二十話『混沌』
「要件は無いようですね、おかえりください」
セバスさんは彼が急に戦争と言い出したにも関わらず、特に驚いた様子もなく取り付く島もない返答を返している。
「オーグ卿、貴様を許すことはできん。貴様は強力なギフトと豊富な魔力に恵まれながら、いつしか私欲に走り戦争狂いになった。領土は拡大しただろうし民はふえただろうが一体どれだけの血を流した。更にはマリアにまで手を出した。昔はマリアとも仲良くしていただろう。昔のように優しいオーグ坊に戻ることはできんのか?」
「っ!うるさい!ラキアス!貴様とそんな昔ばかしをするためにきたわけじゃない!戦争だ!俺と戦争をするんだ!」
彼、オーグは地団駄を踏んだ。
動揺が手に取るようにわかるあたりは若さを感じさせる。
なぜ彼はこれほどまで戦争をしようというのか。
ラキアス様は溜息を吐いて眉をひそめている。
「私を殺したいだけならいつでも殺せるだろう。マリアを奪いたいなら私が忘れていた間に奪えただろう。貴公は何がしたい?」
「俺は、オレハ…」
ラキアス様が彼の奇行の理由を尋ねた。
不意に彼の表情が消えた。
それはけれど一瞬ですぐに元の不遜な表情に戻った。
「貴様らのような下等生物に俺のことは理解できまい!家臣の血を流したくないというなら代理戦争だ!」
「そういう話ではない!」
「いいんじゃないか?」
あくまで戦争にこだわる彼にラキアス様は痺れを切らしていた。
そこにいつやってきていたのか【快晴】ギルド、ギルドマスターのマークさんが口をはさんだ。
無精ひげをいじりながらにやにやと笑っている。何故ここにいる。そして何考えてんだ。
「代理戦争、家臣団ではなく、主に探索者ギルドを代理としたギルド間の戦い。こちらからは俺ら【快晴】が出てくると踏んでの話なんだよな?」
「はんっ!当然だ!S級とA級がいるからでかい顔をしているが第一線級は貴様ら二人だけだ。我ら【宵闇】には俺を含めてA級が六人にS級のこの男もいる。戦力差は歴然だ!」
「はははっ、期待してるよ」
「ギルドマスターの貴様が同意したのだ。ギルドの総意と受け取る。用は果たした。もうここには用はない」
それだけ言い残して彼はローブ姿の男を連れて消えた。あのS級何で来たんだ。何もしてないぞ。
そんなことは今どうでもいい。
「何してんだよあんた!勝手に受けてどうするつもりなんだよ!」
「あれでいいんだよ」
「あいつもあんたも急に出てきて勝手に何もかも決めてどういうつもりなんだって聞いてんだ!」
「ユキ殿落ち着きなさい。けれど、私も同じ気持ちだ。マーク殿、ご説明いただけますか?」
僕は怒っていた。あまりに適当だ。あまりに不義理だ。意味不明だ。
ラキアス様が尋ねるが、マークさんは結局はぐらかして答えなかった。ただその中で、「彼はきっとこれが終われば元のオーグ様に戻ります。だから今は私の理不尽に付き合ってください」と彼とは思えない程真摯な態度がそれ以上の追求をさせなかった。
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アダマスフィア家の一室にオーグ・フォン・アダマスフィアとS級探索者の男が転移をしていた。
「それにしても好きな相手に毒を盛ってたなんてオーグ様も大概ゲスだったんですね」
「そんなこと俺がする訳ないだろうが!」
彼は激怒していた。男に。そして自分に。
「へ?では誰が?」
「お前にそれを説明する必要はない。ついにだ。」
「へへ、そうっすね。ついに白雪のやつと再戦できる。今度はあの時のようにはいかねえ!」
「…彼らならきっと俺の【闇】を止められる」
夢物語に夢中の男はオーグの独り言には気付かなかった。
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