第80話 迷宮探索3日目
ね、眠い……
昨日は結局、私1人で朝まで見張りをすることになりました。
2人なら、少しは心に余裕を持てたと思うけど、1人だったから魔物がいつ現れるか心配で、ずっと緊張してました。
それなのに──
「後ろ、遅れてるぞ! 急げよ!」
前から、私を怒鳴る声が聞こえてきたけど…… どう考えても理不尽だよ!
シベルスターさんは、見張りをしないで、朝までぐっすり寝てたから、そりゃ元気ですよね。
私は寝不足な上に、重い荷物まで背負ってるんだよ…… ちょっとくらい遅れても仕方ないよね!
「どうしたんだい、マセル? 元気ないね」
「寝不足でちょっと疲れてるんです……」
「そっか。マセル1人で、朝まで見張りをしてたからだよね」
ディアナさんは、私の『寝不足の原因』をわかってくれています。だったら、今の内に頼んでおこう。
「ディアナさん。今夜の見張りは、僕を最初にしてください!」
最後だったら、絶対にまた同じ目に合います。最初なら、時間になったら交代できるから、見張りの時間だけ頑張ったらいいだけです。
「マセルは、どうしても最初に見張りがしたいのかい?」
「そうです! どうしても最初に見張りがしたいんです!」
ここは弱気を見せたらダメ。強気で押さないと。
「そっか…… そこまで強く言うなら、マセルの望み通りにしてあげるよ」
よし! これで今夜はぐっすり眠れるよ!
1つ心配事が解決して、ちょっと元気が回復したぞー。
「マセルは昨日頑張ってくれたから、皆と相談して、今日の見張りはなしにしてあげようって言ってたんだけど、そんなに見張りがしたかったのか」
ちょっと待ってください。そんな相談、いつしてたんですか?
もしかして、私…… いらんことを言ってしまった!?
「や、やっぱり僕、見張りは……」
見張りはしないでいいです
って言おうと思ったら、ディアナさんはもう前の方に移動して
「マセルが最初の見張りをやりたがってるんだけど、どうしようか?」
皆に聞いていました。
「そう。マセルがそんなに見張りをしたがってるなら、させてあげればいいわ」
今更、見張りをしたくない、とは言い出せなくなってしまったよ……
「マセル、皆からOKもらえたよ。良かったね…… って、どうしたんだい? さっきより元気なくなってるみたいだよ?」
「いえ…… 大丈夫です……」
自業自得なんで、文句も言えないよ。
私のテンションが下がりまくりなのをよそに、迷宮探索は順調に進んでいくのでした。
・・・・・・
「この扉の向こうが、第10階層のボス部屋だな」
その扉は、私が今まで訪れた迷宮で見た『ゴーレムが配置されていた部屋』の扉にそっくり── 中には、危険な魔物がいる筈です。
「大丈夫よ。この部屋にも調査隊の足跡は続いているわ。魔物はもう倒されている筈よ」
「そうね。調査隊が通った後なら、魔物はいないわね」
「これで僕らは、久しぶりの第11階層到達パーティだね」
初めての遠征で、第10階層まで到達できるパーティは年に2~3組だそうです。更に第11階層まで到達できたパーティは、ここ8年程出ていないという話です。
3回生の皆さんは完全に安心しきっているけど、この部屋には本当に魔物はいないんですか?
もし、強い魔物が出てきたら……
私が緊張でドキドキしていると
「じゃあ、扉を開けるよ!」
ディアナさんは、あっさりと扉の横のボタンを押してしまいました。
ガガガガガガ……
「思った通り、中はもぬけの殻だな。リーダー、今日はこの部屋で朝まで待たないか」
「私もそれがいいと思うわ。ここなら扉があるから、魔物に襲われる心配もないわ」
珍しく、シンディさんがシベルスターさんの意見に同調しました。
「もうすぐ午後8時か…… そうだね、今日はここで寝ることにしよう」
このボス部屋で、明日の朝まで待つことに決まったけど、この部屋の魔物のことが心配です。
「あの、シンディさん……」
「マセル、何かしら?」
「この部屋の魔物も、復活してくるんじゃないですか?」
迷宮のゴーレムは時間で復活するそうだし、この部屋の魔物も復活してくるんじゃないですか?
