三話『絶望の来訪』
「きっと納得できない結果だと思います。機械は正常に動いていますが、私の名前と君の名前を出してくれたら一度だけ私の権限で再検査できるように頼んでおきます。」
何か言っている。
サイケンサ?
ナットク?
「そ、それで僕は探索者になれますか?」
「…ごめんなさい」
喉を震わせソフィさんは誤ってくれる。
お通夜のような空気が場を満たす。
探索者はC級以上か特別な条件でしかなれない。僕はどちらも当てはまらない。
(探索者としての僕が死んだのだから間違いでもないか、はは)
もしかしたらという不安はあったがここまで酷いとは思わなかった。
神様、僕に何の恨みがあるのですか。
「…」
アリアが僕に声をかけてくれるが頭に入ってこない。
アリアが泣きそうな顔している。僕はこんな顔をさせたかったわけじゃない。
元気なふりをしなくちゃ。
「おい!ちょっと来い!」
何かを返さなくてはと焦る僕をガレアが引っ張って個室から出る。
アリアが僕に手を伸ばす。けれどその手は空を切って離れていく。
それが今の僕たちの距離だ。
「は!ざまあねえな」
暫く歩いて、ガレアが口を開いた。
それはそうだろう。僕は彼に嫌われている。
「アリアのこと任せたよ。アリアは君のものだ」
パァンと頬を張る音が響く。周りの人がぎょっとするが僕よりも頬を張ったガレアの方が泣きそうで周りも声をかけられない。
「ふざけるなよ!お前が!お前がアリアをもの扱いしてんじゃねえ!」
「…ごめん」
「俺はお前を超えるつもりだった!」
「超えるも何も僕が君の上だったことなんてないよ」
「…そうかよ。それなら俺はもうお前のことをライバルなんて思わねえ!アリアは俺が守る!」
「そっか」
僕のことをライバルだと思ってくれていたんだと言おうとしたのに言葉が出てこなかった。
もう全部過去のことだ。
僕は彼の手を解いて探索者ギルドを後にした。
彼は一言、ユキの馬鹿野郎と言って戻っていった。それが少しだけ嬉しかった。
血の気の無い顔をした僕を入り口の職員さんが気にかけてくれたが僕は大丈夫ですとだけ伝えた。
彼の泣きそうな顔が脳裏に張り付いて離れない。
アリアの心配そうな顔が忘れられない。
今日は眠れないかもしれないな。
あれ、でも僕はどこに帰ればいいのだろう。
孤児院には帰れない。帰りたくない。
「どうしてこう上手くいかないんだろうな」
思考の海に落ちて注意が散漫だった。ドンと誰かにぶつかってしまう。
誰かはごろつきだった。三人組で怖そうな見た目だ。
僕を見てカモを見つけたとニヤニヤする。
普段の僕ならすぐに謝っただろう。
けれど、この時の僕は探索者になれない絶望からか声が出なかった。
「兄貴!こりゃ大変ですぜ!兄貴の魔法石の魔力が吸われちまったぜ!これはとっても高級なもんだぜ!どうしてくれるんだおっぶべ!!」
「ふざっけるな!魔法石の魔力が吸えてたら!そんなことできなくてもせめてC級なら!僕はこんなことになってなかった!僕は!ぐっ!」
咄嗟に殴ってしまった僕は呆気なく殴り返されていた。彼らはきっと強いのだろう。僕のパンチは彼の言葉を遮るだけだったが、彼のパンチは僕の体を軽く吹き飛ばした。背中を打ち付ける痛みが先に来て、遅れて壁にぶつかったことを実感した。強く打ち付け失った空気を取り戻そうとひゅーひゅーと荒い息をする。
「おいおい、舐めた真似してくれたなあ!てめえはもう謝っても許してやらねえぞ!」
痛みに動けない僕は彼らに路地裏まで連れていかれた。
それからは殴る蹴るで顔も体もぐちゃぐちゃになっていた。腕も足も折れている。
グレイウルフの革鎧を着ていなかったら死んでいただろう。
「ダンジョン警報発令!ダンジョン警報発令!…」
「兄貴!落下予測地点ここですぜ!」
「良いところで邪魔が入った」
(良かった、これで助かる)
「でも、これからが本番だぜ」
男は灼熱に輝くナイフを取り出した。
それをずぷりと僕の太ももに突き刺した。
じゅわりと血の焦げる鉄臭い臭いが僕の鼻腔を満たした。
「ぐああああああああああああ」
ぐいっと引っ張っぱられ僕のふとももは大きく焼き切られた。
焼き付いているため血はほとんど流れない。流れた血も全て蒸発して真っ赤な霧になった。
痛みで足が痛い、頭が痛い。
涙がボロボロ零れ落ちる。
頭が割れそうだ。切られたのは足か頭か分からないぐらい頭が痛い。
体が動かなくて、のたうち回って体をぶつけて気を紛らわせるしかない。
「へへ、やっと良い声を出したな」
「兄貴の炎熱剣はいつ見てもえげつねえ!」
「流石だ兄貴!」
「これで少しは気が晴れたぜ、その動けない体で逃げられると良いな」
僕は路地裏のゴミ捨て場に取り残された。
隙間から覗く空からそれは見える。
こちらに向かってだんだんと大きくなる隕石が、ダンジョンの種が見えている。
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