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4、はじめてのお使い

 


「私、マナのお手伝いがしたい!」

 朝、突拍子もなくそんな事を言ってみた。

 あれから毎日至れり尽くせりでアルカナも流石にそれでは申し訳ないと、マナのお手伝いをしようと思い立ったのだ。


「お手伝い?」


「そう、皿洗いでもお使いでも何でもやります。やらせてください」

 彼女は辺りを見回すも、既にどこもかしこもキチンと整えられていて素人(アルカナ)には手の出しようがないから素直に聞いてみた。突然そんなことを言われてもどう受け取っていいのか困惑するばかりで、マナは目をぱちくりさせていた。


「うーーん…………では、港にあるアティオまで納品と季節の果物の買い出しをお願いしてもよろしいですか?」

「わかったぁ♪」

 ここに、来てから随分発言が見た目に寄せられてきたアルカナは頼まれた嬉しさで無邪気に返事をする。

「地図はいりますか? それに……私も一緒に行った方がいいでしょうか?」


「大丈夫、それぐらい平気だよ♪」

 得意気に返事をすると知り合いに渡す手紙と荷物を入れるアイテムボックスの袋を持たせてくれた。

「何かあったらすぐ森に逃げ込むこと!」


「はいはい!」

「アルカナ……はいは一回ですよ」

 初めてのお使いを見守るお母さんみたいなマナが、あれこれ注意事項を、次々あげていく。


 アルカナは任務、初めてのお使いに行くことになった。




 自宅のある迷いの森を抜けた先に港を一望できる高台があり、その丘から続く開けた平野の先端に他国と貿易の架け橋となる港を有する街マティオが見える。



 そこは毎日多くの人や馬車が行き交って賑わいを見せていた。

 港を起点に放射線状に広がる街並みは隅々まで整備されて、上から眺める景色も見ものでそれを見たさに訪れる旅人もいると聞いた事があった。


 アルカナは住宅街の路地を進み、ちょうど真ん中の区画、行商人たちが毎日開催している市が立つ広場までやってきた。



「わぁ……人多い」


 久しぶりの街、通りは賑わいを見せている。




「こんにちは!」

 アルカナが礼儀正しく挨拶する。


「おや、これは可愛いお客様だねぇ……」

 果物屋台のおばあさんが気さくに相手してくれた。


「このメモにある季節のフルーツが欲しいんです」

「どれ、みせてごらん?」

 メモと手渡すと手際良く数えながらアルカナの持つアイテムボックスの袋に投入していく。


「全部で500フェアね」

 小銭入れの中から100と書いてあるコインを五枚手渡す。

「そういえばあんた一人かい?もしかして迷子?」

「これは立派なお使いなんですヨ」


「一人で大丈夫かい?」

 おばあさんが、心配そうに聞いてくれる。

「家族が待ってるので大丈夫です。ありがとう」




 変わらぬその賑わいに若干戸惑いながらも人の隙間をぬってアルカナは露店を避けて目的地を目指す。



 色とりどりの品揃えに後ろ髪を引かれる思いだったが寄り道なんて怖くて出来ない。もし、話しかけられて絡まれそうになったら自分では対処出来ないだろう。今は逃げ足にも自信はない……。

「うう……慎重にいかなきゃ」



 100フェアが100円程度なのか~とかよくわからない計算が頭を過る。


「マナの言っていたお店は……と、ここね!」


 不思議と名前を聞いただけだったのに迷わずたどり着けた。

「……あれ、なんで?」





 市場の斜向かいにある一軒の工房のドアを開けて中に入る。

 ギギギィ……

「こっこんにちは……?」



「はぁーい! あらどこの可愛いお客様……かと思ったらアルカナじゃない! 最近は寝込んでたって主人から聞いてたけど……もう大丈夫なの?」


 店の女将らしき人物が声をかけてくれた。


「トーマスから? もう良くなりました! えへへ……」


 話すそばから頭の中で自然と情報がアルカナの中で掘り出されて目の前の人物がジャスミンでその夫はトーマスだという事を誰かから教えて貰ったでもなく自分でちゃんと理解しているのだった。


 カチ……


「あ……わたし」


 ……私そう、元々アルカナだったじゃない。


 何かのピースが何処かではまった気がした。自分は後からこの体に入った訳でなく最初からこの体で、自分の目で見て知っていたのだ。



 大きく理解が進んだけれど、それなら何故今になって前世を鮮明に思い出したのか……。



「そう? ならいいけど……頼んでたものはできたのかしら?」


「……うっ」

「やだ、ちょっと大丈夫?」


 酷い顔色をしてその場に(うずくま)ってしまったアルカナをジャスミンは抱き上げるとカウンター前のソファーに寝かせた。



「これ、中に荷物が……」

 鞄の紐を手渡すと最初は怪訝そうな顔で眉をひそめていたが、中から出てきた自分宛の手紙を読んでジャスミンの顔色が変わった。


「アルカナ……あんたストレスで部分的に記憶が飛んでるって……」


 いっぱいいっぱいで今にも泣きそうなアルカナを何度も撫でる。

「私……」

「ううう……いいのよ! 何も気にしなくて……辛かったでしょう? 可哀想に……」



「ジャスミン……」

 優しさが、いちいち温かくて。


 ジャスミンはアルカナが落ち着くまで静かに抱き締めていてくれた。




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