第90話 マセル捜索(エルサとマンソル)
迷宮の入り口に立つ影2つ。
1つは長髪の女性で、もう1つは荷物を担いだ男性だ。
「ここに来るのは随分久しぶりだな、エルサ」
「マンソル。今は昔を懐かしんでいる場合じゃないわよ」
「そうだったな…… それじゃあ、気を引き締めて行こうか」
グレシア達に遅れること約2時間── エルサとマンソルは、迷宮に足を踏み入れた。
「おお! コイツはすごいな!」
「メルナちゃんがこの魔道具を貸してくてたのよ。何でも、メルナちゃんの従姉妹が、マチョリカ公国で買ってきたそうなの。あのマチョリカ公国が、今では信じられない程発展してるんだって」
「へぇ? 噂には聞いたことがあるが、あのど田舎だった国がねぇ……」
マンソルの手には、携帯トーチ(懐中電灯)が握られていた。
「これだけ明るかったら、魔物を見落とすこともないわね。一気に13階層の例の部屋まで行くわよ。マンソル、大丈夫ね?」
「任せろ。35階層までの地図は、全部頭に入っているさ」
「フフフ、流石は【究極の応援者】だわ。頼りにしてるわよ」
・・・・・・
「調査隊が入ってたみたいで幸運だった。魔物と殆ど遭遇しなかったお陰で、ここまで思っていたよりも、ずっと早く来れたな」
エルサとマンソルは、最短コースでマセルが転移させられた第13階層の部屋までやって来た。
「アレが、マセルを転移させた石碑ね」
エルサは目の前に立つ石碑に近付くと、上の方に目を向ける。
「あの魔法陣に攻撃魔法を撃ち込んだら、マセルが転移させられたそうよ」
「そうなのか? で、何の魔法を撃ったんだ?」
「手紙には『攻撃魔法』としか書かれてなかったわ…… とりあえず、火球を撃ち込んでみようかしら」
魔法を撃つ態勢に入ったエルサを、マンソルが慌てて止める。
「ちょっと待った! エルサの火球じゃ、下手したら石碑ごと破壊しかねないぞ」
「あら? 私、そんなバカじゃないわよ。ちゃんと手加減して撃つわ」
「そ、そうか…… じゃあ任せるよ」
エルサの火球が魔法陣に吸い込まれると、石碑全体が眩い光を放った。
「うまくいったようね。これで私達も、マセルの転移先へ行けるわ!」
エルサとマンソルは石碑に触れ、光の中へと消えていった。
・・・・・・
「ここは、どこかしら?」
エルサとマンソルの転移させられた場所は部屋の中だった。
マンソルは懐中電灯で辺りを照らし、中の様子を探る。
「ここでは全くわからないな…… とにかく、部屋の外を調べてみよう」
「そうね。早くマセルを見つけないと!」
2人は部屋から出て、この階層を調べることにした。
ドーン!!
