事の始まり 4
あれは夢だったのか。夢であって欲しい。
迎えに来てくれたお父さんと一緒に電車に揺られながら、ぼうっと地下鉄の窓の外を見る。
何にもないのに、真っ暗でもなく、所々明かりが灯る灰色の景色。
僕の今の心の絵を描くとしたら、こんな感じかもしれない。
そんな僕の気持ちを知らず、お父さんは隣で携帯ゲームをしている。いいよね、お父さんは楽しそうで。現実を知らないからゲームなんか出来るんだ。
バッグに入れていた携帯が震えたから、隣の人にぶつからないように携帯を取り出す。
メッセージの通知が届いていた。伯母さんからだ。
さっきまで、もう伯母さんでなくなったナニカと一緒に白と遊んだ。子猫だからか白は凄く元気で、もちろん可愛かったけど、僕の心はそれどころではなかった。白よりもずっとびくびくしていた気がする。
このメッセージは、果たして本当に伯母さんからだろうか。それとも、やはりさっきのナニカからだろうか。
どきどきしながらメッセージを開く。
『全世界の全猫好きに私は宣言する!
猫が猫で猫だから
私は生涯猫を愛し敬い崇め奉ると誓う!
猫万歳!
猫万歳!
猫万歳!』
訳が分からなかった。伯母さんの携帯に潜んだナニカからのメッセージだと言う事だけわかった。
すると、また着信が届いた。
『ごめんなさい、間違えてちーくんに送ってしまいました。
今日は来てくれてありがとうございます。また白と遊んでくださいね。では、また』
今度は伯母さんからだった。間違えたって言うけど、あれは誰に向けたメッセージだったのだろう。気になるけど、多分僕が一生知ることは無い次元の話だ。
メッセージの後には、白を膝に乗せてる僕の画像が届いた。
「どうした、ちーくん。ニヤニヤしちゃって」
彼女か、と言いながらお父さんがこちらを見ていた。ニヤニヤしてるのはお父さんのほうじゃん。そう思ったけど、そうか、僕もニヤニヤしていたのか。
伯母さんではないナニカには驚いたし、正直怖かった。でも、あんなに子猫に愛情を注げるナニカを、僕は嫌いじゃないのかもしれない。
『今日はありがとう。また遊びに行きます。またね』
伯母さんと、ついでにナニカにも届くように。僕はメッセージを送って携帯をしまった。