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僕と猫と伯母さんと、時々ナニカの物語  作者: 十字たぬき
僕と伯母さんと猫

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2/23

事の始まり

 



 何故こうなったのか。


 僕は自分の罪を贖う(あがなう)ためにも、あの日のことを忘れては行けない。





 その日は学校が終わって、いつも通りに家を目指して帰っていた。


 街路樹に、電信柱。友達の住む家に、知らない人が住むマンション。いつもと同じ帰り道の光景だったはずなのに、今日は少し違った。


 僕の家のすぐ近くで、血まみれの子猫が倒れていたのだ。


 車に轢かれたのだと思う。


 呼吸で身体はかすかに動いていたけれど、このままじゃ死んでしまう。


 僕は震える腕で子猫をゆっくり抱えながら、急いで家に帰った。


 勿論お父さんは仕事でいないし、今日に限ってお母さんもいなかった。



 どうしようどうしようどうしよう。



 上手く考えられない頭で、誰かに助けを求めなければと思った。


 普通に考えれば、近くのスーパーに買い物に行っているお母さんに連絡を取るべきだったんだろう。でもその時、僕の頭に浮かんだのは、僕の知る中で誰よりも頭がいいと思う伯母(おば)さんだった。


 震える手でなんとか一通のメッセージを送る。


『たすけて』


 頭がこんがらがって、それしか送れなかった。一秒でも早く伯母さんに連絡をすることだけを考えていたせいかもしれない。


 今思えば、伯母さんはお父さんと一緒でこの時間は仕事しているだろうし、悪手(あくしゅ)だったはずなのだ。


 だけど、メッセージを送ってすぐに伯母さんから着信が届いた。


 血まみれの猫を拾った、このままじゃ死んでしまう。そう伝えたつもりだけど、上手く言えたかはわからない。伯母さんの相槌と共に、微かに(かすかに)電話越しにキーボードを打つ音が聞こえた。


 おばさんは、タクシーを呼んだからそれに乗って動物病院に言って欲しいと言った。すぐに私もそこに向かうとも言ってくれた。


 横にいる猫は目も開けないような状態なのに、その時の僕はこれで救われると思った。


 それから暫く(しばらく)するとドアのチャイムがなった。タクシーの運転手さんが迎えに来てくれたのだ。バスタオルで巻いた猫を抱えて、僕はすぐさまタクシーに乗った。


 タクシーが発車してから、ふと気づく。携帯も財布も家に置いてきてしまった。こんな緊急時でも、お金がない事を言い訳にできず、とてつもない罪悪感の中お金がないことを運転手の人に伝える。それを聞いた運転手さんは、優しい声でネット決済なので大丈夫と言った。


 よくわからなかったけど、きっと伯母さんが払ってくれたのだ。頭がいいってすごい。僕の知る誰とも違う。


 毎日働くお父さんも、美味しいご飯を作ってくれるお母さんも凄いと思うけど、同じ状況でこんなにすぐに行動してくれるのはきっと伯母さんだけだと思った。


 もうすぐ着きますと言われて、いつでも降りられる準備をする。


 着いた動物病院は大きかったけど、運転手さんが入り口の前に車をつけてくれたから迷うことはなかった。急いで自動ドアをくぐって受付に向かう。


 猫が死にそうなので助けてくださいというと、すぐに預かってくれた。


 問診票と言われて紙を渡されたが、手が震えて上手く字を書けなかった。なんとか名前だけ書ききった時に、受付から女の人が出てきて僕の名前を確認すると、メールで連絡を頂いているので、ここまでで大丈夫ですよと言う。


 これも伯母さんが何かしてくれたのだとわかった。


 携帯も持ってきてないし、広い待合室に知ってる人はいない。途中で、お医者さんがレントゲンの結果だとか手術だとか色々説明をしてくれたけど全然内容が頭に入ってこなかった。わからない説明よりも、僕は知りたいことがあった。


『助からないんですか?』


『難しい状況です』


 他にも何か言ってたけれど、その言葉だけが頭に残った。


 急いで病院につれてきたのに。伯母さんが色々してくれたのに。猫が死んじゃうかもしれない。


 そう思ったら涙が溢れてきて、もう泣くこと以外できなかった。


 全然知らない猫だけど、近くで生き物が死ぬことなんて今までなかったから。


 病院のお姉さんがタオルを持ってきてくれたけど、それはあっという間に涙と鼻水でグショグショになってしまった。



 悲しい。悲しい。悲しい。



 それしか考えられなくなってきた時に、その音は静かに僕の耳に届いた。


 カツ、カツ、カツ


 聞きなれない音。でもお母さんと一緒に観るドラマでは何度も聞いたことがある。女の人がヒールで歩く時の音。


 腫れた目をなんとか開けると、伯母さんがいた。


 伯母さんがきてくれた。


『よく頑張りましたね』


 そう言われた時にはもう、伯母さんの姿は涙で滲んでよく見えなかった。


 安心と、悲しみと。


 その両方で僕はもう何も言えやしない。


 その後はお医者さんがおばさんに何かを説明して、暫く会話をしていた。さっきの言葉が大きな不安になって、また涙が込み上げる。


 すると伯母さんが、僕の肩に手を置きながら言った。


『猫も頑張っています。信じましょう』


 お医者さんの腕なのか、猫の気力なのか。幸運か、奇跡か。その時はどれのことかかわからなかったけど、僕が拾って僕がつれてきた猫だから。


 助かると信じなきゃだめだと思った。













 猫は手術の結果、一命を取り留めた。

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