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第85話 闇の魔力を引き出しました

 院嵐流忍術(闇魔法)を使えるようになるには、精神統一ができないといけないらしい。


 ということで、座禅の再開。

 だけど、精神統一って難しすぎる……

 全然集中力を持続できないよ。


 本当にこんなことをしていて、闇魔法が使えるようになるの? この座禅の時間に別の修業をした方が有意義じゃないの? とか、余計なことを考えてしまいます。


「喝!」


 ビシッ!


 またチェリーさんに肩を叩かれました。叩いたのは杓文字みたいな棒── ではなく、変な形の棒です。


「朔良…… マジカルサクラさん。その棒は何ですか?」


 棒の先端にはハートマークが付いていて、ラメでキラキラさせています。


「マジックで使っていたステッキを、魔法少女風にアレンジしたのだ。なかなか可愛いだろ?」


「そ、そうですね……」


 衣装まで、黒い忍者装束から白に変わっていて、余計に気になって集中できないよ。


「精神統一できないと、本当に院嵐流忍術が使えないのですか? この修業で、本当に忍術を使えるようになるんですか?」


 思いきって、チェリーさんにモヤモヤしていた疑問をぶつけてみました。


「それはお前次第だ。確かに、座禅そのものには深い意味はないかもしれない。だが、この私も精神統一できるまでは、院嵐流忍術が使えなかったのは事実だ」


 精神統一できないと使えない── って話だけど、あのマッチョ爺さんが使えるくらいだから、本当は精神統一なんて必要ない気がしますけど。


「いいや、闇魔法を使うには精神統一が必要だぞ」


 マッチョ爺さんの声!?

 まさか、また私の影に潜んでるんじゃあ?


「フフフ。上を見ろ!」


 うわっ!?

 マッチョ爺さんが天井に逆さまに立っている!?


「これは闇魔法【影縛り】── 影で足を縛って、どんな場所にでも身体を固定できる魔法だ」


 そういえば、チェリーさんも天井にぶら下がっていたけど、あれも魔法だったんだ。


「どうして闇魔法を使うのに、精神統一が必要なんですか?」


「簡単な理由だ。闇の魔力は、火や風などの魔力と違って、意識の奥底に眠っておる。それを引き出すには、己の中に潜む闇の魔力を感じる必要があるのだ」


 闇の魔力を感じる?


「そうだ。闇魔法を使うには、闇の魔力を一点に集めて安定させる必要がある。お前はまず、闇の魔力を感じ取ることができねばならんのだ」


 そして、闇の魔力を感じ取るには精神統一をする必要がある── ということですか……


 でも、私は座禅で精神統一できる気がしないんですよ。


「マジカルサクラさん。座禅以外の精神統一の方法はないのですか?」


「院嵐流では、座禅以外の精神統一は試していないからな…… 他に良い方法があるのかは知らない」


「それならば、儂の方法を試してみるか?」


 マッチョ爺さんに聞いても、どうせろくな答えは返ってこないから、態と聞かなかったのに、勝手に入ってきたよ。


「誰が、勝手に入ってきただ! 儂の精神統一の方法を知れば、お前は感謝する筈だ」


「じゃあ、どうやって精神統一するんですか?」


「筋トレだ! 一心不乱に筋トレに励めば、これ以上ない精神統一になるのだ!」


 予想通りの答えに、私が呆れて無言でいると


「なるほど、筋トレか…… それも『あり』かもしれない。マセル、試してみてはどうだ?」


 チェリーさん、本気で言ってます?


「よし、決まりだ! では儂が、精神統一に最も相応しい筋トレを教えてやろう」


 えっ? 筋トレすることに決定ですか?


「安心するがいい。儂はその筋トレのお陰で、闇魔法が使えるようになったのだ!」


 本当ですか? 絶対に嘘臭いんですけど。



 私がすることになった筋トレは


「スクワットだ。それも只のスクワットではない。この200kgのバーベルを肩に担いで行う『バーベルスクワット』だ!」


 200kg!?


「どうした? 軽すぎるか?」


 やってやりますとも!

 それで闇の魔力が感じ取れなかったら、只じゃ起きませんから!



 スクワットを始めて30分──


 闇の魔力を感じ取るどころではないです。

 私の中に感じられるのは、マッチョ爺さんに対する、怒りの感情だけ。


 更にトレーニングを続けていると、その感情は、やがて純然とした殺意と変わってきました。


 そのとき私は、胸の奥で今まで感じたことのない力の波動が溢れてくるのがわかりました!


 ま、まさかこの波動は!?


「それはまさしく闇の魔力!」 


 やっぱり、そうですか!


「驚いたぞ。普通は闇の魔力を感じ取れるようになってから、次に魔力を集中させることができて、ようやく魔力を引き出せるようになるのだが、まさか負の感情を生み出すことで、強引に闇の魔力を引き出すとはな」


 何故かわかりませんが、結果オーライで闇の魔力に目覚めたみたい。


「じゃあ、闇魔法が使えるようになったんですね?」


「そうだ。それだけ見事な、どす黒い闇の波動を出せるなら十分だろう」


 やった! これで『影潜み』を使える!


「だが、闇魔法を万能だと思わんことだ。影潜みは、お前の魔力では10分足らずしか使えんし、1度使うと30分のインターバルが必要だ」


 えっ? 10分足らずしか使えないの?

 それじゃあ、アソコから脱出できないですよ!?


 騙された…… 私は無駄なトレーニングをしていたんだ……


「マセル、落ち込んでいる時間はないぞ。院嵐流忍術は『影潜みの術』だけではない。他の術も修得すれば、如何なる状況も打開できる筈だ」


 チェリーさん、本当に大丈夫?


「さあ! このマジカルサクラを信じて立ち上がれ!」


 不安だけど、今はチェリーさんを信じるしかないですね。


「そうだ、本当の修業はここからだぞ」


「わかりました。お願いします」


   ・・・・・・


「マセル、お前は天才だ!」


 いやあ、そんなことはないですよ。えへへへ。


「影潜み・影縛り・影分身の院嵐流秘術を、こんな僅かの期間にマスターするとは!」


 私は3つの院嵐流忍術を、5日で使えるようになりました!


 だって、それらは普通に魔法ですから。

 闇の魔力さえ引き出せれば、後は簡易魔法陣を頭に描いて魔力を流すだけ。普段魔法を使っているのと、全く変わらないです。


 チェリーさんに最初に教えられた、術を使うときに頭に描くイメージ(魔法陣)は、結構複雑でとても覚えられなかったけど、マッチョ爺さんが簡易魔法陣を紙に描いて教えてくれたお陰で、楽に使えるようになったんです。


 教えてもらった院嵐流忍術は、闇魔法の初級魔法だそうで、簡易魔法陣は単純なものばかりでした。


 いつも邪魔で役立たずなマッチョ爺さんが、今回は奇跡的に役立ってくれました。


「誰が役立たずだ!? お前が今生きておるのは、儂のお陰だということを忘れるな!」


 それはともかく、マッチョ爺さんは魔法には相当詳しいですね。私がここに来たときは、筋トレはいらないから、魔法だけを教えてくれたら有り難いんですけど。


「だがマセル。院嵐流忍術は使えても、体術も使えないと一流の忍にはなれない。これからは、体術と気配を消す忍としての基礎の修業中心で行う」


 別に一流の忍者になる気はないですが、基礎くらいは覚えておいて損はないですね。


「お前ほどの天才なら、目を瞑ってもできる楽な修業だ」


 ところが── 私にとっては、この後の修業の方がずっと大変でした。

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