アトリイエ』がぶっ刺さった、変わり者たちのマイホームである。

「《リペア》」

 夜。三日月が覗き込むアトリイエ内に、粉塵状のエーテルが瞬いた。

 真白の袖に包まれた細指から、作業台の上へと振りかけられて……。

 白金色の騎士制服が、軽装のプロテクターとともに完全修復された。

 ()()の内より活性化されたオドエーテル……経験値が、溢れた先から彼女自身に宿った。

 ーー レベルアップ! ーー

 ーー レベル2 イエ ーー

「直りましたハルトさん。ついでに私、レベルアップです」

「あ、ああ、サンキュ……」

 白魔法師イエ。そして第七隊騎士リヒャルト……もといハルト。

 今朝がた邂逅したばかりの乙女と青年は、今日だけでもいくつもの珍騒動を経て……一つ屋根(正確には二つ屋根)の下で暮らす仲間となったのだった。

 診察スペースで待っていたインナー姿のハルトは、一張羅の制服へ着替えはじめた。

「……………………」

「…………なんだよ」

「元の寸法どおりに直せましたか?」

「ああ、ジッと見られてて着替えにくい以外は完璧だよ……」

「……? 安心してください、白魔法師ですから恥ずかしくありません。あの時は服がいきなり弾けたので動揺してしまいましたが……」

「その話はしなくていいっ!」

「失礼しました」

 ……本当に。今夜、ここで落ち着くまでにいろいろあったものだ。

「あのなイエ。たしかにレベル1から2に上がるのなんて裁縫仕事一つでも十分だけどな、だからって例の《ウィッチクラフト》は乱用するなよ。頼むぞ」

「もちろんです。緊急時しか使わないように努めています」

「……俺に披露するためだけに、このアトリエをぶっ飛ばしたのはどこの誰だ?」

「何事にも例外はあります」

「このう、天然危険物め……」

 イエは虚弱で貧弱な最弱白魔法師なのだが、経験値を捧げることでレベル99のアイテムを()()()()()クラフトできるのだ。

 経験値とはなにも戦闘のみで得られるものではない。無論それに比べれば微々たるものだが、心身の活性化を伴うものなら文字通りの経験となりえるのだ。

(見たことも聞いたこともないアイテムばかり。というかクラフトしてる本人も、使ってみるまでどういうモノかわかってないみたいだぞ? なんにせよヒジョーに危険だ……)

 ようやっと落ち着けた静夜だからこそ、ハルトの胸中ではとある懸念が浮き彫りになっていた。

「……本当に、金儲けとかそういう方面に走らないでくれよな」

「お金。……その発想は無かったです、けどもこのスキルでそういうことは現実的ではないかと」

「おまえはそうでも、そういうバカを考える非現実的なバカもいるんだよ」

「はあ。バカの二乗ですね」

 ーーバッカァァァァァァンッッ!!

「「っ……!?」」

 そんな時だった。窓どころかアトリイエ内をも震わせ、衝撃音が降ってきたのは。

 ーーしゃぁぁぁぁぁぁぁくっ!

「なんだ!?」

「鳴き声、です……っ?」

 次いで、その咆哮が窓の向こうへと注目させたのだ。

 三日月が、消えてしまっていた。

 あまりにも青々と映えた巨影のせいで、月も星も隠れてしまっていたのだ。

「……ここにいろっ、イエ!」

「いいえ、私もいきます……!」

 二人はアトリイエから飛び出した。

 ガーデンには拠点拡張に備えた空き地が点在しており、それは七番館の前にもあった。

 粗末な柵と『七番隊演習場』との立て札で(不法)占拠し、広さだけは十二分な更地が広がっている。

 そこに、

 ーーしゃめぇぇぇぇ……はぁぁぁぁん……

 七番館よりも大きな、魔物がいたのだ。

「すごく大きな青さめです……!」

「違うっ、よく見てみろ! さめはさめでもベビーキングさめプリンスセカンドDだ……!」

「……。…………えっと?」

 ーーべびぃぃきぃぃんぐしゃしゃーくぷりっぷりっでぇぇぇぇ……!

 王冠とマントを戴き、手作りの金ピカトマホークを手にした巨大青さめだった。

 ーー 激レア! ーー

 ーー ベビーキングさめプリンスセカンドD ーー

 オマケのような手足を投げ出しておすわりしていたのだが、どうも機嫌が悪いらしく尾ビレを逆立てていた。

「ごめんなさい、どう違うのですか?」

「え? いや、だから青さめの希少種にさめどらごんっていうのがいてだな……そいつが四大属性のクリスタルさめとさめクイーンに認められるとさめプリンスになって、次に……って長いわ! 説明できるか!」