襲い掛かってきた魔物を、火球1発で粉々に仕留めたエルサ。
「今のは、ジガーだったかしら?」
「いや、今のはジガーの上位種の『ジンガー』だな。ということは、ここは35階層よりも深い階層で間違いないだろう」
「ジンガーまでいるなんて…… マセルが心配だわ」
「いいや、マセルならきっと大丈夫だ。あの子は利口だから、魔物に見つからずに、慎重に上の階層に向かっている筈だ」
ベテラン冒険者でも、迷宮に1人取り残されると、生き残るのは至難。
それなのに、マンソルはマセルが生きている、と信じて疑っていなかった。
マセルは普通の子供とは何かが違う── その事にマンソルが気付いたのは、マリンが生まれてからだった。
マセルの態度は、子供っぽくない── 初めはマリンが幼すぎるのかと思ったが、自分の子供の頃と比較しても、マセルが異常に落ち着いていることに気付いたのだ。
マセルは、特別な何かを持っているに違いない── マンソルは、そう感じるようになっていた。
「そうよね。マセルなら大丈夫よね」
「ああ、絶対だ。俺達も上への通路を探そう」
そして、階層内を探索していると、大勢の人が通った跡を発見した。
「これは調査隊のものだな。調査隊がここを通ったのなら、マセルもきっと調査隊を追い掛ける筈だ」
「そうね! 調査隊の通った後なら、魔物は出ないし、一緒にいれば安全だわ!」
2人は、調査隊の足跡を追っていった。
足跡を追って、下の階層へ降りたエルサとマンソル。
「何かしら? 向こうの方が光ってるわね」
「調査隊か? ライトの魔法並みの明るさだな」
「どうしよう? 私、顔を見られると不味いわ……」
「心配ない。こんなこともあろうかと、仮面を用意してある」
マンソルは荷物から仮面を2つ取り出すと、1つをエルサに渡した。
「怪しまれそうだけど、大丈夫?」
「顔がバレるよりはマシだろ? マセルの無事を確認したら、すぐに引き返せばいいさ」
2人は仮面を付けて、光の方へと近付いていった。
◇ ◇ ◇
「くそっ! ここまで来て、撤退するしか手がないというのか!?」
一旦ボス部屋から退却したバール将軍達。
「毒スライムは、マチョリカご自慢のその銃でも倒すことは無理ですね。下手に攻撃しても、先程のように増殖させてしまうだけです」
ズラーマンもお手上げのようだ。
「こうなったら、アレを使うしかないか……」
バール将軍は1つの荷車に目を向け、呟いた。
それに積んであるものを使えば、毒スライムを倒せるかもしれない。しかし、それは戦闘とは別のことで使う予定の物で、できればここでは使いたくない。
思案しているバール将軍に、ズラーマンが声を掛けてきた。
「バール将軍。アレをここで使えば、確かに毒スライムは倒せる可能性はありますが、その代わり、我らの最終目的が達せられなくなるやもしれません」
「わかっている! だが、ここを突破せんことには何も始まらん! 私は、ここでアレを使うことにするぞ」
バール将軍が覚悟を決めたその時── 部下の1人が駆け寄ってきた。
「どうした? 何かあったのか!?」
「はっ。冒険者を名乗る者がやって来たのですが、どういたしましょう?」
「冒険者だと!? この忙しい時に」
「冒険者とは困りましたな。我らのことがバレると、後々面倒なことになるのではございませんか?」
「そうだな。ここで始末してしまうか…… 否、待て。ここまで来るような冒険者なら、攻撃魔法を使えるかもしれん。よし! そいつを、ここに連れてこい!」
バール将軍の前に現れたのは、怪しい仮面を付けた男女の冒険者。
その内の男の方が話し掛けてきた。
「あの…… この調査隊で、男の子を保護されていませんか?」
いきなりの訳のわからない質問に、戸惑うバール将軍。
「男の子? いいや、そんな子供はこの隊にはおらんが…… お前達は、迷子の捜索に来たのか?」
バール将軍の返事に、仮面の女は動揺を隠せない。
「ここにいないなんて……」
「まさか、もっと下の階層にいるのか?」
仮面の男も少し焦っている様子。
「どういうことか、詳しく話してみろ」
バール将軍に言われ、仮面の男は手短に経緯を話した。
「なるほど…… そんなことがあったのか。いいだろう、私達も捜索に協力してやろう」
「本当ですか!?」
「その為には、このボス部屋を突破しなくてはいけないのだが、戦闘魔法の使い手の力が必要なのだ」
「それなら、私に任せてください!」
そう言ったのは仮面の女。
・・・・・・
ゴオオオォォォ!!
凄まじい熱風がボス部屋中に吹き荒れる。
毒スライムは一瞬にして熱風に飲まれ、跡形もなく消滅。毒の霧もその熱風によって、完全に浄化されてしまった。
まさか、ネメア以上か!?
あまりの凄まじい魔力に、ズラーマンはゴクリと生唾を飲んだ。
「さあ、急ぎましょう!」
2人の仮面が次の階層へと下りていくのを、バール将軍達は呆然と見送っていた。




