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十二話『金剛』

「これで終わりですね」


「気を抜くなよ。突然ボスのレッサーワイバーンが出てくるなんてこともある」


「ははっ、セーフポイントでそんなことあるわけないじゃないですか。それにレッサーワイバーンならオスカーさん一人でも余裕でしょう」


「それもそうだな」


 タタンさんがほっとした声色でオスカーさんと話している。

 ここはどうやら魔物の出現しない安全地点だそうだ。


「行ってきますね」


 僕は安心して曼珠沙華を採取しに行った。

 ヘレンさんが念のため護衛についてくれたが何も起こらない。


「綺麗な花ですね」


「私は不気味で嫌いです。ダンジョンに花が咲いていることはほとんどありません。」


「珍しいんですね。これだけ綺麗だと観光に来る探索者もいそうですね」


「そうです。それが怖いんです。気持ちが緩んだ時が一番怖いです。早く抜いて帰りましょう」


 ヘレンさんにうながされ、僕は曼珠沙華を根元から引き抜いた。


「きゃっ!」


 地面が断続的にガッガッガッと大きく揺れた。

 真っ赤な水が揺れて水面を乱している。どこかから漏れているのか水かさが減っていく。


 バサリと大きな音がして顔を叩くような強い風が吹いた。


「おいおいおいおい!冗談だろ!せめてワイバーンにしやがれ!なんでドラゴンなんて怪物が出てくるんだ!」


 オスカーさんの嘆きは届かない。

 空中に浮かぶのは紛れもなく空の覇者だ。A級のボスでもおかしくない魔物だ。

 俺とヘレンさん目がけて急降下するドラゴンはその大きな口を開けた。鋭い牙がゆっくりと鮮明に見える。


 ああ、しんだわこれ。


(こん)()ぉおおおおお!!!!」


 全力の踏み込みは地を割り、振り上げられた拳は風を切り裂く。

 ドラゴンとオスカーさんのぶつかる衝撃に空気が揺れる。

 ドラゴンからすれば豆粒のように小さな男はドラゴンの顎を殴りつけて軌道を反らした。

 ドラゴンの不時着した衝撃で俺は吹き飛ばされた。地面を数度バウンドする。


「オスカー!時間を稼いで!」


 ヘレンさんは魔法を使っているのか吹き飛ばされた空中からふわふわと降りてくる。


「任せろ!僕の後ろには絶対通さない!タタン!ミラ!ヘレンを援護しろ!」


「はい!」


「嫌です!私もオスカーさんと戦います!」


「ミラ!現実を見ろ!」


「嫌です!オスカーさんが死ぬなんて嫌です!」


【反射魔法】により音を置き去りにするような加速でミラさんはドラゴンへ突撃した。

 けれど、ミラさんの【反射魔法】による一撃にドラゴンは少しの痛痒も見せない。けれど、数度繰り返すとドラゴンは煩わしく感じたのか、大きく揺れた。


「グゥオオオオオオオ!!!!!」


 地の底から響くような音の爆発だ。

 体を硬直させ足を滑らせてミラさんがドラゴンの前で倒れた。

 そのミラさんの前にオスカーさんが立つ。

 そんなことはお構いなしにドラゴンの右腕が振り下ろされた。


「ミラ!僕は死なない!僕の【金剛】は何者にも砕けない!」


 オスカーさんはドラゴンの一撃と正面からぶつかった。

 びりびりと揺れる空気が痛い。ミラさんをかばい、その場で抵抗するオスカーさんの足からは血がにじんでいた。


「私の、私のせいだ」


 ミラさんの悲痛な悲鳴が聞こえる。


「うおおおおおおおおお!!!!!」


 オスカーさんは咆哮をあげ、赤熱するほどに力をかけ、ドラゴンの腕を弾き飛ばした。

 赤熱した腕はひび割れ、血が噴き出している。


「ミラ!君のおかげで僕はドラゴンに一矢報いた!君のおかげだ!」


 オスカーさんは苦しさを一つも見せず笑った。


「オスカー!待たせたわね!」


 ヘレンさんの声だ。

 振り返るとそこには太陽があった。

 数百、数千の炎が停滞しまとまっていた。


「あああああ、もう限界です!無理です!無理です!」


「お疲れタタン!よくやってくれたわ!」


 炎の下でタタンさんの声がする。

 両手を掲げていたタタンさんが手を下した瞬間熱が吹き荒れた。

 タタンさんの【遅延】でヘレンさんの【火魔法】を熱も伝わらないレベルで停滞させていたのだ。


 そして無数の炎が一塊となってドラゴンへ襲いかかった。

お読みいただきありがとうございます。

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