「落ち着いてください」

「こっちはレベル2の白魔法師が一緒なんだぞ! もっと段階を踏んで出てこいよ!」

「落ち着いてください、落ち着いてください」

 ーー リリリリン! 念話 着信 着信…… ーー

 べつに魔物相手にメタクソ言っているのではなかった。フェアリーが先ほどからコールしていたので、ハルトは察してしまったのだ。

 青さめの頭上には、帰還魔法リターンの残滓が散っていたから……、

 ーー 着信 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー

()()()()! おまえに言ってるんだぞ!」

 その高貴なる名を、フェアリーが無邪気に謳っていたから。

「ーーほぉぉぉぉっはっはっはっはっはぁぁ!」

 轟く、高飛車なるバカ笑い。

 ンガ、と巨大青さめがえづいた様子で大口を開けた。

「とーーーーーーーーうッッ!」

 口内から、いや、正確には腹の中から一つの影が飛び出した。

 華やかなようでいて、茨のようにソリッドなシルエットだ。

 月明かりが、片手に握られた長柄のダイヤ色を照らした。

「だわ!!」

 ーー レベル44 金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット ーー

 両足を乗せた()()()()を地に突き立て、着地。

「なんでぃ兄弟! いるなら念話ぐらい出ろってんのだわ!」

「どうせ『助けろ』って念話だろ……!」

 いわゆる縦ロールな、セミショートのブロンドヘアー。

 長身のスレンダーボディに、これまた黄金色を基調としたバトルドレスを纏って。

「助けが必要ですか? はじめまして、ニフのイエと申します。白魔法師です」

「おぅっ、おまえがマリーの言ってた新入りかぃ! シェリスさんは第七隊隊長のシェリスさんだぜぃ、よろしくたのむのだわ!」

「いちおう言っておくと、いちおうこの()()()()()()()()な……!」

 シャベルを担いだ、絶世の美姫である。

「王女様……! すごいです、とてもそれっぽいです。見た目は」

「そうだろうそうだろう、見た目だけは本当にな」

「てやんでぃ、仲良しかてめぇら!」

 シェリザベート王女、通称シェリスは八重歯を露わにカカと笑うのだった。

「それはそうと、どこから出てくるんだよ! このさめはなんなんだ!?」

「ほははははは! こいつをさめレースに走らせりゃ大儲け間違いなしっ、SSS級の競争鮫に育て上げるのだわぁ!」

「いや間違いしかないってのぉぉ!」

 そういえば外遊先でさめレースにドハマりしたとかマリーが言っていたが、この王女の悪い癖が出てしまったようだ。

「あ。わかりましたハルトさん、『バカの二乗』さんです」

「ああ……こいつバカなんだよ。ワケはいろいろあるんだが、王女のくせにバカなんだよ……」

「バカバカうるせぇやぃ! とにかく助けやがれぃっ、こいつを大人しくさせるのだわ!」

 ーーしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっ、ぐわぅぅぅぅ……

 と、不機嫌極まりし大怪獣をシャベルで示されてもどうしたものか。

 しかも、辺りはにわかに騒がしくなってきたのだ。

「王女様ぁ!」「またですか姫殿下ぁぁ!」「門の陣! 構え!」「城内には絶対入れるな!」「ある意味もう入ってますがね」

 黒金色の軍服を着た帝国軍兵士たち、しかも城内勤めのエリート近衛兵たちである。制式装備のブロードソードとラウンドシールドを携えていた。

 それに他の砦からも、千差万別の得物を手に騎士たちが駆けつけてくる。

「あーッ!」「やぁっぱり姫様かよぉ!」「いいかげんにしてくださいよ!」「ったくもう第七隊といいこの人といい……!」「あの王女だからあの第七隊なんだろ!」「姫様おかえりなさぁぁい!」「きゃーーシェリザベート様ぁ!」「ぶひぃぃっ姫様ぁぁ!」

 ……若干名、脂っこい声援を送ってくる者たちもいたが、大方は迷惑千万といった眼差しを向けてきていて。

「……昼間も似たような光景を見ましたね」

「第七隊にようこそ。そもそもうちは、このバカ姫様が無理矢理結成した『何でも屋』部隊……という名のトンデモ部隊だからな」

 なまじシェリスが王族であるのも相まって、他部隊から腫れ物扱いされているというわけである 。

「よぉしおまえたち全員シェリスさんに続けぇぇぇぇぃっっ、突撃ーーーーーーッッ!!」

「「「「「「「「「「「……………………うーん」」」」」」」」」」」

「っておいコラァァァァもっと熱くなるのだわぁ!」

「無理言うなって」

「えい、えい、っ……です」

 ーーしゃぁぁぁぁぁぁくぅぅ……?

 ぺちぺち。おらおら。……号令に応えたのはハルトとイエだけであり、巨大青さめの肌をコラーゲンたっぷりに震わせるだけだった。

 シェリスとて人望が無いわけではないのだが、奇行蛮行のスケールが大きすぎる。常人なら人生に一度出会うか出会わないかのボスモンスターをポンと出されて、兵や騎士たちが尻込みしてしまうのも無理からぬことだった。

「……あわわわわ、き、緊急事態です。《ウィッチクラフト》」

「おまえはもっと冷静になろうな!?」

「だわ?」

 ーー レベルダウン! ーー

 ーー レベル1 イエ ーー

 イエのローブの内でタリスマンが経験値を宿し、

 ポンッ、と、彼女の目の前にアイテムがクラフトされた。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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