第84話 闇魔法
座禅なんかよりも、絶対にその『影潜みの術』の修業がしたいです。
「朔良様! その『影潜みの術』を私に教えてください!」
私は土下座して頼みました。
「ダメだ」
それなのに、チェリーさんに素っ気なく断られました。
それでも簡単には諦められないです。
その『影潜みの術』さえマスターすれば、きっと『あの窮地』からでも逃げ延びることができると思います。
「朔良様。そんなことを言わずに、教えてくださいよ」
「『影潜みの術』は我が一族の秘伝── 簡単に修得できるものではない。それよりも、まずは己の気配を消して自然と同化する術を身に付けるのだ」
チェリーさんのケチんぼ……
「ならば、儂が教えてやろうか」
ギョッ!?
今、確かにマッチョ爺さんの声が聞こえたよ!?
ずっと姿が見えなくて安心してたのに、いったいどこにいるんですか?
「わからんのか。儂ならここにおるぞ」
うわっ!?
マッチョ爺さんが、私の影から現れた!
信じられないことに、マッチョ爺さんの巨体が私の影に潜んでいました。
マッチョ爺さんですら使える―― ってことは、私でも覚えられる筈だよね!
「言っておくが、『影潜みの術』は誰もが使えるわけではない。『影潜みの術』を使うには【闇魔法】の資質が必要なのだ」
「闇魔法?」
まさか『影潜みの術』って、忍術じゃなくて魔法だったの?
いえいえ、そんな筈ないです。チェリーさんは地球人だから、魔法なんて使えないですよ。
「地球人が魔法を使えない── なんて、誰が決めた? 地球人の中にも、魔力を持って生まれる者も、僅かながら存在するのだ」
「嘘!? 地球にも魔法が存在するんですか!?」
「当然だ。嵐院の一族の場合は、代々闇魔法の能力を備えた者が生まれておる」
地球人にも魔法使いが存在したなんて!
チェリーさんの一族って、もしかしてとんでもない力を秘めていたりするのかな?
「残念だが、嵐院の魔力は大したことはない。『影潜み』と『影縛り』のような、地味な術がいくつか使える程度で可愛いものだ。しかし、地球人の中にも大量破壊兵器にも匹敵するような、強力な魔力を秘めた奴が存在する」
大量破壊兵器並みって…… そんな魔力を持っていたら、世界征服も可能なんじゃあ?
「尤も、ソイツは強力な魔法を使うことはないだろう」
「どうして、魔法を使うことはないんです?」
「地球人の身体は魔法特性がないため、MPをほとんど作ることができないのだ。その為、無理矢理強い魔法を使うと、生命エネルギーを消費することになり自滅するのだ。ソイツも、そのことを理解しておるから、使うことはないだろう」
「その人は、どうして魔力を持っていることを知ったんですか?」
地球人なら、魔法のことなんてわからないと思うんですけど?
「ソイツは元々別の世界の住人で、前世の記憶と能力を持ったまま地球に転生したのだ。だから自分の魔力のことを知っておるが、平凡な地球人の身体に転生したために、ほとんど魔法を使えない、というわけだ」
ということは、その人も特典をもらった転生者?
「そうではない。ソイツは、自力で転生を果たした者だ」
自力で転生!? それって『転生魔法』ですか!?
『転生魔法』って、ラノベにはよく出てきたけど、本当に存在するんだ!
「その人、転生魔法が使えるのって、すごいですね」
「転生魔法など別に大したものではないぞ。魔法陣さえ知っておれば、MPも殆ど必要ないし、お前でも使える簡単な魔法だ」
私でも使える!? その魔法陣、私も知りたいです。
「但し、転生魔法は失敗すれば死―― 成功しても前世の記憶は保持できるが、転生先の場所も時間もわからんという、完全に運任せの魔法だがな」
失敗したら死―― っていっても、自分が死ぬ間際に使えば問題なしですよね。
どこに転生するかは不安だけど、地球に転生できる可能性もあるわけだし!
「勝手な転生は、世界の理を乱す最悪の所業だから、転生に失敗して死んだ場合は『地獄の最下層送り』となるが、それでもいいんだな?」
「いえ、やめときます」
やっぱり、そんなうまい話は転がってないですね。
それにしても、その転生者はよくそんな危険な賭けができましたね。
「転生魔法はな、術者の魔力値によって成功確率が変わるのだ。お前の場合は魔力値99だから成功確率は1%以下だが、ソイツの魔力値は5000近くあるから、成功確率は約90%だ」
魔力値5000!? とんでもないチート魔力の持ち主だったんだ。
地球人に転生して宝の持ち腐れだけど、もしムセリットに転生していたら『チート無双』できたろうに…… 勿体ない。
私がマッチョ爺さんと話し込んでいる間、チェリーさんは少し離れた所で、肩をプルプル震わせていました。
「私の忍術が魔法だと…… それでは私は……」
ブツブツと独り言を呟いています。
忍術を魔法と言われて、ショックだったのかも。
「朔良様、大丈夫ですか?」
「そうだったんだ…… 私は── 魔法少女だったんだあぁぁ!」
うわっ? 急に大声を出すなんて、どうしたんですか?
それに、魔法少女って……
「もしかして朔良様…… 女性なんですか?」
「その通り。私は享年28歳のうら若き『くノ一』だ」
そうだったんだ。ずっと顔を隠してるから女性だとは気付きませんでした。
でも、28歳で『少女』というのはどうかと思いますよ。
「私の子供の頃の夢は、魔法少女になることだった。まさか、死んだ後に夢が叶うとは!」
チェリーさん、喜んでるんですか?
死んでからわかっても意味ないですし、それに闇魔法って、魔法少女のイメージとはかけ離れてますよ。
野暮ですから、つっこまないけど。
それよりも! 元々マッチョ爺さんが私に『影潜みの術』を教えてくれる── って話だったのが、ずいぶんと脱線してしまいました。
『闇魔法の資質が必要』ということだったけど、私に資質はあるんですか?
「それでは、調べてみるとするか。この紙に描かれた魔法陣に魔力を込めてみろ」
マッチョ爺さんは、パンツから紙を取り出して、私に渡してきました。
汚いでしょ! 止めてください!
「汚くないわ! 儂のパンツは特別な魔道具で、ドラ○○んのポケットと同じ効果があるのだ!」
何故魔道具をパンツにするんですか? 他の物にしなさいよ!
仕方なく紙を受け取って、魔法陣に魔力を流してみると
ポワッ
魔法陣は、一瞬だけ薄ぼんやりと光ると、すぐに消えてしまいました。
「フム…… 闇魔法の資質は、僅かだがあるようだ。だが、今のままでは『影潜み』は到底使えんな」
「どうすればいいんですか?」
「心を落ち着け、自然と同化する方法を身に付けることだ。さすれば、もう少し闇魔法が安定する筈だ」
えっと…… それって結局、チェリーさんの座禅の修業をしろ、ってこと?
「そうだ。何事も地道な努力が肝心なのだ」
「わかりました。もう結構です」
マッチョ爺さんに教わるのは無駄みたいです。
「朔良様、修業の続きをお願いします」
影潜みの術はチェリーさんから教わろう。
「朔良様ではない。これからは、【マジカルサクラ】と呼ぶように!」
チェリーさんまで、おかしくなった!?
これからの修業が不安……




