九話『快晴』
「セバス様!お久しぶりです」
ギルドの門番を勤める男性が執事さんに挨拶をした。
道中、名前を聞く機会があったのだが、執事さんはセバスチャンというらしい。
待ち望んでいた出会いに名前を名乗るのも忘れていたと恥ずかし気に教えてくれた。
門番の男性は金髪が光を受けて輝く爽やかなイケメンだ。探索者は荒くれものなイメージがあるが、A級ギルドともなると門番も一味違うのだと呆けていた。
「お久しぶりです。突然の訪問ですが、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「ギルマスですか?いると思いますよ。いつも通りなら訓練場で遊んでいる頃です」
「そうですか、ありがとうございます。訪ねてみます」
「後ろの彼はもしかして?」
「そうです。彼がずっと探していた人です」
セバスさんと話していた門番さんがこちらを向いて、再びセバスさんを見た。
セバスさんはにこやかにうなずいた。
「それは良かった。ええっと」
「ユキです」
「ユキくん、私はオスカーという。私からもお礼を言わせてほしい。マリア様みたいな優しい方のために動いてくれてありがとう。力が必要なら手を貸そう」
彼は握手を求めてきた。僕は握手に応じた。
きらりと白い歯をきらめかせる姿に全く嫌味がなく好感が持てる。不思議な人だ。
「ありがとうございます。マリア様は慕われているのですね」
「もちろんだとも。見た目も性格も聖母そのものだ。おっと、余計な話をしてしまったな。どうぞお通りください」
セバスさんからの圧を感じてオスカーさんは話を切り上げた。
そして僕たちはギルドの中を通って訓練場まで歩いた。
広々とした通路や一線級の装備を身に着けた探索者たちに改めてここはA級ギルドなのだと実感した。
そんなすごい人が皆、好意的にセバスさんを出迎えてくれるのでヴァンピエル家の人望はすごい。
「なんでいるの?」
訓練場に入ると知らない女性が僕を見てそう言った。
白銀の長髪をたなびかせる抜身のような鋭い美しさの女性だ。
彼女の周りだけ空気が澄んでいるようだ。
「おや、白雪様とお知り合いですか?」
「いいえ、初めて会ったと思います。あれ、しらゆき…。あ!もしかして僕を助けてくれたS級探索者ですか?」
「うん、そう」
「あの時はありがとうございました。おかげで元気です」
「そう」
彼女からの返事が簡潔で僕は戸惑った。なんかしちゃったかな。
「坊主、気にしなくていいぞ。白雪はいつもこんな感じだ。むしろいつもより喋っていて驚いているくらいだ」
おじさんが僕の肩がばんばん叩きながら笑っている。肩が痛い。
「デンタクルス様!」
「おう!セバスはいつも執事服だな」
「それは執事ですから当然です」
「変な服着た執事も良いと思うぜ。それで、彼がお前のお眼鏡にかなった男か」
「はい、彼はG級で魔力が一切ありません」
「マジか。それは、何というかすげえな。ああ、わりい。悪気はないんだ」
「大丈夫です。僕がG級だったことに意味ができたんです。だから気にしてません」
「ははっ!いいね!気に入った!うちに入るか?」
「ギルマス!誰でも彼でもいれないでください!G級の彼に入団試験をさせるつもりですか?」
唐突な誘いに驚いて固まっていると眼鏡姿の凛々しい女性が助けてくれた。赤茶髪にそばかすと目元のくまが特徴的で、苦労してそうだ。
憧れのギルドに入れるかと思って少しだけ喜んでしまったが入団試験があるなら無理だろうな。
「ちっ、ヘレンは厳しいな」
「当然です!A級ギルドになってしまった責任は果たさないといけません。ああ、なんで私なんかがA級ギルドにいるんでしょう」
ヘレンさんは頭を抱えてうなっている。
ギルドマスターのマークさんはへらへらしている。
大丈夫だろうか。
「おいおい、ヘレンがいなくなったら誰がこのギルドをまとめるんだよ」
「貴方に決まっているでしょう!私が居ても貴方がまとめてください」
「うひぃ、やめてくれよ。ああセバス、【死海】ダンジョンに行くなら適当にヘレンに見繕ってもらえ」
「あ!こらギルマス!待ちなさい!もう…」
ヘレンさんは溜息を吐いた。
それからヘレンさんはギルドのメンバーに声をかけてくれた。
たくさんの立候補があったが、【死海】ダンジョンはC級ダンジョンらしく四人のギルドメンバーと僕の五人での探索が決まった。
ギルドメンバーはヘレンさんと門番をしていたオスカーさん、それから新人二人の四人だ。
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次からダンジョンです。