八話『探索者への道』
「くだらない冗談はやめてください」
「冗談ではありません。私の主人にはその用意があります」
僕は冗談だと突き放したが、なおも執事の男性は動じない。
確かに探索者になるにはその道しか残されていない。けれど、その可能性は可能性と呼ぶには厳しい代物だ。
「我がヴァンピエル家の探索者枠を貴方に捧げましょう」
僕が探索者になる唯一の道を、貴族の保有する探索者資格を提示してきた。
探索者になるにはC級以上であること、または高位貴族の所有する資格を与えられることのどちらかだ。
けれど、貴族に与えられる枠は少なく、凡そ当主や子供が消費して残らない。元より優秀なものはC級以上がほとんどだ。貴族の探索者資格は名誉資格のようなものだ。
ヴァンピエル家はここら一体の孤児院を経営していた貴族だ。今はもう手放して探索者が運営しているが長い間支えてくれていた。孤児院育ちの僕はもう受ける気持ちに偏っていた。
「だからお願いします!私の主を救ってください」
「頭を上げてください。私は孤児院育ちです。だからヴァンピエル家にはお世話になっていました。助けたい気持ちは私にもあります。だから事情を教えてください」
僕がそういうとパッと明るい表情で顔をあげた。
そしてつらつらと説明を始めた。
ヴァンピエル家とアダマスフィア家は昔から犬猿の仲だった。市井派のヴァンピエル家と血統派のアダマスフィアが歩み寄れるはずもなかった。そして今年ヴァンピエル家に悲劇が起こった。ヴァンピエル家の宝として育てられていた一人娘のマリア様が毒で寝たきりになってしまった。ご当主様は大層お怒りになったが、マリア様は戦争を望まなかった。娘の思いを踏みにじれず、自らの怒りを抑えたご当主様は解毒方法の調査に全力を尽くした。そして解毒方法は判明したが、あるダンジョンに生える花によってしか解毒できないそうだ。
この花はダンジョン以外の魔力が近づくと一瞬で変質して毒になってしまう。これが今回使われた毒だ。逆に変質する前の花は薬になり、解毒できる。だから魔力を持たないG級の貴方の力が必要なのですと力説された。
「分かりました。任せてください」
「ありがとうございます。ありがとうございます。ヴァンピエル家と縁のある探索者に協力をお願いしますので一緒に来ていただけますか?」
「はい、よろしくお願いします」
僕は執事さんに連れられて歩いた。
そうそう、執事さんの名前はセバスチャンというそうだ。彼にはお嫁さんと娘の三人家族で娘がマリア様のメイドをしているそうだ。
「着きました。ここです」
「え、ここって…」
「ここは【快晴】ギルドです」
連れてこられた場所は僕を二度助けてくれた【快晴】ギルドだった。
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