#4-現実とは非情である
同じクラスなんだから。
接点ぐらい、そのうち自然に出来るはず。
なんて楽観的考えが成立するのは小学生までである。
大した行動もせず受け身のままでいたならば、お近づきになるどころか名前さえ覚えられずにお別れする羽目になる事を、俺は重々理解していた。
約一年と半年。持ち上がりのクラスでありながらロクに会話をしたことの無い御学友が、この教室に半数以上存在しているからという、実体験に基づいて得た学びである。
けれど。しかし。
理解していたら行動に移せるか、というのはこれまた別の話であって。
「セリアちゃんおはよー!」
「おはようございます、メイムィさん」
ーーセリアちゃんが転校してきて一週間。
俺はまだ、彼女と挨拶さえ交わした事がなかった。
よってセリアちゃんが学園でどんな風に過ごしているか、その生活を解き明かしていこうと思う。
彼女の行動を知る事で会話の隙やきっかけを掴み、違和感なく距離を縮め、他者との遅れを取り戻す。
実に完璧な作戦である。
朝。
セリアちゃんの登校は遅い。
通学機関の影響。遅刻が常。理由ありきの生徒以外は揃った頃、雑多な会話で賑わう教室に一人、紛れるようにして姿を現す。
当然ながら、彼女に気づかない俺ではない。
クラスの誰よりも早くに気づき、一方的に眺めてみては、目が合わないかと期待する。
数秒にも満たない間だ。悩む暇もない、僅かな間。
その夢見る短い時間の中で、セリアちゃんの姿を捉え、いの一番に挨拶を投げる存在があった。
ーーメイムィ・ミャン。
セリアちゃんの隣席を強運で手にした上、初日から名前呼びの関係を築き上げた功績を残す、恐ろしい女である。
「今日もノート見せたげるねー!」
「ありがとうございます、メイムィさん」
昼。
セリアちゃんはお弁当派である。
学園に屋外飲食スペースは無い。正確には去年までは設けられていたが、利用していた生徒が無惨な死体で発見される事件が起きたため、撤去されてしまった。
故にセリアちゃんは、お弁当を学食内で食べている。
「ご一緒しても?」
「はい、勿論」
「どーぞどーぞ!」
向かい合って座るセリアちゃんとメイムィ・ミャン。
そんな二人に対して演技がかった口調で声を掛け、注文するより先に、セリアちゃんの隣を確保する存在があった。
ーーアイズス・アーク。
いつの間に知り合ったのか。初日からセリアちゃんと仲睦まじげに会話し、食事する、同学年別クラスの男である。
「今日は何がいいと思う?」
「あたしは魚〜」
「うーん……私には難しい選択です……」
夕。
気づけばいない。
「……詰みでは?」
近づくためにと始めた解明、その結論。
思わず口から溢れた言葉は、自分で自分を傷つけた。
比較対象が悪かったせいか。決してそんなつもりはなかったが、どうやら俺は、セリアちゃんの馴染み具合を甘く見過ぎていたらしい。
彼女の生活は、日常として既に完成されていた。
朝はこう、昼はこうと、定形に落とし込めてしまった日々の姿が、それを如実に物語る。
同じ事を繰り返す、欠伸がお似合いの決まり切った毎日の形は、まるで本当の二年生のようで。
「……詰みでは?」
ーー何をやっても、今更だ。
態とらしく、どこか不自然。装いきれない偶然性。
どんな行動を起こしたとしても、そこには違和感が残るだろう。
この状況で動けるならば、とっくの昔に、俺はセリアちゃんと話せている。
「……詰みでは」
つまりはそういう事であった。