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11、早く目覚めた朝は

 



 長い長い夢を見ていた気がする。


 目が覚めると見た事のない場所で、腕の中に温かな温もりがあった。



 見知らぬ子供が懐で静かな寝息を立てていた。


「……!」

 何だ……この状況は


 声を出そうとするもちっとも声が出ない。




 いきなりの事に一気に目が覚めた。何があったのだったか……。



 そもそも俺は誰なんだ?



 お目覚め一番に、まずは自分探しから始まった。どこから来たのかどこに住んでいたのか……思い出せない。



 確か、遥か上空から落ちたのだから、きっと酷い怪我は負っていたのだと思う……。もう駄目だとも思っていたのに、今はどうだ。どこも痛くない……。

 何ヵ月も眠っていてその間に治療してくれたのだろうか。その割には体は問題なく動く様だ。


 ……色々考えると頭が痛む。それでも一生懸命に記憶を辿る……。なにか糸口はないものか。


「……」


 ずきずきする。


 思い出せるのはどこかで生きてた位で……? でもそれが自分の事なのかすらちっとも分からない。今の自分はどこもかしこもが穴あきだらけ、きっと精神も(いびつ)な形をしているに違いない。


 それを当たり前と受け止めると至極気持ちが悪かった。





 ……この腕の中で寝息を立てている子供は誰だ?

「……」


 こう丸まっていては顔もはっきり見ることが出来ない。そこかしこがプニプニしていてとにかく柔らかくて癒される。


「……」


 いつの間にかほっこりしている自分に驚いた。


 つんつん……白い髪は見た事が無い。柔らかくて無茶をすればすぐ壊れてしまいそうな程華奢で……。

 手元に置くには弱すぎるのではないかと頭を過った。手元……おかしな事を……俺は何を言っているのだ。




 子供というものはこんなに寝るものなのか。


 心地よい朝日が差し込み子供を照らす。ようやく目を覚ましたようで急に動き始めた。




◇ ◇ ◇ ◇



 ぱちっ……


 目の前には上着のはだけた。悩ましい胸板の男性。と、その腕の中で目を覚ました。


 がばっ!


「ふぁっ……素数数えなきゃ!」






「あぅ……私、熟睡しちゃってた」


 アルカナは男性にまじまじと見られている事に気が付く。アルカナの不思議な色彩の瞳に惹き付けられている様だ。

 (けが)れの無い澄んだ瞳を前に釘付けになっている。しばし二人は見つめ合う。


 男はそっとアルカナの頬を撫でた。


「ひゃん!」



 触れられて驚いている。まるで小動物の如くに。

 男性はにっこり微笑んだ。


「おっ、おはようございましゅた! ぐっ……噛んだ」


「……!」


 男性も一瞬声をかけたそうにしていたが、声は出てこなかった。

 アルカナの頭を撫でている。


 男性はアルカナの小さな(てのひら)を掴むとそこに指で文字を順番に書いていく。どこの言葉かは分からないけれど言語に精通しているから難なく理解出来た。



『君はだれ?』


「あ、言葉が?」


 (うなず)く。


「私はアルカナ。ここは森の中の私の家です」


『俺はどうしてここに?』


「森の中で怪我をして動けなくなっていて、ここまで連れてきました。お兄さん、痛い所はないですか?」


 首を振る。




『俺はだれだ?』


「覚えてないんですか?」


 頷く


「記憶喪失でしょうか? お名前とか、何か覚えていませんか?」


 頭を振る


「……じゃあ後で一緒に色々考えましょうか。とにかくおはようございます」


 ぺこりと頭を下げた。



 人の布団に潜り込んでおきながらその実、礼儀正しいのか。子供とは不思議な生き物だ。この家の子供だろうか……。


「いきなりは無理かもですが元気出していきましょうね」



 男性はしばらく呆然としていた。自分が誰かも分からないのだから仕方ないのかもしれない。


「何かお腹に入れた方がいいですね。持ってきます」


 ぱたぱた……





「お待たせしました!」


 静かに空を眺めていたら、エプロンと三角巾を身に付けて朝食を乗せたワゴンを押したアルカナが帰って来た。


「お口に合うといいですけど」


『ありがたい』



「一人だと味気ないですから一緒に食べましょうね?」


 具だくさんのスープとサラダと、パンと、珍妙な三角?


「……あ、これですか? たまたま家にくる商人さんから手に入れたんですけど、お米を炊いて三角に握ったおにぎりと言います」

 見た事も無かったが男性はそれを手に取る。


 ほんのりし塩味のおにぎりを口にした。

「あは……私、手が小さくて上手に三角にならなかったですけど、これが美味しいんですよ」


 どうしてこれはこんなに美味いのか。

 そこまで食に飢えていた訳でもないのに無我夢中で用意された朝食をかっ込んでいた。


「ふふふ……って、お兄さん涙!」



 いつの間にか頬を伝う一筋のあたたかいものがあった。




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