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10、ぬくもり

 



 男性をストレッチャーのまま室内に運び込むと、まずは清潔を保つ為に衣服や肌にこびりついて固まった血液や木の汁を取り除いていく。


『わん……』

 部屋の外でマナとトップが心配そうに見守っていた。

「アルカナ……お湯を……」

「ありがとうマナ」

 マナはあんなに怖がっていたのに最適なタイミングでお湯を提供してくれる。本当に良くできた人だ。

「あっ、あんまり近づくと危ない……です……よ?」

 不安そうにこちらを伺っていた。

「大丈夫よ……たぶん?」




 お湯を置いたらマナとトップはどこかにいってしまった。


 傷跡はすべてふさがっていた。ヒールをかけた時に砂利や土は全部排出されたのだろうかとか心配は尽きないが、傷口の外に固まった土くれの下は綺麗な表皮(ひょうひ)だったから多分大丈夫。まったくもって上手く出来ていて感心しさせられた。


 腕と足そして顔は何も異常無かった様に通常を取り戻している。ここまで順調で何も問題は無かったが、……残りの箇所が問題しかなかった。



 はだけてチラリと覗くその胸板が官能的でどれを取っても目のやり場に困りそうな雰囲気。

「あとは……この穴だらけの上着を脱がせて、立派な体と下を……」


 ぼぼぼん!


「うう……前世でもそんな所、見たことも触れたことも無いのに……」

 アルカナ自体の豊富な知識はもて余しているのに前世を含めて圧倒的に経験値が足りない。


 あんまり見ない様に、細心の注意を払うと色々を想像してしまってなんだかおかしい事になりそうで一人、情緒不安定に(おちい)ってしまう。



「うう……若い男性って未知の生き物だわ」


 気持ちをなんとか切り替えて、お湯で流してタオルで拭いて……、さっき流して拭いた髪がもう乾いてさらさらで手触りよさそう。


 下に潜り込んで背中部分を拭いていく。ここは顔も見えなくて幾分楽に拭けた。


「あ……このお兄さん背中にお洒落な……タトゥー? 入れてる……かっこいい」

 剣とドラゴンと鎖に何かの文字……? これって何だっけ、見たこと有るかも? 気のせいか……。


「はぅ……」


 ついつい見惚れてしまった。


「うう……」

 男性に鳥肌が立ってしまった。

「ゆっくりしすぎたら寒いね……ごめん」


 残りの部位は……。


「……はぅ!こっちはお湯で清めるくらいで勘弁してよね!」

 少し乱雑に処理すると清潔な衣服に着替えさせてベッドに寝かせる。


「この反重力ストレッチャーが無かったら最初から詰んでたなぁ……」


 ベッドで寝ている男性の黒髪をそっと撫でる。髪質が思ったより硬くて自分との違いに触り比べて見た。

「そっか、色も今は違うんだっけ……て、前は黒髪だった?」



 柔らかくて滑らかなアルカナのチートな髪質に対して、この人の髪の毛は艶はあるのにわりと硬くてしっかりしてる。


 手触りの良さに、しばらく撫でまわしていた。


「ん……変わらず熱っぽいけど汗が引いた……?」


 心なしか震えていて少し、いや……かなり肌寒そうである。


「寒い?」


 上に掛ける毛布を増やそうと手を伸ばした。


 ガシッ!

「あ……」


 ぐぃ……

「ちょっと……お兄さん、きゃあ!」

 子供体温のアルカナが腕に触れた瞬間に男性にベッドに引き込まれて抱きかかえられてしまった。


 別段、(やま)しい思いがある訳でもなく、ただただ震えているのは誰の目にも明らかだが……。

「動けない……」


 じんわり伝わってくる熱がアルカナに()み込んでくる。


 何か問題があるとしたら、過剰なまでの熱位だろうか……。

「……これは、温かいを余裕で飛び越えてきてる……出なきゃ」


 子供の温度が心地よいのか一向に放される気配はない。



 とくん……とくん……


 抱きしめられて久しぶりに他人の胸の音を感じた。

 刻まれる力強い鼓動……それがこの人が頑張っている何よりの(あかし)だと思うとジタバタするより応援したくなって無駄な抵抗をする気もなくなってしまった。


 男性に絡み取られたまま動けずにじっと天井を眺めている。

「ふぅ……なんだっけ、天井のシミを数えるのって…………うん、わかんないや」



 気持ちよさそうな寝息が漏れ出てきていて、悪くなさそうで本当に良かった。回された力強い腕、血管、さっき見た引き締まった肉体、自分が年頃の女性なら間違いも起こりうるかもしれないが……

「まぁ、それは大丈夫か。誰がこんなまな板に……無いわー……」


 大丈夫と分かっているのにこんな近距離に異性を感じると何だかドキドキはして、緊張もしてしまう。アルカナは自意識過剰な自分の事が少し恥ずかしかった。


「とにかく落ち着け、うう……2,3,5,7,11,17,19,23,29,31……971.977,98……」




 月の光に照らされて、気が付けばアルカナも一緒に心地よい寝息を立てていた。




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