「マセル、あなたは何を当たり前のことを聞いてるのかしら? そんなの、復活するに決まってるでしょ?」
やっぱり復活するんですか!?
それなら、この部屋にいるのも危険ですよね?
「もし、皆が寝てるときに魔物が復活したら、私達全滅するんじゃ……」
「その心配はないわ」
シンディさんの説明によると、迷宮では階層毎の魔物の数が一定に保たれているそうです。
魔物が倒されると、4~5時間で迷宮が魔物を回収して、新たに同種の魔物が2日後に生み出される、という仕組みになっていることが、長年の迷宮研究の成果でわかっているんだとか。
そしてボス部屋の魔物の場合は、再生に大きな魔力が必要なようで、復活までに6日は掛かるということです。
「でも、調査隊はいつから迷宮に入ってるんだろう?」
「調査隊が迷宮に入ってきたのは、私達より後の筈よ。私達が迷宮に入ったときには、入り口には調査隊の足跡はなかったわ」
シンディさん、流石です! 私は入り口に足跡があったかどうかなんて、全然気にしてなかったし覚えてませんよ。
冒険者になるには、そういった注意力も必要になるんだ。参考にします。
とりあえず、この部屋の魔物は大丈夫みたいだから、今日はゆっくりと眠れそうです。
・・・・・・
迷宮探索3日目──
現在、私達がいるのは第13階層です。
この階層に入ってから、私達の進行速度は目に見えて遅くなっています。
「ジガーがいるぞ。皆、気を付けろ」
ジガー── 黒ヒョウのような見た目で、俊敏でしなやかな身のこなしをする魔物です。
その鋭い爪と牙の攻撃を、前衛のシベルスターさんが盾で防ぎ、横からセシルさんが槍で攻撃。シンディさんは、後方から魔法で援護。
傷を負わしたものの、ジガーは逃走してしまいました。
「くそっ、仕留め損ねた」
「逃げられたね……」
「困ったわね。仲間を呼ばれたら厄介だわ」
魔物との遭遇回数が増えてきました。
調査隊の足跡があるのに魔物がでてきている── ということは、調査隊がこの階層を通ってから2日以上経っている、ということです。
「これから先は、3人だけで戦うのは難しいわ」
「シンディの言う通りだ。4人で連携を取らないと厳しいな」
「じゃあ、姉さんにも戦闘に参加してもらうしかないね」
「それじゃあ、地図作りはどうするのよ? いくら私でも、戦いながら地図作りはできないわよ」
4人がどうするか考え込んでいます。
暫く経って、シンディさんが口を開きました。
「この際、仕方ないわね…… サポーターにも手伝ってもらうわ」
「シンディ。流石にそれはダメだろ!?」
「減点させられるよ」
「減点は仕方ないわ。でも、せっかく第13階層まで来たんだし、この階層の探索までは終わらせたいと思わない?」
3回生の皆さんは全員頷いています。結論が出たみたいです。
「リーダーに地図作りを頼んでもいいかしら?」
「私は構わないけど、マセルには頼まないんですか?」
「マセルには他のことを頼むわ」
『他のこと』って、いったい何をさせる気なんですか? 嫌な予感がする……
「マセルには、偵察を任せるわ」
「偵察ですか?」
「マセルは『見張りをしたい』って言ってたわね。マセルには先に行ってもらって、魔物を見つけたら報告するだけだから、やることは見張りと同じようなものよ」
全然違うと思いますけど……
「心配しないで。キミは戦わなくていいから」
「そうだ。お前は魔物を見つけたら、引き付けながら俺達の方へ逃げればいいだけだ」
「そして、魔物は僕らが倒すから」
それって、絶対に『囮』ですよね!?




