6、トップ
盛大なマウンティングからの容赦ないペロペロ攻撃で気持ちよく?お目覚めの後は用意された服に着替えて、アルカナの一日が始まった。
子犬を引き連れてキッチンにやって来たアルカナ。
「マナ……おはよぉ。あふぅ……」
『わぉん!』
アルカナは、まだ眠そうな目をこすりながら挨拶すると手を洗って食卓テーブルに着席した。
「……驚いた、ちゃんと起こしてきたんですね?」
予想以上のスピードで二人仲良く入室してきた姿に、オムレツをひっくり返しながらマナが驚愕の表情を見せていた。
「そうだよ、この子犬が起こしてくれたの。マナが頼んでくれたんだね」
「はい。先ほどこの毛玉に寝起きの悪いアルカナを起こしてくる様に、と指示したのですがまさかちゃんと完遂できるとは…………この毛玉、只者ではないですね。さすが……」
『わぉん!』
「ん! いい子」
マナが感心していると実にいい、やりきった顔で子犬がそれに返事をするものだから本当に意味を聞いて理解しているのではないか?とアルカナは疑い始める。
「君、賢かったんだね? よしよし……偉いよぉ」
『わふん!』
子犬が鼻息荒く、それぐらい朝飯前さっていう自信に満ち溢れた顔をしたような気になる。
飼い主特有の親バカ心理がすでに芽生えて根付き始めたアルカナだった。
「お手!」
『わん!』
「マナ……どうしようこの子天才だ!」
振り向くとアルカナは感動に打ち震えてマナの手を取っていた。
「……アルカナ!」
マナのまじかこいつ……という引きつった感情は伝わらない代わりに子犬のどんな小さなアクションも見逃さない暫定見習い飼い主アルカナ。
「アルカナ……一応確認しておきますが貴女はこの子犬もどきの生き物をそばに置くおつもりですか?」
「え? そうじゃなかったっけ?」
『わっわぉ?』
もうすでに行動もシンクロしている子犬とアルカナが同じタイミングで頭を傾ける。角度も合わせてくる位の息ぴったりでマナは眩暈がした。
「はぁ……もし飼うのならちゃんと名を与えてくださいまし」
名前を与えて相手が了承したら主従関係が成立する事を伝えたかったのだがいまいち伝わっていなあたった。
「そうだねちゃんと飼うなら名前が欲しいよねぇ……。寂しいだろうし」
『くぅん……』
相槌を打つように子犬が鳴く。マナが見ていても、もう繋がっていそうな勢いだった。
「じゃあ行くよ? これだって所でお返事してね?」
『ばぅ!』
名づけの様子をマナもじっと観察していた。
「いっぬ……」
『……』
気に入らないようだ。
「パピー」
「……」
意外に時間がかかそう?
「はぴ太郎!」
『ぐるぐる……!』
儘ならないものだ。
「じゃあリンクス!」
『にゃわん』
「アルカナそれはオオヤマネコの呼び名です!」
「そうだった!」
「賢そうなお前には……そうだ、トップ! 一番って意味だよ?」
『わん!』
子犬が名前を受け入れた瞬間にアルカナと子犬トップに主従関係が発生した。
「犬でも無いのに名前のセレクトが完全に犬とか……、本犬がそれでいいなら良しと致しましょう」
こうしてアルカナと魔狼トップの絆は固く結ばれた。