第76話 サポーターは目指してません
「シンディさん、何をしてるんですか?」
迷宮に入って暫くした頃、シンディさんがノートのような物に、何かを書いていることに気付きました。
「地図を作ってるのよ」
「地図を作る? って、地図を用意してないんですか?」
いつも準備万端のシンディさんが、この迷宮の地図を用意してないなんて、信じられないです。
「マセルは何も知らないんだね。遠征には、迷宮の地図は持ち込み禁止なんだよ」
ディアナさんが会話に加わってきました。
「えっ? どうしてですか?」
「地図作りが、遠征の課題なんだよ」
「そう。迷宮の地図作りは、遠征の評価を決める重要な課題なのよ」
遠征って、只5日間迷宮内で過ごすだけだと思ってたら、そんな課題もあったんだ。
「マセルもサポーターを目指すなら、地図作りは経験しといた方がいいよ」
「そうね。荷物運びに加えて地図作りの能力が高ければ、それだけでサポーターとして重宝されるわね」
いいえ、私サポーターは目指してないんですけど…… できれば普通の冒険者になりたいんです。
でも、迷宮の地図作りは、冒険者にとっても重要な仕事だから、学生の内から経験しておくのは良いことですね。
「ところで、今回の遠征では何階層まで行く予定なんですか?」
「特に決めてないけど、10階層まで行けたら高評価がもらえるらしいから、最低でも10階層までは行くつもりよ」
「このパーティなら大丈夫だよ。10階層どころか15階層くらいまで行けるんじゃないかな?」
遠征の評価は『何階層まで行けたか』と『地図の出来』で決まる。
だったら、今回迷宮の構造を覚えておけば、私が3回生になって遠征に来たときに、すごい記録を狙えるかも── なんて思い付きました。
「過去最高記録は何階層まで行ってるんですか?」
「確か学院最高記録は、35階層だった筈よ」
35階層!? 想像以上にトンでもない記録でした。とてもじゃないけど、そんな記録は狙えないよ…… よくそんなに潜れた学生がいたもんだよ。
「『戦慄の剣姫』と『究極のサポーター』と『もう1人』の3人パーティが達成した、って記録帳に残っていたけど、『もう1人』って誰なんだろうね?」
そのパーティって、神官長と『紅蓮の魔女』のパーティのことですよ!
『究極のサポーター』は絶対におまけだと思うのに、『紅蓮の魔女』が『もう1人』扱いなの!?
『紅蓮の魔女』の記録は抹消されている──
そう聞いてたけど、本当に記録に残されていないんだ……
紅蓮の魔女── 記録から消された伝説の魔道士か。1度会って見たいなぁ。
・・・・・・
迷宮に入って約1時間──
「地図作りをシンディさん1人でするのは大変じゃないですか?」
「1~2階層は、私は戦闘に参加しないで地図作りに専念することになってるの。それから先は、ジャンケンで決めるわ」
道理でさっきから前の3人が魔物と戦ってるのに、シンディさんが戦闘に参加してなかったわけです。
「どりゃっ!」
「うわっ!?」
「きもっ!?」
私達が話しながら歩いている間にも、前方では魔物との戦闘が発生していました。
「よし! 倒したぞ!」
でも、すぐに戦闘は終了したようです。
「サポーター、コイツを運んでくれ!」
シベルスターさんに呼ばれたんで前へ行くと、体長50cm程もある大きな芋虫が、全身から緑色の血を流して横たわっています。
ピクピクと痙攣していて、とてつもなく気色悪い……
「こ、これを運ぶんですか?」
こんなの運んでどうするつもりですか?
「そうだ! コイツは俺達の昼食だぞ!」
ウゲェ…… これを皆で食べるって、冗談でしょ?
「私は食べないわ」
「私もいらないわ」
「僕も同じく」
「私もいらないよ」
シベルスターさん以外は、私と同じで食べる気はなさそうです。
「ちょっと苦いが、栄養満点で癖になる味なんだぞ! マセルは食べるよな!?」
シベルスターさんは、これを食べたことがあるんですか!? 私は、見ただけで食欲が失くなりますよ。
シベルスターさんに睨まれながらも、私は全力で首を横に振って否定しました。
「本当にいらないのか? 仕方ないな…… 勿体無いが、俺の分だけ切り取るか」
シベルスターさんは、剣で大芋虫を細かく切り取ると、私に渡してきます。
正直受け取りたくなかったけど、リュックからビニール袋を取り出し、芋虫の細切れを袋に詰めてリュックに入れました。
昨日リュックの中を確認しておいてよかった。ビニール袋の存在を知らなかったら、直接触って、汁まみれになるところでしたよ。
「マセル、シベルスターがリーダーだったら、無理やりあの『ゲテモノ』を食べさせられるところだったわよ」
シンディさんの言葉で、私は全てを悟りました。皆があれほどシベルスターさんをリーダーにしたくなかった理由を!
「でも、5日も迷宮で過ごすとなると、水と食料はどうするんです?」
「この迷宮には、湧き水の出る場所があるのよ。食料は…… 虫系の魔物は嫌ね。特に【大芋虫】は絶対にごめんだわ」
水は何とかなりそうだけど、やっぱり食料は魔物なんですね…… 私も虫系は避けたいけど、他の魔物が美味しいとは限らないのが怖いです。
・・・・・・
迷宮に潜って、そろそろ2時間が経ちます。
私達の目の前には、ビッシリと文字の書かれた壁が広がっていました。
「ここに書かれているのは神聖文字だぞ。伝承では、この迷宮を作った神の使いが、これを記したそうだ」
「シベルスター、それで何が書いてあるのかしら?」
「わからん。王宮の神聖文字研究家ですら殆んど解読できていないものを、俺にわかるわけがない」
「私が聞いた話だと、この迷宮の成り立ちが記されてる、っていうことだけど、どんなことが書いてあるのかな? マセルなら読めるんじゃない?」
ディアナさんにそう言われたけど、私は神聖文字が恐ろしいということを知っているから、読む気はありませんでした。
ところが、チラッと目にした文が気になったんで、ちょっとだけ読んでしまいました。
そこに書いてあったのは、迷宮の成り立ちどころか──
『俺を騙して、こんな迷宮を作らせたあの詐欺野郎め! 何が別の星から来ただ!? 今度会ったらアレを切り落として、その口に糞と一緒にアレを突っ込んでやって……』
読むに堪えられない汚い言葉の連続に、それ以上読むのは止めたけど、『別の星から来た』という文が気になります。
大昔、宇宙人がこのムセリットにやって来たのかな? それとも、私みたいな転生者の可能性もある。
でも、何のために迷宮を作ったんだろう?
「マセル、あなたここに書いてあることがわかるの?」
「い、いいえ! 僕には読めませんよ」
とにかく誤魔化しておかないと、今後も読まさせられる恐れがあります。
もし、呪いの文字を読んでしまったら……
絶対に読まないようにしないと!




