二十三話『入団試験』
黒髪中性美女のヘルさんとの入団試験が突如決まってしまった。
いくら何でも探索者の血の気が多すぎる。周りの人たちもお姉さま頑張れと応援するか野次を飛ばすかだ。
新人の僕が何手で負けるかで賭けも始まっている。もちろん一手で敗北が一番人気だ。
マークさんは大穴狙いだと言って金貨を数枚僕にベッドしていて、引いた。
今までの僕なら金貨一枚で半月は暮らせたと思う。そもそも孤児院時代は金貨を持つ機会があっただろうか。
「よそ見はいけませんよ?視野が広いことと注意力が散漫なことは別です」
ヘルさんが構えを取り、こちらを向いた。手加減なのか彼女は無手だ。
僕も構えを取った。独学でも探索者を目指していたのだ。僕の構えも見れる構えだ。
浅く長く息を吐く。呼吸の継ぎ目を作らないように循環させる。
動き始めを捉えることに注力する。
彼女はゆったりと滑らかに構えを動かしている。隙が見えない。
僕程度の本来の実力で何とかなる相手じゃない。
だからダンジョンの力を使う。
体内の奥に感じる力の塊を体内に満たすイメージだ。ダンジョンの力は意外と柔軟だ。
僕の意図通りに動いてくれる。
彼女はまだゆったりと動いていた。力を引き出す際も注目していた。
それなのに彼女は気付けば目の前にいた。彼女の拳が僕の腹に添えられた。
達磨落としのように内臓が飛び出す気がした。
衝撃が全て背中から吹き抜けていき、僕はその場に直立して数瞬気を失っていた。
本来なら体に風穴が空いていたはずだ。
「この程度なら要らないわ」
「まだやれます!」
「それは手加減してあげたからよ」
「それは…」
「次で最後よ。これ以上はないわ」
「ありがとうござい、ますっ!」
僕が言い切る前に彼女は再び攻めてきた。今度は見えた。
彼女の動きに切れ目はなく音もない。こちらの動きは無駄ばかりだ。
だから無駄ばかりでも戦えるように全力で動いた。
出力に物を言わせた戦い方だ。
出来ないものはできない。
今持っているもので戦うしかない。
変身する隙なんてない。怪獣映画じゃないんだ。僕が変身する間に100回は殺される強さがある。
僕は体内に湧き続ける力を使って動き回った。
地面の砂を巻き上げて彼女にぶつけて彼女が拳圧で無効化するという工程を数度繰り返した。
彼女の動きはじめを僕はきっと捉えられない。だから常に変速的に動き回った。常に最大出力の70%程で動いた。
それでも十分な速さだ。
「すごい体力ですね、でももう慣れました」
彼女は一言そう告げて、僕に近付こうとしたので僕は全力で離れた。
けれど、彼女は気当たりでこちらに近付く気配を見せていただけで、こちらに来ていなかった。
そして僕の全力の動きが行く先には気配が一切しない彼女の姿があった。
ここで負けたらさっきと一緒だ。
「まだだあああ!!」
僕は全身からあの時の黒い霧を噴き出した。それが壁になって彼女の拳を防いだ。
いや防ぎきれずにダメージが通ったが許容範囲だ。
変身する時間はない。黒い霧のまま僕は彼女へ向けて振りかぶった。
体から溢れる黒い霧が濁流となって彼女へ襲い掛かった。
「十三の王が一つ、【拳王】が告げる。私の拳は全てを灰塵と化す」
彼女から眩しい光が溢れて僕の霧は消し飛んで消えた。
彼女が全力の一撃を放つ間に僕も準備を整えていた。僕は竜人の姿に変わっていた。
「ここからが第二ラウンドです」
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