9、拾ってきたのは
なんだか良くわからない勝負の午後……。
「さあトップ! 今日こそ貴方と私の真剣勝負よ。どっちが本当のセンターか正々堂々戦いましょう!」
『わぅ♪』
真剣な表情でアルカナがトップとハイタッチしていた。要するに午後はとことん遊びつくそうという体であった。
「アルカナ……今日はくれぐれも変なものは拾ってこないでくださいね?」
同じく真剣な表情で注意事項を述べるマナ。
「やだなぁ! マナ。私が今まで変なものを拾ってきたことはあったかしら?」
「……」
多くを語らずじっと足元の毛玉を見つめる。
「うっ……ヤブヘビだった! 総員退避!」
『わぉん!』
一人と一匹でドアの物陰に隠れる。
「トップ隊員、敵は強敵よ?」
『ガウゥ……』
「アルカナ……」
マナは腕を組んでアルカナ達を眺めている。
「うう……過去ばっかり振り返っていてはダメよマナ。我々人類は日々進化し続けないとあっという間に時代に取り残されてしまうものよ……?」
マナの冷めた目は変わる事無くため息をつく。
「はぁ……そもそもわたくし人類と違いますし、何だったらアルカナだって厳格に言えば人類じゃなく、ここには人類は一人もいませんが?」
核心に触れてくる。血も涙もない冷たい女の存在に溜め息が漏れ出た。
「はぁ、うわぁーーっそこ言っちゃうんだ……カナシイナァ……増えるかもしれないじゃない? 人口……」
「だから拾ってくるなと……」
「さあいくよ?」
『ばぅ!』
長くなりそうだったので途中で切り上げて真剣勝負の会場(森)へと移動することにした。
「とりま元気に行ってきます!」
敬礼するとトップと共に駆け出していく!
「あぁ……」
「ひゃっほぅ!」
『ばうわぅ!』
森の中を駆け足で走る。そういえばこうやって走ったのはいつぶりだったのか。考え事をしていたら横からすごい勢いでトップが追い抜いていく。
「やるね……さすがいっぬ!」
トップもニヤリとしたり顔である(ような気がしている)。
「トップ、何か拾っておいで!」
『わん!』
ガサガサ!
開けた場所で息を整えていたら物陰から早速トップが飛び出してきた。
「おお、ナイスサイズ棒!」
お手頃サイズの木の棒をトップが咥えてきたのでそれを投げてやる。
「とってこーーい!」
『きゃうん!』
大喜びで茂みに駆け込んで拾ってくる。
「ほぉーーおりこうさん!」
トップの目は次はまだかとキラキラして尻尾はちぎれんばかりにフリフリされている。
「いいよ~~! いいよ~~! ほりゃ~~♪」
『きゃうきゃう!』
「ほりゃ~~!」
『ばうん!』
何回目かそろそろ飛び切りの一投をお見舞いしたくなってきた所だった。
「ふふふ……いいこいいこ。今度はそう簡単に取れると思うなよぉ~~! せぃや!」
コツを掴んできたので今度は渾身の力を込めてフルスイングで振りかぶって……投げた~!
『きゃうん!!』
「犬め……喜び勇んで取りに行ったわ。ふふふ……単純な奴め……」
簡単な遊びなのにアルカナの方が額にほんのり汗を滲ませていた。
『きゃん!』
「早い……? もう見つけてきたの?」
トップが咥えてきたのは男物のサンダル……? しかも生温かい……。
「はにゃ? なにこれ……」
トップを見ても素知らぬ顔で横に座るだけだった。
「これどこで拾ってきたの? トップさんやい……」
『わん!』
自信満々で尻尾をフリフリしていたが、アルカナは持ち主が探しているかと思うと気が気でない。
「ちょっと案内して?」
『ばぅう!』
ずんずん藪の中に分け入り茂みを進んでいくとその先に段差があって……。
「え?」
目の前にあるのは茂みから飛び出した血だらけの人の……手?
ひゅっ!
その異質な存在にアルカナは一気に血の気が引けた気がした。
「やだ! 何……死んでるの?」
ピクッ……!
「生きてた!」
咄嗟にその手を掴むと手がやたらと冷えてた。
「えっと……確か……ヒール!」
光が霧散すると、手の主が果てた。
「うわ!」
アルカナは恐怖に尻餅をついてしばらく動けなくなっていた。
「はっ!そう、確かこの前見たと時にアイテムボックスに……あった! 反重力ストレッチャー♪」
袋の中から二本の棒を取り出すと、頭と足元に一本ずつ置く。
「ここにボタンが、……起動」
ふぉん……
起動と共に足元の人が苦無く持ち上げやすくなった。
「これで良し……トップ、帰るかぁ」
『わう……』
トップは何か言いたげだったが一応はそばについてきた。
主アルカナが出掛けてしばらく経つ。日の光が上に上がって今日はよく洗濯物が乾くと思われた。
「今日は本当にいい天気ですね……」
「マナーーーー!」
バタン!
掃除しながらモップを持って廊下を歩いていると元気な呼び声が聞こえてきた。もう帰って来たのかと主の帰還を歓迎せねばとマナは玄関に急いだ。
「はいはい……」
「急いでーーーー!」
パタパタ……
「何事です……か!」
アルカナがアイテムボックスの中に入れていた反重力ストレッチャーに大きな何かを乗せて帰ってきたのだ。
嫌な予感がしてならない。
「それは……何!?」
「多分、男の人……かな? あははは……」
「危ない離れて!」
マナは駆け出すとアルカナを抱えてしゃがむ。
「え?」
これまで弱い顔を一切見せたことのないマナが信じられない位に怯えていた。
「だめ……守らなきゃ……アルカナを……」
震えながらぶつぶつ呟いて動けないマナと、何があったのか理解できていないアルカナ。
「だめ……逃げなきゃ……アルカナ、ダメぇ!」
「マナ、どうしたの? マナ落ち着いて。私は大丈夫よ?」
「知らない男の人は……危険で……怖っ……!」
男性恐怖症とは厄介な。そんな所に無神経に怪我人を連れてきてしまったけれど、だからと言って元に戻してくる選択肢は選べないから何とか間を取ってうまくいく方法を模索してみる。
「ああ……そっか。じゃあこの人は私が面倒見るからマナは衣服の替えとかタオルとかの準備をお願いしていい?」
「うぅ……」
まだ震えているけれどさっきよりはましになった様だった。
こくん
小さく頷くとマナは急いで廊下に出ていく。余程苦手なのだろう、可哀想な事をしてしまった。
怪我の傷口に細菌でも入った影響か発熱がある男性をまずはベッドに寝かさないといけない。
部屋を探したが大きな部屋はアルカナの部屋だけで後はマナの小さな私室と機械の置かれた部屋だけだった。
「私の部屋でいっか、元気になったら帰って行くだろうしその間私はソファーに寝よう。トップは怪我人が良くなるまでこの部屋は入室禁止ね? 毛とか色々が駄目だと思うから……」
『きゅうん……』
トップが物悲しそうだったがここは心を鬼にして怪我人ファーストでやらないといけない気がした。