五話『爆心地にて〜Side.とあるSランク探索者〜』
「ダンジョン警報発令!ダンジョン警報発令!…」
A級ギルド【快晴】は嵐のような騒々しさになっていた。ダンジョン警報発令時はいつもうるさいが、ここまで騒々しいのは初めてかもしれない。
『再度通告する!各自の判断での出動を禁止する!訓練所に集まれ!』
ギルドマスターのマークの声だ。普段はダンジョン警報発令時は時間が命なので自己判断で現場に向かって良い。けれど、今回は珍しく集めるようだ。
訓練場に行くとほとんどのメンバーが集まっていた。
「全員ではないが、時間が無いから始めよう。今回の種は黒く燃えている。未知の色だ。恐らく誕生するのはS級ダンジョンと見て間違いないだろう」
ギルドメンバーの驚愕が伝わってくる。
種は落下時の色によって警戒度が変わる。
全体の9割を占めるC級ダンジョンは真っ赤に燃える。
全体の9分9厘、つまり9.9%はB級ダンジョンだ。B級ダンジョンは淡いオレンジ色に燃える。この赤の薄さで危険度が分かると言われている。
そして残り0.1%が青く燃えるA級ダンジョンだ。A級ダンジョンは世界に100件しか発見されていない。これは攻略済みのものを含んだ数で現存数は30件ほどだ。
また3件だけこの色に当てはまらないダンジョンが観測されており、いずれもS級ダンジョンと定義されている。冬国に落ちた虹色に輝く『オーロラ』ダンジョン、砂漠地帯に落ちた緑色に輝く『オアシス』ダンジョン、世界一の山脈に落ちた白色に輝く『韋駄天』ダンジョン、これら三例はいずれも莫大な被害を出して、未だ攻略されていない。
そして、今回の種は黒く燃えているそうだ。これを赤黒いと思い込みC級未満と考えるのは希望的観測だろう。
未曾有の危機に、ギルドの方針は決まらないようだ。
「…私が出る。私だけで良い」
「おい白雪!話を聞いていたのか?」
「難しい話はいらない。私が本気を出すなら一人になる」
「……分かった。でも周囲で待機はさせてもらうぞ」
「うん」
私は小さい頃、魔力を吸い上げてしまうから魔法石を近くに置くことができなかった。装備を整えて制御方法を知ったから今では大丈夫だけど、本気を出すと周囲の魔力を根こそぎ吸い取る。だから私の近くに立っても力を発揮できない。
だから私の隣には同じS級しか立てない。
「行かなきゃ」
余計な考えを振り払って私は駆けた。
今回は近いから余計な時間を使っていても間に合う。黒い種から魔物が溢れる前に落下地点に行けそうだ。
落下地点も近くなってきて、私は立ち止まっていた。黒い種から魔力の波が放たれて魔力を持つものを押し返そうとしていた。
「これがS級ダンジョン。油断はできない」
私は魔力を抑えるローブを脱いだ。
軽装の戦闘服になって見た目的にも魔力的にも抑えがなくなった。抜剣し魔力を込めた。
黒い種が落下し、一際大きな波が建物を壊しながら襲いかかってくる。
剣を握る手に確かな手応えを感じた。私は魔力を込めた一振りで波を打ち消した。
「行こう」
落下地点に到着したが、魔物がいない。
それどころかダンジョンも発芽していない。先程まで感じていた脅威もすっかり凪いでいる。
地下型でもなさそうだ。本当に消えたのだろうか。
きょろきょろと辺りを見渡して、落下予想地点に一人の少年が倒れているのを見つけた。
魔力に敏感な私が感じ取れなかったことが不思議で近寄ってみる。でも、目の前まで行っても、体に触れてみても魔力を感じない。
「少しも魔力を感じない。でも、生きてる。変な子」
私は不思議な少年に出会った。
魔力のない彼なら、もしかすると私の隣に立てるかもしれない、なんて思った。
「でも、魔力が無いと戦えない?じゃあダメかも。残念」
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