十話『初めてのダンジョン』
「…すごい。これがダンジョンか」
ダンジョンの入り口に向けた声が無限遠の闇に呑まれて吸い込まれていった。
先程までいた街並みは一転して薄暗い洞窟へと変貌している。壁から仄めく白色光が頼りなく洞窟を照らす。風が通る音がする。湿った空気が肌をひりつかせる。カチカチと歯噛みし、恐る恐る息を吸い込む。強張る体の中にも平等にダンジョンの空気は入っていく。
僕たちはC級ダンジョン【死海】にやってきていた。
ダンジョンは危険だなんて当たり前のことも忘れてダンジョンに魅入っていた。ダンジョンに入ったこの時の感動を僕は一生忘れないだろう。
「ダンジョンはすごいよね。人間の理解を超えている」
オスカーさんの言葉に僕はうなずいた。
ダンジョンはすごい。そして怖い。言外の意味を感じて浮ついた気分を切り替えた。
オスカーさんはにっこりと笑った。
「さぁ、早速僕たちの出番みたいだ。さっきの自己紹介だけじゃ伝わらないこともあるだろう。一見にしかずという。改めて自己紹介も兼ねて一人ずつ戦ってみよう」
「じゃあ私から!」
前方からは数匹のオオトカゲが現れた。全長は2メートルはありそうで大きなワニのような見た目だ。
ミラさんが前に出た。銀髪ショートカットの小柄のかわいらしい女性だ。
B級9等級で新人の方だ。ギフトは【反射魔法】で徒手空拳と併用して使うらしい。
足裏に【反射魔法】をまとって瞬き一つの合間に攻撃圏内まで近寄る。
「はぁ!」
掌底。そしてオオトカゲの頭が爆散した。
体にも【反射魔法】を纏っていたのかミラさんには汚れ一つない。
残心。息を吐いて、ミラさんは後方に戻ってきた。
「じゃあ次はタタン!行ってみようか」
タタンさん。茶髪のパーマで目が隠れる長さまで伸びている。
ひょろりとした男性だが自信よりも大きな大剣を軽々と持っている。
「ええ!あの魔物たち怒ってるんですけど!?」
「お前ならいけるだろ」
「が、頑張ります」
タタンさんはB級10等級で本当につい最近入ったそうだ。ギフトは【遅延】だ。
いまいち説明で理解できなかったのがタタンさんの力だ。
彼が魔物に近づいていくが何も変化は見えない。そして気付いた時には抱えていた大剣が振り下ろされていた。
「どう?見て分かる?」
「全く分からなかったです。早かったくらいしか分からなかったです」
「違うんだ。彼が早くなったのではなく、僕たちが遅くなったんだ。それが彼の力だ」
そう言われてもピンと来ない。オスカーさんも、俺も分からないけどねと苦笑している。
「じゃあ、次は私が行きます」
次はヘレンさんだ。
ヘレンさんが杖を握りしめた。その時には数十の小さな炎がオオトカゲを囲んでいた。
それはたちまち針状になったかと思うとオオトカゲの全身を貫き、焼いた。
ヘレンさんはC級2等級で【快晴】ギルドの初期メンバーだ。ギフトは【火魔法】だ。
C級なことを気にしているが彼女を下に見ている人間は【快晴】ギルドにはいない。
出力こそ低いが彼女の魔法技能はギルドの誰よりも上だ。速度・正確性・威力のどれもが一級品だ。
最期は僕だねとオスカーさんがオオトカゲの前まで歩く。
襲い掛かってくるオオトカゲの頭と体を掴んで、彼はオオトカゲを雑巾でも絞るように絞った。
それだけでオオトカゲは消滅して魔法石と爪だけになった。ヘレンさんたちが倒した魔物も魔法石と爪に変わっている。魔物は倒すと魔法石と特定の部位になる。特定の部位は主に魔力のこもる場所が残りやすいそうだ。
ヘレンさんはB級5等級で、ギフトは【金剛】だ。圧倒的な剛力と鉄壁の防御力をほこる。
この四人が今回の攻略メンバだ。C級ダンジョンを攻略するには十分すぎる。
残った魔物もすぐに倒された。一体だけオスカーさんが放り投げた魔物がこちらに飛んできたので弾き飛ばした。
それはすぐに目の前で魔法石に変わった。
僕の目は魔法石に奪われた。きゅるると喉がなった。
魔法石がダンジョンの光を反射して怪しく光った。
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