第98話 私、犯人じゃないです……
通路の先は闇──
懐中電灯を照らしても、2m先すらもまともに見えないよ。
私は懐中電灯を使うことを諦め、チェリーさんとの修行で身に付けた『気配を感じる感覚』を研ぎ澄ませ、慎重に進んでいくことにします。
この階層の通路は狭いみたい── 幅はせいぜい5m。ということは、大きな魔物は出ないということだね! ちょっと安心。
しばらく進むと──
あれっ? 分かれ道はなかったと思うのに、行き止まりだよ?
進行方向は壁で塞がれているけど、きっと仕掛けがある筈です。
懐中電灯を照らして、壁を良く調べると
やっぱりあった!
壁に文字──『力いっぱい押せ』と書かれていますね。
私は前の壁を全力で押しました。
びくともしませんけど……
どうやら、今の私の力じゃ足りないみたい。よーし!
「マッスルブースト3倍」
ズズズズ……
思った通りだよ!
身体強化を使ったら、壁を動かすことができました。
ドアのように壁が開き、先に進めるようになりました。
この先も、きっと仕掛けがありそう……
あの『入学試験のときの地下迷宮』のことを思い出します。あのときは、仲間がいたけど、今回は1人で心細い……
でも、負けないよ! この先には『お宝』が待ってるんだ!
貧乏脱出して、マリンを『あの危険な場所』から引っ越しさせるんだ!
私は、気持ちを奮い立たせて、暗闇の中を進んでいきます。
更に、数十分歩いた頃──
前方に何かがいる!?
この気配は、魔物じゃないです。もしかして、先に入った人達に追い付いたの?
でも、私は4時間以上も後に入ったから、こんなに早く追い付く筈ないし……
「コイツをくらえ!」
前方から声が聞こえたかと思うと、真っ赤な火の玉── 直径1mくらいはありそうな、とんでもない大きさの火球が、私に向かって飛んできた!?
ドアチャアアァァァ!
火球を掌で払い除けたけど、あまりの熱さに叫び声ともつかない奇声を上げてしまいました。
ドーン!!
火球は横壁に着弾し爆発。発生した爆風に吹っ飛ばされた私。
初級攻撃魔法の火球とは思えない、トンでもない威力── 洗礼の迷宮で、ネメアの攻撃で吹っ飛ばされた時のことが頭を過りました。
ここで追い打ちを食らった、絶対に死んでしまう……
「待ってください! 僕は人間です!」
倒れながら、必死に前方に向かって叫びました。
前方の人は、私を魔物と勘違いして攻撃してきたに違いありません。
「人間だと!?」
ダダダダ……
誰かが走る足音が聞こえてきます。
私の目の前で足音が止まると、懐中電灯の明かりが、私に向けられました。
「大変だ! 人が倒れているぞ!」
いえ…… 倒れたのは、今の攻撃のせいですけど……
・・・・・・
私が出会った3人組──
その内の2人は、何故か、ピエロみたいな奇妙な仮面をしています。暗闇で見ると、ちょっと恐い…… それに、いきなり攻撃してくるような人達だから、きっと『危ない人』ですよ……
「キサマ、何者だ! どうやってここまで入ってきたのだ!」
仮面をしていないオジサン── 横柄な言動に、冒険者とは思えない立派な衣装。この人が、調査隊の隊長のようですね。
ここで、正直に自分のことを告げると、王の間でお宝をくすねた後でバレたら大変。
「僕は旅の冒険者です。たまたま、この迷宮の探索中に99階層に転移してしまったんです」
悪いと思いながらも、噓を吐いておきました。
「そういえば、キミは99階層の部屋で倒れていた人だね」
仮面の男性が聞いてきました。その事を知っているということは、この人が
「もしかして、あの大芋虫の肉は……」
「ああ。俺が置いていった物だ」
この人のお陰で、私はお腹を満たせたんですね。変な仮面をしてるけど、この人は『良い人』かも。
「そんな話はどうでもいい! それよりも、キサマ、どうやってここに来たのだ!?」
どうやって── って、普通に歩いて来ましたが?
