第83話 飛ばされたようです
マセルがオープンザマッソーの呪文を使って、マッチョ爺さんのトレーニングルームへ来る前に、いったいどのような状況に陥っていたのだろうか?
◆ ◆ ◆
私は、発見した『扉の部屋』のことを報告をするために、皆の所まで戻りました。
怪しい部屋だけど、魔物はいなかったし水も湧いていたことを告げると、全員で部屋まで行って休憩することに決まりました。
「扉が開いてるね。マセルが開けたのかい?」
ディアナさんに尋ねられたので、扉が勝手に開いたことを話しました。
「それは怪しいわね。罠があるかもしれないわ」
「シンディの言う通りだ。皆、油断するなよ」
私達は、慎重に部屋の中に入って行きました。
「あれがマセルが言ってた石碑ね。確かに光ってるわね」
石碑に向かって歩いていくシンディさん。
「シンディさん、危険ですよ!」
私の忠告を気にすることもなく、シンディさんはあっさりと石碑の側まで行くと、調べ始めます。
石碑の高さはシンディさんの身長の3倍以上── 5mくらいありそうですよ。
「これも神聖文字かしら? 何が書いてあるのか全然わからないわね…… あら!」
シンディさんが何かを見つけたようです。
「魔法陣が描いてあるわ!」
それを聞いて、皆興奮して石碑に近付いていきます。私は一番後ろから付いていきました。
「ホントだ。魔法陣だ!」
石碑の上の方に、結構大きな(直径50cm程の)魔法陣が描いてあります。
「これを報告したら、絶対に高評価がもらえるぞ!」
「どうせなら、この魔法陣を動かせないかしら?」
今凄く不穏な発言があったけど、もちろん誰も同調しないよね?
「面白そうね」
「よし。1人ずつ順番に試してみようぜ!」
私以外のメンバーは、魔法陣に魔力を流す順番決めを始めました。
こうなってしまったら、私の意見なんて絶対に誰も聞き入れそうにないです。
私は、何も起こらないことを神に祈るしかありませんでした……
・・・・・・
「ダメだ…… 僕も動かせなかった」
最後のセシルさんも、魔法陣を発動させることができませんでした。
冷や冷やしながら、皆が石碑に魔力を流す様子を見ていたけど、運良く(?)全員失敗に終わったみたいです。
「何だよ。何も起こらないなんて壊れてるんじゃないの?」
皆は愚痴を溢してるけど、何が起こるかわからない怪しい魔法陣が動かなくて良かったよ。
「そういえば、まだマセルが試してなかったよね?」
ディアナさん、何故気付くんですか!?
皆の視線が私に集まります。
「僕はパスしときます」
って言いづらい雰囲気の中、結局私も試すことになりました。
『火系の魔力にも風系の魔力にも、魔法陣は反応しなかったから、私も失敗する筈』
私はそう考えながら石碑に触れ、魔力を流しました。(魔法陣には手が届かないので、石碑に魔力を流して、魔法陣に魔力を送る、という方法を全員使いました)
予想通り、魔法陣は何も反応しません。
「ほら、何も起きないですよ」
私は胸を撫で下ろしながら、後ろを振り向くと
「面白くないわね。こんな魔法陣、壊してしまうわ」
シンディさんが、魔法陣に向かって火球を打ち込んだ!?
火球が魔法陣に命中した! と思った瞬間、火球は魔法陣に吸い込まれました。
その瞬間、石碑全体が金色の輝きを放ち── 気がついたら、私は1人で部屋の中に立っていました。
・・・・・・
私だけが別の場所に飛ばされた?
ここは、さっきまでいた部屋とは違う場所みたい。皆がいないだけでなく、石碑もないです。
あれは【転移魔法】の魔法陣だったのか……
恐らく、私だけが石碑に触れていたため、魔法陣の影響を受けて、転移させられたようです。
これってヤバいよ。
迷宮内での『転移トラップ』っていったら、超危険な深い階層に飛ばされる── って相場が決まってます。
いったい何階層に飛ばされたんだろ?
とにかく、魔物に出会う前に上の階層に逃げないと……
私は部屋の外へ出る決心をしました。
部屋の外はとんでもなく広い通路。
道幅は優に15m。
つまり…… それだけ大きな魔物が通る、っていうことですか!?
ドシン! ドシン!
地面を揺らす大きな足音が複数聞こえてきたとき、私は条件反射のようにサイドチェストのポーズをとりながら
「オープンザマッソー!」
と叫んでいたのでした。
◇ ◇ ◇
忍者──
それは、超人的な身体能力と超能力の如き忍術を駆使し、華麗に闘う戦闘マシン。
当然、その修業はとんでもなく身体を酷使するものである── というのが私のイメージだったけど、実際は……
「喝!」
ビシッ!
痛っ!? また、長い杓文字みたいな棒で叩かれたよ。
それにしても、これが忍者の修業なんですか?
じーっと、座禅を組んで心を無にして座るだけ── って、まるでお坊さんの修業みたいじゃないですか?
「チェリーさん、こんなことしていて、強くなれるんですか?」
「喝!」
ビシッ!
痛っ!? また叩かれたよ……
「チェリーはあくまでマジシャンとしての芸名だ。忍術の修行中は『朔良様』と呼ぶように」
「朔良様、この修業には何の意味があるんですか?」
こんなことをしていても、絶対に強くなれませんよね?
「忍にとって最も重要なこと── それは、いつ如何なる状況でも、平常心を保ち続けることだ。その為には心を落ち着け、自然と一体になることが必要なのだ」
でも、自然と一体になったらどうなるんですか? 全然イメージできないです。
「腑に落ちない── そう思っているようだな。いいだろう、自然と一体になる、ということの意味を実感させてやろう」
何故か、チェリーさんと勝負することになりました。
・・・・・・
「ルールは簡単── 10分以内に私を見つけることができたら、お前の勝ちだ」
「この部屋の中だけで、ですか?」
「その通りだ」
いくら何でも、それは簡単すぎますよ。
部屋の中には、トレーニング用具はいっぱいあるけど、隠れられる場所なんてないですよ?
「では、始めるぞ。用意、スタート!」
チェリーさんが合図と同時に煙玉を投げ、『かくれんぼ』が始まりました。
煙が晴れた後、部屋の中を見渡しても、どこにも人が隠れているような場所がないですよ?
私は部屋の隅々を調べ回ったけど、どこにもいません。
時間だけが刻々と過ぎていく……
ハッ!? そうだよ、チェリーさんはアソコにいるに違いない!
初めて会ったときのことを思い出した私は、天井を見上げました。
チェリーさん、見つけ…… られない?
予想に反して、天井にもいません。
「タイムオーバーだ」
うわっ!?
声が聞こえたのは、私の真下…… 私の影の中からチェリーさんが現れました。
「驚いたか? これぞ院嵐流【影潜みの術】だ」
嘘でしょ!? どうやって、私の影の中に入ってたの!?
「私が自然と一体になって気配を完璧に消していたために、お前は影に潜む私に気付くことができなかったのだ」
待ってくださいよ。自然と一体化しても、影の中に潜むことなんてできないと思うんですが……
『自然と一体になる』なんてどうでもいいから、その『影潜みの術』だけ教えてくださいよ!




