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7、秘密のナイショ

 



 別々の寝床で寝たはずなのに気が付いたらアルカナはベッドの瀬戸際で、置き物の様に固まっていて、中央では王者の様に堂々と丸まるトップと所謂(いわゆる)雑魚寝していた。


「うぅ……トップ、わたし人の温度が気持ち悪いんだって……」


 アルカナはアルカナになる前から他人の温度が苦手だった。実の母親ですら一緒に寝た事は無かったし、いつからそうなのかは一切覚えていない。問題は何だったのか……未だに答えは分からない。


「これはもう、侵略好意とでも呼ぶべきか……」

 ぐんぐん寄ってくる愛犬の圧に負けっぱなし、飼い主の面目(めんもく)丸つぶれの頼りない飼い主アルカナ。


「もう朝方……」




 キッチンでマナが朝食を準備している時間帯に珍しくアルカナが起きて活動を始めた。



 ぱたぱたぱた……バターン!

「マナ! もしかしてこの子って人懐っこい?」


 寝不足がたたって、目の下にがっつり隈を(こしら)えながら変なテンションで子犬を抱えて今更な事を聞いてくる(あるじ)に冷めた目を向ける歴戦のお世話係。



「まだ小さいですから……母親が恋しかったりは普通するんじゃないですか?」


「あぁ子犬、そっか……ぐぬぬぬ……」

 すっかり、抜け落ちていた子犬問題が頭上から落ちてきた。確かにこのトップは小さい。母親が恋しい……そう聞くと無下に嫌がって避けていては大人げなくて(いささ)か気の毒になってしまう。




『きゅうん……』



「そっか……貴方は子供だったのね?」


 考えあぐねた末、アルカナはそれなら散歩先でじっくりお昼寝する事にした。


「寝不足なのですか?」

 マナはアルカナの頬をさわると顔色をチェックする。目蓋の裏や顔色等を毎日そうやってみていたらなにか違いは現れるのだろうか。


 触れ合う事に何かしらの意味があるのか……知っているのならその是非(ぜひ)について昔の両親に聞かせてあげてほしい位だ。




「仕方ないから出掛けた先でお昼寝をすることにしたの。だからお散歩行ってきてもいい?」


「ちょうどいい場所がありますから、支度したら私も行きますね」

「うん……」




 家を出て十分程歩いた裏手にそれはあった。一面の開けた草原と小さな東屋(あずまや)

 吹き抜ける風と日の光に満ち溢れて木々の揺れる音と小鳥達のさえずりが癒しを与えてくれそうなどこか見覚えはある場所。

「ここならトップは走り回れますし、アルカナは私と一緒にここで休憩します」



『わぉん!』

 トップは到着するや否や駆け出して草原や木々の隙間を駆け抜けていった。


「あれ……ここって」

「ええ、通り雨で虹の出た日に来ていた場所ですよ」


「……」

 東屋で腰かけると全体が見渡せる様に配置されていて穏やかな色彩に心癒されるアルカナ。緑だけでも色彩が豊かで癒しのグラデーションに心を奪われる。



 思い切って寝転んでみたら空の(あお)も相まって小さな事で悩むのもバカらしくなってくるのが不思議で……。


「……日の光と緑の香りがこんなに気持ちいいなんて……」



 柔らかな光りに包まれてこころまでホカホカで気が付いたら意識を手放し夢の中。大の字で眠りに落ちるアルカナを確認するとマナは(かたわ)らに腰かけて景色を眺めていた。





 気が付くと森の中を彷徨(さまよ)っている。

「ここは……森の中?」


 横切る人の姿が見えた。

「ん?」


 気になって追いかけてみた。それは追い付きそうになると姿が消える。


「待って! あなたは?」


 それは自然とアルカナの家に吸い込まれていった。

 それにつられて帰宅してみたが、今となんら変わらない室内。だが、何かが違えて見える。

 例えるならば、生気がないような?まるで昔の映像の中を歩いている感覚だった。




 人影の正体は小さな白い少女だった。


 少女は机に向かい精密な図面を引いていく。繊細過ぎて元の自分には分からないけれど、

「これは……アルカナのかわりに創造してくれる機械?」

 アルカナの本能が教えてくれた。

 そして少女が手本とばかりに使って見せてくれた。欲しいものの材料を予めセットしておき、指示を打ち込むとスタートボタンを押す。一定時間経過後にそれが形になって出てくる。


「あれ……これって隣の部屋に置いてあった様な? こうやって使うんだね」


 作り終えたらまた机に向かっていたが覗き込もうとした瞬間こちらを振り向いてイタズラそうに微笑んだ。



『うまく使ってね……』





「え!」

 不意に話しかけられ飛び起きていた!


「……驚いたぁ」



「おはようございます? もうお目覚めですか」

 そこは夕暮れ前のさっきと同じ森の中。マナが隣に手の触れない位の距離にいてくれた。どれぐらい時間が経ったのだろうか。日も傾きみえていた世界の色が変わっていた。


 ほどなくトップが帰ってきた事からお散歩は終了となった。


「ゆっくり寝れましたか?」

「そうだね、思ったより寝ててビックリしたもの」




 トップが疲れてお昼寝し、マナが食事の支度の、私だけの時間。


「えっと……電源をこうして……」

 ボタンを押すとそれは静かに起動した。いくつかの金属とガラスをトレイに置いて、蓋を閉めたらボタンで品物を指定する。


「ん……ス、マ、ホ……と」


 そしてスタートボタンを押す。


「あはは……なわけないか。出来ないよね?」


 静かに起動……!


「えっ」


 待ち時間が表示された。



 ……残八時間



「嘘でしょ?」


 興味本位で指示してみたら、思ったより順調に動き出して逆に驚くアルカナだった。





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