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第96話 扉の向こうの妖気

 バール将軍達一行の目の前には、巨大な扉が立ち塞がっていた。


 ボス部屋の扉のようであるが、その奥から感じられる気配── まるで妖気とも言える不気味な気配に気圧されし、バール将軍は扉の横のスイッチを押せずにいた。


 第99階層の探索開始から、ここに来るまでに、魔獣4匹と遭遇していたため、かなりの弾薬を消費していたこともあり、今まで以上の緊張がバール将軍を襲っていたのだった。


「どうしました、バール将軍? ここを越えれば、我らの目的地ですぞ」


「ズラーマン。この向こうに有る物は、本当にジード様の望みを叶えるために必要な物なのか?」


 本当に、この恐ろしい妖気の元を、世に解き放しても良いのか?


 バール将軍は、ここに来て初めて、この先にあるという『魔王復活の鍵』に対する恐怖心を抱いた。


「どうなさいました、バール将軍? 今更そのようなことを申されるとは。ジード王子のご期待を裏切るおつもりですか?」


『ジード王子の期待』は、バール将軍にとって何物にも変えがたい重いもの── そう言われては、覚悟を決めるしかなかった。


 バール将軍は、扉の横のスイッチに手を伸ばした。


   ・・・・・・


 エルサとマンソルは、扉の奥から伝わってくる、底知れぬ妖気の圧に恐怖を感じていた。


「マンソル…… あの扉の向こうには……」


「ああ…… 魔族…… それも、トンでもないヤツがいそうだ……」


 昔、彼らは魔族と対峙したことがあった。

 その魔族は、向かい合っているだけで息苦しさを感じるような、禍々しい気を発していた。


 それは、敵と認識した相手に対して妖気を発する、という魔族の特性によるものだった。

 妖気は、魔族自身の強さと、相手に対する敵意の強さに比例して大きくなる。


 この扉の先から感じる妖気は、近付くだけで気分が悪くなってくるほどの瘴気を孕んでいる。


 あの時の魔族の妖気も、かなりの大きさだったが、この奥から伝わってくる妖気は、その時の比ではない── エルサとマンソルは、背中に冷たい嫌な汗が流れてくるのを感じていた。


「この扉を開けるのは危険だわ……」


 あの時は、エルサと『戦慄の剣姫』の2人掛かりで何とか勝利できた。

 だが、今ここには『戦慄の剣姫』はいない。


「調査隊の使っている強力な武器なら、何とかなるかもしれないぞ」


 確かに、調査隊の使う武器の威力は凄まじい。

『キカンホウ』だけでなく『ロケットランチャー』という武器まであり、あのジャイアントベアですら、簡単に倒した程だ。


 それでも、この扉の奥から感じられる妖気は、エルサを不安にさせる。


「私達は、調査隊とはここで別れた方が良いと思うの……」


「エルサ、どうした?」


「マセルは、ここには来てないと思うわ」


 マンソルはちょっと考えた後、頷いた。


「そうだな。マセルが、もしここまで来ていたとしても、この部屋には入らないだろう。俺達は上の階層へ行こうか」


 エルサも同意する。


「その前に、調査隊の隊長に、挨拶と忠告をしておいた方がいいだろう」


「そうね。ここまで安全に来れたのは、調査隊のお陰だものね」


 2人は、バール将軍に近寄って、話し掛けようとしたその時── バール将軍の手が、扉の横のスイッチを押したのだった。


   ・・・・・・


 ゴゴゴゴゴゴ……


 扉がゆっくりと開いていく。


 その瞬間、扉の間から溢れだした妖気の塊に押し潰されるように、扉の前にいた全員が踞った。


「な、何だ…… この力は……」


 バール将軍が必死に顔を上げて前を見ると、立っている人影が1つ。


「おお!? 何という素晴らしい力!」


 この暴風のような妖気の中で、ズラーマンだけが立っていた。


「ズラーマン…… これでは、部屋の中には入れんぞ」


 バール将軍の呼び掛けに、ズラーマンは応える。


「心配いりません。このために『アレ』があるのですから。今から、アレを動かします」


 そう言うと、ズラーマンは荷車に近付き、シートの被されていた大きな箱を開けた。


 箱の中には人── 否、虎の顔をした魔族の男が横たわっていた。


「ガイターよ! 目覚めの時間だ!」


 ズラーマンの声が届いたのか? 箱の中の魔族【ガイター】が起き上がる。


 ガイターの目には、意思が感じられない。

 ガイターは、ジード王子の手術を受けて、操り人形のようになっていたのだ。


「ズラーマン、どうするつもりだ?」


「バール将軍。ここから先は、私とコイツだけで十分ですから。皆さんは、そこでお休みくださいな。行くぞ、ガイター!」


「ま、待て! ズラーマン!」


 バール将軍の声を無視し、ズラーマンは、ガイターを連れて部屋の中に入っていった。



「マンソル、大丈夫? 立てそう?」


「ああ…… 俺は、何とか大丈夫だ。それよりも、他はどうなっている?」


「そうね…… 後ろの人達は、全員気を失ってるみたいだわ。意識があるのは、私達と隊長さんだけよ」


 強力な妖気を受けて、精神耐性の低い者はショックで気絶してしまっていた。


「エルサ、動けるか?」


「大分この妖気にも慣れてきたから、もうすぐ動けると思うわ」


「それは良かった。俺も、もう少しで動けると思う。それよりも、部屋に入っていったヤツを見たか?」


「2人、部屋の中に入っていったわね」


「ああ…… しかも、その内の1人は……」


「魔族…… だったわ」


「何故、調査隊の荷物の中に魔族がいたんだ!? 嫌な予感がしてきたぞ……」


「そうね。このまま、放っておくわけにはいけない気がするわ」


 エルサは、ゆっくりと立ち上がる。


「そうだな。まずは、隊長さんに話を聞く必要がありそうだ」


 マンソルもエルサに続いて立ち上がった。



 ズラーマンめ。ヤツは一体何を企んでいるのだ? それにしても、ヤツが動けて、この私が動けんとは……


 バール将軍は、部屋の中に入っていくズラーマンの背中を見送りながら、身動きの取れない自分を呪っていた。


「これは、一体どういうことですか?」


 声を掛けたのは冒険者の男。


「何故、魔族がいたのです?」


 女の声もした。


 この2人、動けるのか!?

 ぐぐぐ! 冒険者ごときに遅れを取るとは…… 許せん!


 バール将軍は、力を振り絞り起き上がる。膝をガクガクさせながらも、どうにか立ち上がった。


「あの魔族のことは最高機密だ。キサマら冒険者が知る必要はない」


「では、この先に何があるのです? この妖気は尋常じゃありません。トンでもない魔族がいる可能性があります」


「それを調べるために、我々が来ているのだ。キサマらは、さっさと子供の捜索をしてくればよい」


 バール将軍は、震える足取りで、部屋の中に入っていこうとする。



 エルサとマンソルは、顔を見合わせて頷く。

 マセル捜索をしたい気持ちは強いが、この先にあるものを放置すると、きっと取り返しのつかないことになる── 冒険者としての勘が、そう告げていた。


「いいえ。私達も、この先へ行かせてもらいます」


 2人は、ふらついて歩くバール将軍を、左右から支えるようにして、部屋の中に入っていく。


「えーい、離せ!」


 部屋の中では、バール将軍の声が聞こえてきた。

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