プロローグ
よろしくお願いします
「ダンジョン警報発令!ダンジョン警報発令!ダンジョン落下まで凡そ3分です!落下予想地域はA地区2-7です。一般の方は可能な限り遠くへ逃げてください!探索者の方は現場に向かい、ダンジョンの発芽に備えてください。」
サイレンが鳴り響き、怒号のような悲鳴があたりを満たしている。
逃げ惑う彼らは冷静さを失っている。
ここは一般住宅街で探索者の活動圏からは少し離れている。彼らが到着するころには魔物がダンジョンからあふれていることだろう。
「おい、ユキ!家に帰るんじゃない!ここから逃げないとお前も父さんも危ないんだ!」
父が小さな僕を捕まえようとするが小さな僕はその手をかわして家の中に入っていく。
(とまれ、もどれ、早く逃げ出せ)
「お母さんを置いてけないよ!」
小さな僕は亡き母の写真を取りに家の中に入っていった。
父はそんな僕を見て怒るに怒れなくなってしまった。
しまいにはそうだなとうなずいて父まで家に入った。
写真はリビングの分かる場所に置いていたのですぐに見つかった。
そしてダンジョンの種が落下した。
爆風に壁が触れ、窓が割れる。
「くそ!早く逃げるぞ!」
父は小さな僕を肩にかついで駆け出した。
疾走し、顔を撫でる風が気持ちよかった。
けれどその足もすぐに止まった。
『ぎぇええええ』
割れるような声を上げ、1メートルほどの魔物が父に襲い掛かってきた。
たった今芽生えたダンジョンから溢れ出した魔物だ。
ダンジョンとのファーストコンタクトは数十年前隣国に落ちてきたことだと言われている。
隕石が落下してきたと思うとそこから塔のような建造物が芽生え、魔物が発生した。
宇宙からの侵略だというのが一番の有力説だ。
「おおおお!!」
一世紀前なら世界レベルの運動能力を見せて父は魔物に回し蹴りをきめた。
人々は魔力を吸収することで身体能力の向上や超常の能力を手に入れた。
探索者はその最たる例だ。彼らは魔力吸収率がC級以上の存在を主として構成されている。
父はD級だったので、惜しくも探索者にはなれなかった。
けれど僕からしたら父はかっこいい存在だった。
吹き飛び壁に激突した魔物にかかとおとしをきめて止めをさした。
「お父さんかっこいい!」
(くそ!くそ!なんで僕はこんなにダメなんだ)
この先の光景を思い浮かべて僕は唇を噛み締めた。
小さな僕と父の間の瓦礫がもそりと動いたかと思うと地面から巨大なミミズみたいな魔物が出てきた。
そして父が小さな僕を突き飛ばした。
べちゃりと鉄臭い何かが小さな僕の顔にべったりと付着した。
上半身の消えた父の足が倒れる。
「あ、ああ、ああああああああ」
小さな僕は頭が真っ白になった。
目の前にはまだお腹の満たされない魔物がいるというのに小さな僕は泣き喚いて愚かにも自分の存在をアピールした。
ミミズのような魔物が僕を見て、ねちゃりと大きく口を開けた。
死んだと思った。
風が通り過ぎたかと思うと大きなミミズは真っ二つになっていた。
探索者だ。
汚れた灰色の革鎧を着た探索者が大きな出刃包丁を肩に背負ってこちらを見た。
そして父に気付いた。
「すまない、間に合わなくてすまない。助けられなかった」
僕を抱き締めながら探索者は泣いていた。
気付けば彼を守るように周りに探索者が集まっていた。
彼は暫く泣いて謝っていた。
小さな僕もずっと泣いて、そして泣き疲れて眠った。
この時に、僕は探索者になろうと思ったのだ。
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