十六話『孤独の先~Side白雪 真冬~』
「見つけた」
私は知らず涙を流していた。
最初はただ変な子だと思っていた。
ギルドで会った時は珍しいこともあるものだと興味を持った。
だから彼らが入ったダンジョンが気になった。
普通なら何も特別なことは起こらないはずだ。けれど、彼の特異性がなにかを寄せ付けるのではと期待した。
そしてその期待は叶った。C級ダンジョンにドラゴンが出現するなんて狂った場面に遭遇した。ドラゴンは強い。けれど私を満足させるには不十分だ。私が一振りするだけで果てるような頼りない存在だ。
でも、彼らにとっては脅威だ。私の興味でギルドメンバーを殺すわけにはいかないと立ち上がったが、その時ちょうど彼が動いた。
そして彼が魔物に変身するところを見た。
変身した彼はドラゴンを圧倒した。間違いなくS級に足を踏み入れている。
しかも、その力はまだ底を見せていない。
心臓が高鳴った。
彼に目が奪われた。
彼が愛おしい。
彼をもっと見ていたい。
彼を見ていると一つの欲望が湧いてくる。
「彼と殺し合いたい」
魔物はすぐに壊れる。人なんてもっての外だ。
でも彼ならきっと壊れない。
彼なら私の前にきっと立っていられる。
きっと私には彼しかいない。
ずっと私は一人だった。
私の横には誰もいない。本気の私の横には誰も立てなかった。
私を遠巻きに見て持ち上げるばかりだ。
そんなものいらない。そんなもの望んでいない。
けど、余計なことを言うと誰も得しないから私は自然と無口になった。
そんな私の前に立ってくれたのはいつだって魔物だった。
だから私はダンジョン攻略にはまった。ダンジョンにいる間だけは一人じゃない。
私はいつしかダンジョンに、そして魔物に恋をしていた。
私に全力で向かってきてくれるのは魔物だけだった。それでも嬉しかった。
だから私も魔物に向かった。
私と魔物の間には殺し合いしかなかった。
私にとって愛し合うとは殺し合うことだった。
だから私は魔物を愛した。だけど私の愛を受け止めきれずに魔物たちは私の前からいなくなった。
私は次の愛を探した。
求めれば求めるほどそれは遠ざかっていった。
彼らと私の距離は離れるばかりで最近は虚しさばかり感じている。
S級ダンジョンに入りたかった。けれど、許可が下りなかった。
私がS級ダンジョンに入るならソロになる。いくら私がS級でもソロでは無理だと認められなかった。
でも私と一緒にS級ダンジョンに入ろうとするものはいなかった。
同じS級探索者ならと期待したこともあったが、期待外れだった。
つい壊してしまうところだったが、ギルドマスターが止めてくれた。
それからS級探索者との私闘は禁止された。
「それなら私が一緒に帰る。それで良い?」
期待を胸に秘めて、私は彼に声をかけた。
寂しそうな顔が驚きに変わった。私は嬉しくなった。
一人は寂しい。でもきっと私は一人じゃない。彼は私の特別だ。
お読みいただきありがとうございます。