第81話 偵察を頑張ります……
今私は、1人パーティから離れて歩いています。
魔物か、分かれ道や扉なんかを見つけたら、戻って報せるのが私の役目。
危険な任務なので、シンディさんから懐中電灯と盾、それからローブを渡されました。(荷物はもちろん置いてきてます)
ローブを着ると少し動きにくいけど、「絶対に着ときなさい」ってシンディさんに強く念を押されました。きっとこのローブには、特別な効果があるのかな?
それはともかく、この階層に出る魔物はかなり強そうです。いきなり襲われたら、無事に逃げきれるか心配……
そんなことを考えていると、前方に壁が見えてきました。曲がり角です。
曲がり角は特に要注意。いきなり魔物と遭遇しませんように……
1回深呼吸してから、警戒しつつゆっくりと曲がり角の向こうを覗き込み、前方を懐中電灯で照らすと
!?
すぐ目の前に大きな輪郭が3つ!
ガルル ゴルル グルル
小さな唸り声が聞こえると同時に、牙を剥き出した口が、私に向かって飛び込んできた!
うわああっ!?
慌てて盾を突き出して、防ごうとしたけど
ゴン!!
結構な衝撃に、尻餅を付いてしまいました。
今のはジガー!?
1匹でも手強いのが3匹ってヤバ過ぎる……
襲い掛かってきたジガーは、盾に強くぶつかって、ちょっと怯んでいる。
今の内に逃げないと!
私はすぐさま身体強化3倍を発動させ、走りました。
ガアァァ ゴアァァ グアァァ
全力で走る私を、ジガーの唸り声が3つ追い掛けてきている。
曲がり角が見えた!
その角を曲がった先には、仲間がいます。
「ジガーです! 3匹います!」
走りながら、曲がり角の向こうにいる仲間に向かって、大声で叫びました。
早く助けに来て!
・・・・・・
待機していたパーティメンバー。
「今『ジガー3匹』って聞こえたよね? さっき逃がした奴が、仲間を連れてきたのかも?」
「3匹って、ちょっとヤバくない?」
「そうだな。早く助けないと、サポーターが危ないぞ」
マセルの叫び声を聞いて、セレーヌ・セシル・シベルスターの3人は、助けにいこうと動き出す。
「まだよ。マセルの姿が見えるまで待つのよ」
しかし、シンディは3人を止めた。
「シンディ、大丈夫なのか? 早く助けに行った方がいいんじゃないか?」
「もう少しよ」
懐中電灯の明かりが見えた後、すぐにマセルが転がって壁にぶつかったのが見えた。
そのマセルに近付く影が3つ。
「今よ! 私が魔法で攻撃するわ」
シンディはそう言うと、魔法を発動させる。
炎の嵐
前方に激しい炎の渦が発生し、3つの影と一緒にマセルも炎に飲み込まれる。
「シンディさん…… 今の魔法に、マセルも巻き込まれたんじゃあ?」
ディアナが心配そうに尋ねたが
「そうね。でも、大丈夫よ」
シンディは気にする様子もなく、言い放った。
・・・・・・
ガアアァァ ゴアアァァ グアアァァ
後ろからジガーの唸り声が近付いてくる。
もう、すぐ側まで追い付かれてる?
気になるけど、後ろを振り返る余裕はありません。
前方に見える曲がり角── あそこを曲がれば、すぐに仲間が助けてくれる筈。
ドン!
後ろから体当たりを食らった!?
バランスを崩した私は、転んで壁にぶつかってしまいました。
痛たた…… って痛がってる場合じゃないです。早く立って逃げないと!
私が必死に起き上がろうとしていると、ジガー3匹の影がゆっくりと近付いてくるのが見えました。
絶体絶命のピンチ……
その時──
ゴオオオォォォ!
突然、地面から炎が上がった。
これって、シンディさんの『炎の嵐』ですね!
って、私もジガーと一緒に炎の渦に飲まれてますけど……
このままじゃあ焼け死んじゃう── って思ったけど、熱くない?
ジガー3匹は炎にパニックになっている。今なら逃げられます!
