十三『空の覇者』
その巨体を覆い隠すほどの巨大な炎がドラゴンを襲った。
烈火とはこのことだろう。雨のように嵐のように炎がドラゴンを襲う。
「お願い!これで倒れて!」
ヘレンさんが懇願するようにつぶやいた。
灼熱と蒸気が晴れた時、そこには腹立たし気にこちらを睥睨する無傷のドラゴンがいた。
「嘘でしょ」
コォオと音を鳴らして風が吹き抜けていく。
ドラゴンが息を吸い込む音だ。ドラゴンがそんな動作ですることなど一つしかない。
竜の息吹だ。
「全員僕の後ろに隠れろ!ミラ!君の力を貸してくれ!」
「絶対!絶対死なないで!」
「ああ、女の子を泣かせるわけにはいかないからね。頑張るよ」
必死に僕たちを守ってくれるオスカーさん、
そんな彼を支えようとするミラさん、
熱の通り道を作って少しでも耐えようとするヘレンさん、
オスカーさんが少しでも耐えられるように痛みを遅らせるタタンさん
そしてただ守られる自分だ。
そんな僕たちの前に今、ブレスが放たれた。
僕は何をしにここに来たのだろう。
僕はG級だ。
僕はただ花を取りに来ただけだ。
戦力として期待されたわけじゃない。
ここで怯えてうずくまっているのが僕にはお似合いだ。
僕がなりたかったものはなんだろう。
僕がなりたくなかったものはなんだろう。
たとえ化け物と言われても、この場でうずくまるだけの臆病者よりは百倍マシだ。
目の前で死ぬ運命を変えたいと思った。
目の前で自分の大切な人が奪われる運命に抗いたいと思った。
誰かの大切な人を守りたいと思った。
だから化け物でもいい。
僕がなりたかった道の先に化け物の未来しか残っていないならそれでいい。
「おい、ユキ!何してんだ!冗談じゃ済まねえぞ!」
「僕は君たちを守らなくちゃいけないんだ!罪もないのに苦しめられる少女を助けたいんだ!」
「僕も最期に誰かを守りたいと思ったんです」
体から黒い蒸気が溢れ出し、体を覆いつくす。
先刻変身した大きさではとどまらない。更に大きくなっていく。
オオトカゲでは足りないと体が変形していく。
無駄が省かれ、より強く、よりタフに形成されていく。
2メートル越えの2足歩行する竜人へと変わった。
ブレスは目の前だ。
ブレスに両手を伸ばした。
本能が竜の体の使い方を理解している。
両手で触れたブレスが止まっている。
おかしいと思った。けれどチャンスだ。
僕はブレスに力を加えてドラゴンへと跳ね返した。
まさか反射されるとは思わなかったドラゴンは回避ができず直撃した。
自身の業火に焼かれたドラゴンは羽が所々燃え、地面へ落下した。
「最期じゃなかったみたいです」
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