「俺達は、この迷宮に入って5時間くらいになるんだが…… どうやら、ずっと同じ場所を彷徨っているようなんだ」
話を聞くと、この人達は、先に入った2人を追い掛けて、この階層へ下りてきたそうです。
暗闇で明かりが役に立たないけど、1本道だから、すぐに追い付ける── と思っていたのに、いつまで歩いても2人の影も形も見えない。
その内、自分達が同じ場所を回っていることに気付いたそうです。
「どうして、同じ場所を回ってる、って気付いたんです?」
「ああ、それはここからちょっと歩いた所の壁に、文字が彫ってあることに気付いたからさ。そこから2時間程進んだら、また同じ文字を見つけた、というわけさ……」
きっと、その壁の文字が『王の間へ続く道』のヒントですね。
「僕をその壁の所に案内してください。その壁の文字が、先へ進むヒントの筈です」
「だが、アレはおそらく神聖文字だ。読むことができないぞ」
「大丈夫です。僕が読めると思います」
「本当か? キサマのような学の無さそうな冒険者が、神聖文字を読めるのか?」
隊長さんは、随分と疑り深い人ですね。それに、初対面の相手に対して失礼ですよ。
まあ、読めるのはマッチョ爺さんにもらった能力のお陰なんで、威張れませんけどね。
「この壁だ。ここに文字が書いてある」
仮面の男性が懐中電灯を照らした所に、文字が書かれています。
『力いっぱい叩け』
この壁を叩くの!? 痛そうだよ…… そうだ! 私の代わりに、仮面の男性に叩いてもらおう。
「ここを叩けばいいのか?」
「そうです。思い切り、やってくださいね」
「準備するから、ちょっと待ってくれ」
男性は、背負っていたバッグを下ろすと、中から短い棒を取り出しました。
そうか。別に素手で叩く必要はなかったのか!
男性は、棒を右手に持つと、大きく右手を後ろに引くように構え、
「ハッ!」
気合いと同時に、壁に向かって棒を突き出しました。
ドン!
おお! 壁に穴が空きましたよ!
ガラガラガラ……
壁が崩れ、先へ続く道が現れました。
「本当に、道が現れるとは!?」
隊長さんは驚いています。
その後も、いくつかの文字の書かれた壁を突破した私達の前には、怪しげな扉があります。
扉の大きさからして、『ボス部屋』という雰囲気ではないですね。
ということは── この扉の向こうが『王の間』に違いありません!
部屋に入ったら、この人達の目を盗んで、小さくて高価そうなお宝を2~3個いただきます。そのくらいなら、許されるよね?
「それにしても、ここはとてつもない寒さだな」
隊長さんの言う通り、まるで冷凍庫の中のような冷気が漂っています。
「これ、魔力によるものだわ……」
仮面の女性が呟きました。
「魔力!? まさか、これは氷魔法によるものなのか?」
「間違いないわ。この中には、何か『とてつもない物』がいる気がする……」
とてつもない物── ですか?
「魔王でも、いたりして?」
私は冗談半分に言ったのに
「魔王!? まさかとは思うが…… そういえば、『封印の迷宮』から『封印されていた物』が盗まれた、という噂があったな」
「封印の迷宮!? そうだわ、思い出した」
仮面の女性が、私のことを睨んでいる?
仮面で表情は分からないけど、彼女から強いプレッシャーを感じます。
「あなた、以前『封印の迷宮』の最奥の部屋に入ったことがあるでしょ?」
彼女から『噓は許さない!』という無言のプレッシャーを受けて、私は正直に答えることにしました。
「は、はい…… 半年くらい前に1度……」
「やっぱり! 間違いないわね…… 彼が、封印の迷宮から宝を盗んだ犯人よ!」
えーっ!? いきなり犯人扱いされて、驚いたけど
「ち、違います……」
何とか否定の言葉を搾り出しました。
「噓を吐いても無駄よ。私の勘は、良く当たるから!」
いいえ、思い切り外してますよ。
「きっと、ここでも宝を盗むつもりだわ!」
あっ…… それは正解です……