私は苦しんでいるジガーを尻目に、炎の渦から脱出しました。
「マセル、大丈夫なの?」
「ディアナさん、何とか大丈夫です」
「でも、炎に巻き込まれてたよね?」
「きっと、このローブのおかげです。シンディさん、ありがとうございます!」
「そのローブには『耐熱効果』が付与されているのよ。ジョディが『マセルにそれを着せて囮にすればいい』って言って貸してくれたわ」
私を囮にすればいい?
ジョディさん…… ちょっとモヤモヤする言い方だけど、助けられたんで素直に感謝しておきます。
「コイツら弱ってるぞ!」
「よーし! トドメだ!」
「やった! 仕留めたぞ!」
どうやら、ジガー3匹を倒せたようです。
「どう? 私の作戦通り、うまくいったでしょ?」
「ああ。シンディの作戦が当たったな」
「これから先も、マセルには偵察を頑張ってもらおう」
今のはうまくいった、と言っていいの?
ジガーにもっと早く追い付かれてたら、絶対に只じゃ済んでませんでしたよ。
これじゃあ、命がいくつあっても足りません。
「シンディさん。僕、偵察はもうしたくないです」
思い切って言ってみました。
「どうして?」
どうして── って、危険だからやりたくないんですけど……
「それじゃあ、私がマセルと代わるよ」
えっ? ディアナさんが偵察をするって?
ダメですよ! 危険です!
そりゃ、私も代わって欲しいけど…… ディアナさんを危険な目に合わせるわけにはいかないです。
「ダメよ。偵察はマセルの役目よ」
「シンディさん、どうして? 私じゃ、偵察は無理なんですか?」
「違うわ。マセルに迷宮の地図作りを任せられないからよ。マセルは迷宮地図の書き方を知らないわ」
「そうなの? マセルはホントに迷宮地図の書き方を知らないのかい?」
地図の書き方って、適当に通路を書けばいいんじゃないんですか? それくらい、私にだってできますよ。
「こんな風に書くんだよ」
ディアナさんの書いた地図を見せてもらうと
嘘っ!?
ディアナさんの地図は、私が思っていた以上に細かく書かれていました。
通路の方向や距離はもちろん、目印になりそうな物の情報なんかも詳しく書かれています。
「マセル、あなたにこれくらいの地図が書けるかしら?」
「む、無理です……」
私には、今歩いている方向も怪しいです。
「マセルは迷宮地図の書き方を教わってないの?」
「教わってないです」
「そうなんだ。魔法戦闘武術科じゃ、1回生のときに教えてもらったよ」
魔法戦闘武術科には、地図の書き方を教えてくれる専門の先生までいるそうです。
戦闘魔法技能科はベンプス先生しかいないので、2回生になってから書き方の基礎だけ教わって、後は自分で勉強するそうです。
「わかったかしら。だからマセルには囮…… 偵察を任せることにしたのよ」
今、囮って言いましたよね。やっぱり私は『囮』なんですね……
「わかりました…… 僕は偵察を頑張ります」
何か自分がものすごく無力に感じるよ。
・・・・・・
先行偵察していると、怪しい扉のある部屋の前に出ました。
もしかしてボス部屋!?
でも、ここは主道から外れた場所だし、調査隊の足跡もないですね。
とりあえず報告に戻るとしましょう。
そう思って引き返そうとしたとき、
ゴゴゴ……
背後で扉の開く音が!?
まさか、中から魔物が出てきた?
慌てて振り返ると、扉が少し開いていて、奥から青白い光が見えます。
暫く様子を見ていたけど、魔物は出てきません。
あの光―― 何だろう? いったい中に何があるの?
私は光が気になって、扉に近付くことにしました。
部屋の中を覗くと、正面に石碑のような物があります。そして、その石碑が光を放っていました。
ヤバい…… きっとアレには神聖文字が書かれてるよ。
下手に読むと死ぬかもしれないから、石碑から目をそらして端の方を見ると
水飲み場がありました!
ピカピカ光って落ち着かない場所だけど、ここで休憩するのが良さそうですね。
私は皆を呼びに戻ることにしました。