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美食倶楽部へようこそ  作者: みお(miobott)
腹ペコ奥様へのおもてなしサンドイッチ
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1-2

 飾り付けられた店内に入ってきたのは、ペアが2組、シングル4名。

 ドレスアップした彼らの顔には、目隠し仮面が付けられている。ドミノマスク、と呼ばれる目仮面である。

 蝶や天使の羽根をモチーフにしたマスクに、高級スーツ、パーティドレス。まるで中世宮廷の仮面舞踏会だ。

 しかし今は現代。ここは日本のど真ん中。


(……さーてと、忙しくなるぞ……っと)


 キッチンに付けられた隠し窓より店内を眺めていた膳子は、きしむ脚立から飛び降りてコンロへと急ぐ。

 立派なコンロに乗せられているのは、ぴかぴかに磨かれた鍋。表面には、膳子の横顔が映り込んでいる。

 男子みたいに短くボサボサの黒い髪、化粧っ気のない顔にはそばかすと団子鼻。やって来た「お客様」とは天と地ほどの違いがある。

 膳子は銀のお玉で目元を隠してみるが、ちっとも決まらない。 

(どーも、庖川膳子25歳でっす)

 名乗ってみても、どうにもパッとしない。こんな格好で店に出ても、ただの滑稽なピエロ役だ。

(……ま、私には私の役目があるわけだし)

 彼女は純白のコック帽を被り直し、サイズの大きなコックコートの袖をまくる。


「よっしゃ、今夜もがんばりますか」


 膳子の前にあるのは剥き身のエビ。

 皮を剥かれたじゃがいも。

 そしてボウルの上に山積みの白い卵。

 優雅なホールとは打って変わって、キッチンは戦場である。膳子は左手でボウルをつかみ、右手で卵を軽快に割っていく。

 空気を含ませるように卵をふんわり泡立てると、続いて鶏肉に小麦粉をまぶし、踊るようにキッチンを右へ左へ。きゅっとシューズの音を立て、膳子は店の隅っこで足を止める。

(えっと、今日のメニューは確か……)

 ちょうど膳子の目につく場所に、白い紙がべろんと垂れていた。

 そこには膳子が書き殴ったメニューの一覧。

 『お子さまランチ風』と書かれたタイトルの下には……。

 

「オムライス! 唐揚げ! ポテトサラダにエビフライ!」

 

 膳子の背が何か固いものにぶつかる。同時に雷鳴のような声が叩きつけられ、膳子の背が伸びる。

「はいっ」

「食後はミックスジュース、ソフトクリーム! それくらい覚えなさい!」

「りょーかいです!」

 背後に立っていたのは支配人だ。先ほど客に見せていたような、色気ある笑顔は微塵もない。

 彼は先程まで付けていた白手袋をビニール袋に収めると、新しい手袋を装着する。

 お出迎え時と配膳時には違う手袋を使う。それが神経質な彼の流儀だった。

「膳、返事は!?」

「はいっはいっ」

「膳、何度も言いますが」

 支配人の拳が、苛立つように扉を叩いた。コン、コココンと軽快に。

「……返事は?」

「はい! はい……じゃなかった、返事は一回です!」

 壁にかけられた時計はちょうど6時半を2分過ぎたところ。

 今日は忙しくなりそうだった。

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