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本日二回更新の【二回目】です!!

 ジョンはにわか雨がパラパラと降る窓辺に近付いた。


「バーントシェンナの誘拐事件。()()()()()やクロードの証言から、監禁場所やバーントシェンナの魔女の関わりがわかり、主犯の虎獣人の貴族とその関係者が処罰され事態は落ちついた。誘拐されたのは狼獣人が多かったが、他の獣人の一族からも行方不明になった者がいたそうだな。身内を大切にする獣人たちは、虎獣人一族を相当恨んでいるだろう。それでも虎獣人は腕力も強く返り討ちは避けられない。だから、もし狙われるとしたら、力を失った老人や病人、そしてまだ力の弱い()()が標的にされる恐れがある」


「子供」という言葉に、クロードの耳がピクリと反応した。ジョンはそれに気づかないふりをしながら話を続ける。


「先程クロが口にした『養育院』で思い出したんだ。以前王宮で下働きをしていた一人の男だ。養育院出身でとても頭が良く、真面目な勤務態度だった。今は養育院の責任者を夫婦でしている。そして、彼には双子の兄がいて、その兄は武術の才能があったため、ジブラルタル一族の養子になった。その後バーントシェンナで()()()の女性と結婚して子供が生まれたと聞いている」

「クロさん、どうぞこのソファにおかけください。喉が乾いたでしょうからこちらを……これは僕の独り言ですが、虎獣人と結婚した男性はうちの一族で有名な方でして。武者修行でバーントシェンナに赴いて道場破りをしているときに、今の奥様に出会ったそうですよぉ。時々うちの当主宛に彼からの手紙が届きます。お子さんは()()()()()()、生粋の虎獣人の子供の半分ほどの腕力で、頭の回転が速く心の優しい子のようです」


 英雄の一族、ジブラルタル家の親戚筋であるルーカスがクロードにアイスティーを出しながら呟いた。

 自分のロッカーへ移動したローズがコック服を準備している。


「バザーとかの催し物で定期的に養育院へ行くけど、ここしばらく一人だけ顔を見たことがない子がいるのよね。()()()()()()()()にブカブカのシャツを着ている男の子。人見知りで外へ出るのが怖い、なんて責任者から聞いていたし、養育院には様々な事情がある子供たちがいるから詮索しても良くないかと思ってそっとしておいたけど、もしかしたら……あら、心の声が出ちゃってた? じゃあ、あたしは食堂の仕事へ行くから。クロ、また会いましょうね」


 華やかな笑顔を残し、ローズが総合室から出ていった。

 いつのまにかサムがお気に入りの揺れる椅子にゆったり腰掛け、目を閉じている。


「そういえば、誘拐事件解決の一手となった匿名の告発は、どうやら虎獣人の()()からだったと聞いたな……しかし信憑性に乏しいとなかなか捕縛に繋がらなかったという……それはその匿名の人物が悪評高かったのか、はたまた真実と判断するには()()()()のか……ふむ、昼休みじゃし、少し寝ておこうかの……」


 そう言うとサムがむにゃむにゃと口を閉ざした。ジョンはいつもの無表情、ルーカスはにこにこ人懐こい笑顔のまま。誰も言葉を発しない。


「……はあ、まったく本当にもう! 総合室のみんなは優秀すぎるよね! いや俺の態度がわかりやすいのかな?!」


 脱力したようにソファの背もたれにもたれかかっていたクロードが、天井を仰ぎながらどこか悔しそうに叫んだ。それは暗にジョンたちの推測――誘拐事件解決の匿名の告発者である虎獣人の子供が養育院に保護されている――が当たっていることを意味している。


 と、そこへノックとともに一人の女性が総合室へ慌ただしく入ってきた。


「し、失礼します! クロード様はこちらですか?!」

「どうしたんじゃ、マリー。いつも冷静なお前さんがそんなに慌てて」

「休憩中に申し訳ありません。あの、クロード様にお話がありまして、少しお時間を頂けませんか? 昼後の予定に関わる件で、急ぎお伝えしたいことが……」

「マリー、ちょっと待って。ねえ、ジョン。マリーの話、ここでしてもらってもいいかな? ここなら何を話しても秘密厳守になるんだよね」


 第二王女アイリーン付きの侍女であるマリーが緊張した面持ちで頭を下げた。クロードがマリーの言葉を遮り、ジョンヘ向き直る。


「構わない」

「マリー、総合室のみんなは、俺がボスポラスへ来ただいたいの事情をわかっているんだ」

「ちょっと、あなた口が軽すぎるわよ?! レオ陛下からの内々の使命だったはずでしょ!」

「いや俺がバラしたんじゃないよ? この人たちが優秀なのはマリーもよく知ってるだろ。状況だけで事実に辿り着いてしまったんだから。教えて、養育院で何が起こったの?」


 クロードの凛とした眼差しと落ち着いた口調に、マリーのふわふわの白い尻尾がブワッと膨れ上がる。これは猫獣人や虎獣人などが驚いたときに起こる仕草だと、ジョンは知っていた。事実、マリーはびっくりしたように目を丸く見開き、声を上げた。


「まあ! あなた本当にクロード・ルー・ノワール? どうしちゃったの、あの脳筋で人の話を全然聞かない、女たらしで軽薄で無責任でいい加減なあなたが……」

「マリー、すまんがその辺にしてあげてくれんかの。それで、本題は?」

「も、申し訳ありません」


 サムの一言に、はっとしたマリーは頬を赤く染める。膨らんだ尻尾も元に戻ったようだ。当のクロード本人は「本当のこととはいえさすがに傷付く……」とまるで深手を負ったように胸を押さえている。

 マリーが息を整え、改めて総合室の一同とクロードを見回す。


「失礼致しました。養育院へ預けていた虎獣人の少年が、朝食の後から姿を消したと連絡がありました。現在、責任者のさん、養育院の手伝いをしている洗濯室所属のドロシーさんの他、事情を知る数人が探しています」

「なんだって! 俺も探しに行く!」


 勢いよく立ち上がったクロードに、ジョンが冷静に声をかけた。


「俺も同行する。この後は休みを取っているから気にするな。探すにしてもあまり公にしたくないだろうから、人手が足りないと思う」

「ジョン、ありがとう!」

「本当に助かりますわ。ありがとうございます。それでは馬車を用意していますので、すぐに参りましょう」


 ジョン、クロード、マリーの三人は、足早に総合室を後にした。

更新が遅くなり、大変申し訳ありませんでした!

今後はもう少しペースをあげたい、です……

次回はエレナのお話に戻りますー

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